梶龍雄『葉山宝石館の惨劇』(徳間文庫) - 探偵小説三昧
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梶龍雄『葉山宝石館の惨劇』(徳間文庫)

 梶龍雄の『葉山宝石館の惨劇』を読む。「トクマの特選!」で先ごろ、復刊されたばかりの一冊。まずはストーリーから。

 かつては勘当同然の身だった帆村財閥の異端児、帆村建夫。その彼が財産を受け継ぎ、葉山に作ったのが趣味の生かした宝石館だった。博物館以外にもゲストハウスなどを揃えたその宝石館に、五人の男が招待された。迎えるは建夫の娘、長女の光枝と次女の伊津子の二人。しかし、招待客のうち伊津子の恋人以外は、みな光枝の結婚候補者であり、しかもそれを面白く思わない伊津子が場を掻き回すため、どうにも不穏な空気が漂っていた。
 そんなとき、警備を請け負っていた探偵の萩原が殺害される。現場からは宝石館のコレクションである中世の凶器となるものが多数盗まれ、しかも萩原はその中の一つで殺されていたのだ。さらに現場は密室といってよい状況だった。
 てんやわんやの宝石館。しかし、そんな状況を隣家から興味深そうに眺める少年がいた……。

 葉山宝石館の惨劇

 梶龍雄の傑作といえば、初期に集中しているというのが一般的な見方で、例外は『清里高原殺人別荘』ぐらいだと思っていたのだが、本作もなかなか面白い。
 とにかく事件全体の構図がミソだ。一見すると館の連続密室殺人という趣向が前面に出るため、どうしても注目するのはアリバイや密室のトリックになってしまう。しかし、蓋を開けるとそれらミステリの看板といえるようなアイデアすらが、実はメイントリックのダシでしかなかったという、この快感。このテクニックは『清里高原殺人別荘』にも通じるもので、本格を追求した著者ならではの、後期の成果だろう。まあ、人によっては腰砕けだという人がいるかもしれないが、いやいや、この捻り具合は十分評価してよいだろう。
 むしろ本作の場合、伏線がけっこうマメに貼ってあることのほうが気になった。ちょっと親切すぎるというか、注意深く読むと、実はある程度のところまでは見抜くことも可能である。

 本作のもう一つ大きな特徴として、少年の日記が随所に挿入されているところがある。少年の泊まっている隣家は、斜面上のより高い地所に建っているため、宝石館を事件関係者に気づかれずに眺めることができるのである。少年の目撃したものがどう事件解決に生かされるのか、これもまた読みどころといえるだろう。

 一つ注文をつけるとすれば、コミカルな味付けがどうにもバランスが悪い。ネタや設定がけっこう暗いのだから、全体的なタッチや雰囲気は、せめて普通にいけなかったのだろうか。少年の日記も地の文がシリアスなほど効果的だと思うのだが、コミカルな方に引っ張られている感じである。
 そこさえ気にしなければ十分な佳作といえるだろう。後期作品でもこれだけのネタを仕掛けてくるのは流石としか言いようがない。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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