杉全美帆子『イラストで読む奇想の画家たち』(河出書房新社) - 探偵小説三昧
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杉全美帆子『イラストで読む奇想の画家たち』(河出書房新社)

 隣駅内にある書店を覗いたら河出書房新社の何周年だかのフェアをやっていた。壁一面、本棚にして四台分ぐらいはあっただろうか。そこに河出書房新社の本ばかりがずらりと並ぶ光景は意外と新鮮で、応援というわけでもないけれど、ついつい一冊ぐらいは買ってあげようという気持ちになるから不思議である。

 そこで選んだのが、杉全美帆子『イラストで読む奇想の画家たち』。西洋の美術、特に絵画の意味などを解釈する本がこの二十年ほどで定着した感があるけれど、本書もそんな一冊だろう。
 どうやら同じ著者のシリーズの一冊のようで、毎回、ルネサンスとか印象派とかギリシャ神話だとかテーマがあり、それに沿って自らもイラストをふんだんに描き、絵画のポイントや作品にまつわるエピソードなどを楽しく解説する本である。

 イラストで読む奇想の画家たち

 とりあえず息抜きのようなつもりで読んだのだが、これがけっこう軽妙な見せ方と解説で面白い一冊であった。
 こちらが美術に関してそれほど知識がないこともあって勉強にもなる。まあ、著者と版元が狙ったとおりの理想的な読者ということになるだろう(笑)。内容的には入門書やガイドブックの一種という見方もできるわけで、そういう意味での作り方もなかなか上手く、類書をいろいろ読んだわけではないけれども、これは上等の部類ではないだろうか。
 ちょっとだけ残念だったのは、細部へのこだわりがどの作品も凄いため、もう少し絵を大きく見せてほしかったところ。たくさん見せたいという気持ちもあったのだろうが、全体的に小さい図版が多くて、やや見づらいのが気になった。そこは今後の課題にしていただければ。

 取り上げている画家は七名。ヒエロニムス・ボス、アルブレヒト・デューラー、カラヴァッジョ、フランシスコ・デ・ゴヤ、ウィリアム・ブレイク、オディロン・ルドン、アンリ・ルソーである。ダークなアイデアに富んだ作品を多く残した画家たちばかりで、もちろん作品解説は楽しいが、その時代における位置付けなども門外漢にわかるよう解説されていて嬉しい。
 個人的にはヒエロニムス・ボスにまず惹かれる。あのマイクル・コナリーが書いているボッシュ・シリーズの名前は、まさしくこのボスから採られているのだが(初期作品ではけっこう言及が多い)、それを抜きにしても『快楽の園』のカオスっぷりは尋常ではなく面白い。一体この絵の中に幾つの金妙なドラマが描かれているのだろう。この各エピソードを連作の幻想小説にすると非常に面白いかもしれないが、おそらく誰かがやっていそうな気がする。
 ついでにもう一つミステリ関係で挙げておくと、トマス・ハリスが書いた『レッド・ドラゴン』で言及される『大いなる赤い龍と太陽をまとう女』はウィリアム・ブレイクの作品。確か文庫のカバー絵にも使われていたはずである。

 とまあ、無理やりミステリとの関係で語る本でもないのだが(苦笑)、これも話の種ということで。とりあえずはミステリや幻想小説好きにもおすすめの一冊。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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