ロバート・アーサー『ロバート・アーサー自選傑作集 ガラスの橋』(扶桑社ミステリー) - 探偵小説三昧
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ロバート・アーサー『ロバート・アーサー自選傑作集 ガラスの橋』(扶桑社ミステリー)

 『ロバート・アーサー自選傑作集 ガラスの橋』を読む。ロバート・アーサーといえば短篇の名手として知られているアメリカの作家で、古くは「新青年」や「EQMM」、「宝石」等にも短編が掲載されてはいるが、実際、管理人も含めて読んだことがあるのは「五十一番目の密室」と「ガラスの橋」ぐらいという人も多いだろう。
 本書はそんな知っているようで知らない作家、ロバート・アーサーの日本初の短篇集である。

 ガラスの橋
▲ロバート・アーサー『ロバート・アーサー自選傑作集 幽霊を信じますか?』(扶桑社ミステリー)【amazon

Mr. Manning's Money Tree「マニング氏の金の木」
Larceny and Old Lace「極悪と老嬢」
Midnight Visitor(別題:Midnight Visit)「真夜中の訪問者」
The Blow from Heaven(別題The Devil Knife)「天からの一撃」
The Glass Bridge「ガラスの橋」
Change of Adress「住所変更」
The Vanishing Passenger「消えた乗客」
Hard Case「非常な男」
The Adventure of the Single Footprint「一つの足跡の冒険」
Case of the Murderous Mice「三匹の盲(めしい)ネズミの謎」

 収録作は以上。不可能犯罪ものから奇妙な味、ジュヴナイルにいたるまで幅広い内容の作品が揃っているが、全体的にはコミカルかつ洒脱なテイストでまとめられている。時代的にはちょっと古い作家なので、中には先が読めるような話や雑な話もあったが、総じて楽しめる短篇ばかりである。やはり真価はまとめて読まないことにはわからないものだ。
 実はこの「コミカルかつ洒脱な」テイストがけっこう重要だと思っていて、ロバート・アーサーはどちらかというと日本では謎解き系の作家と紹介されることが多いと思うが、いざ読むとオチを効かせたクライムストーリーだったり、トリックを盛り込んだコントみたいな作品があったり、一歩間違えばバカバカしいネタの多い作家でもある。そういったミステリ的な面白さを読者に伝えるために、その仕掛け以上に、表現や描写においても実はかなり気を使っているように思えたのだ。
 それは、いかにもアメリカンポップカルチャーとでもいうような味付け、すっと一般大衆に届く「コミカルかつ洒脱な」テイストなのである。この絶妙な匙加減によって仕掛けがストーリーにしっくりと馴染み、作品をより魅力的に見せてくれている。もちろん管理人の勝手な想像なので、著者がたまたまこういう作風だった可能性もあるけれど。

 個人的にはクライムストーリー系に印象的なものが多くあったけれど、さすが自選集だけあってどの作品も面白い。冒頭の三作ほど紹介してみよう。
 「マニング氏の金の木」は、銀行の金を着服して、他人の家の木の下に隠した男が主人公。やがて服役をすませた男だが、木はすでに大木となっており、簡単には掘り返せない。そこで男は近所に住み始め、その機会をうかがうのだが……。男の半生をコンパクトにまとめる手木宇和もよく、内容も面白い。どこかで読んだようなネタなのだけれど、もしかするとこれが元祖なのかもしれない。
 「極悪と老嬢」もいい。甥の残した屋敷に引っ越そうとやってきた老嬢二人が、その屋敷を狙うギャングたちをこれまで読んだミステリの知識で迎え撃つというもの。知らなかったが日本で舞台にもなっているらしい(なんと黒柳徹子主演!)。
 「真夜中の訪問者」はシリアスに見せかけておいて、どう考えてもコント(笑)。他にもクライムストーリー系では「住所変更」、「非常な男」も切れ味抜群。

 とりあえず満足の一冊。ジャック・リッチーとかリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクあたりが好きな人なら、本書は間違いなくおすすめである。
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Comments

Edit

fontankaさん

確かに扶桑社は、ある時は売り上げ優先、またある時はマニア優先、メリハリを効かせたラインナップで好感が持てますね。
ロバート・アーサー、どうぞごゆっくりお楽しみください。

Posted at 21:28 on 10 03, 2023  by sugata

Edit

扶桑社は時々「やってくれる」ですよね。
このタイトルで、(既読作品の有無とかもう確認せずに)購入。
大切に読んでいます。

Posted at 21:17 on 10 03, 2023  by fontanka

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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