ミシェル・ビュッシ『恐るべき太陽』(集英社文庫) - 探偵小説三昧
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ミシェル・ビュッシ『恐るべき太陽』(集英社文庫)

 ミシェル・ビュッシの『恐るべき太陽』を読む。恥ずかしながらこれが初ビュッシで、傑作と評される『彼女のいない飛行機』や『黒い睡蓮』も買ってはいるが絶賛積ん読中である。まずはそちらから消化しようとも思ったのだが、本作の帯にある「クリスティーへの挑戦作!」というキャッチ、そしてそれが『そして誰もいなくなった』への挑戦であることは知っていたので、ついつい本作から読んだ次第である。

 こんな話。南太平洋の仏領ポリネシアにあるヒバオア島。それは画家ゴーギャンや歌手ブレルが愛したことでも知られる楽園でもあった。そこに集まってきたのはベストセラー作家のPYFことピエール=イヴ・フランソワと、彼が開催する《創作アトリエ》の生徒として選ばれた五人の女性たち。彼女たちはペンション《恐るべき太陽》荘に二泊三日の予定で滞在しながら、実践的な創作講座を受けることになっていた。
 ところが課題を出したままPYFは失踪し、受講生の一人である人気ブロガーが何者かの手によって殺害されてしまう。だが殺人はそれで終わりではなかった……。

 恐るべき太陽

 よくここまで複雑なミステリが書けるものだ。とにかくその力技に恐れいってしまった。
 『そして誰もいなくなった』へのオマージュだと思っていたら、実はそれだけでなく、また別のクリスティ作品への挑戦にもなっている。もちろんそこに感心もするのだが、クリスティ云々は傍に置いておいて、単純にミステリの出来だけみても非常に巧みな構成で、周到な準備のもとに書かれていることがわかる。
 とにかく読者を撹乱させる要素が多い。連続殺人の謎、それに作家の存在はどう関わるのか、過去に起こったある殺人事件はどんな関係があるのか、五人の受講者たちの関係はどうなのか。錯綜するこれらの謎にきっちり落とし前をつけ、ラストですべての謎を氷解させるのは、あっぱれとしか言いようがない。

 ただ欲をいうと、これだけ凝りすぎる、どうしても不自然なところもけっこう出てくるし、裏も読みやすくなってくる。そもそも語り手がコロコロ変わる内容なので、ミステリにちょっと詳しい人なら、これをまともに受け止めることはできない。
 いや、ミステリに詳しくなくても、おそらく第二部あたりでいろいろと違和感を感じるはずで、その違和感の理由にさえ気がつけば、著者の企みにも気がつくはずだ。まあ全部を解くのは無理としても、かなり重要な部分であることは確かである。幸か不幸か、管理人もなぜか本作の仕掛けにはすぐに気がついてしまったため、ラストのサプライズはそれほどでもなかったのが残念。
 ついでにもう一つ気になった点を挙げておくと、エピローグのロマンスはそれこそ何の伏線もなかったので、唐突感しかなかった。

 とまあ、そういう幾つかの荒っぽい点もあるのだが、決して本作の魅力が薄れることはない。ラストまで面白く読めることは間違いないし、万人向けの傑作ミステリといえるだろう。
 それにしても、今年はなぜか『そして誰もいなくなった』へのオマージュ作品が多いなぁ。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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