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メアリー・スチュアート『霧の島のかがり火』(論創海外ミステリ)
メアリー・スチュアートの『霧の島のかがり火』を読む。論創海外ミステリの一冊だがいつの間にか刊行ペースに100巻ほど離されるという体たらくである。日記を遡ると2005年から読み始めているのだが、それ以来、多少のばらつきはあるにせよ月一ぐらいは維持しているのだが、まあ皆様ご存知のとおり、論創海外ミステリは多いときで月三冊出ていた時期もあるので、それではまったく追いつかないのが当然なのである。
いろいろ読破計画の課題を設けてはいるが、論創海外ミステリはもっとペースアップしなければなあ。あ、論創ミステリ叢書もあるんだった。
それはともかく。『霧の島のかがり火』だが、こんな話。
ファッション・モデルのジアネッタは、作家である夫のニコラスと離婚したものの、なかなか心の傷が癒えず、そんなとき両親からから勧められたスコットランド北西部にあるスカイ島へ旅行することにする。ブラーヴェンをはじめとする険しい山岳地で、ホテルの客の大多数は登山か釣りが目的だった。
少々、場違いな感じもあったが、同じく慰労に来ていた女優のマーシャとも知り合い、落ち着けるかと思った矢先、別れた夫が姿を現し、おまけに2週間前、山で殺人事件があったがいまだに犯人が見つかっていないことを知る。しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった……。
メアリー・スチュアートの作品は初めて読むが、本国では有名なロマンチック・サスペンスの書き手である。管理人が苦手なHIBK派の流れを汲む作家かと、読む前には少し構えていたのだが、これがどうして、意外に本格ミステリとしても読ませる一作であった。
解説でも触れられているが、ロマンス小説とミステリの融合がロマンチック・サスペンスだとしても、そのロマンス成分とミステリ成分の配合にもいろいろあるわけで、本作に関していえばかなり本格ミステリ成分が多めというか、実際、知らずに読めば中盤までは、いわゆる「嵐の山荘」ならぬ「霧の山荘」のバリエーションかと思うほどで、落ち着いた展開の中にもじわじわとサスペンスを高めていく感じが心地よい。
この手の作品に得てして多いのが、叫んでばかりの感情的な登場人物(特にヒロイン)であったり、作者の変なルールに縛られているのか、どう考えても納得いかない不合意な行動ばかりとる登場人物(特にヒロイン)だったりするのだが、本作はほぼそういうくだらないキャラ設定もなく、まずまず自立したヒロインが主人公で、そこも好感がもてる。
本格ミステリとしても予想以上にしっかりしており、手掛かりの使い方なども大技とはいかないが、十分にフェアだ。
もっとも感心したのは、自然描写や登山という味付けが実に効果的なところである。雰囲気作りにとどまらず、それがストーリーにもしっかりと絡んでくる。
もうひとつある。本書が発表されたのは1956年だが、作品内では1953年の設定である。実はこの年の6月1日、イギリスではエリザベス女王が戴冠式を行った年であり、何とその三日前にはイギリスの登山隊が世界初のエベレスト登頂に成功しているのである。ヒロインは戴冠式に沸くロンドンの喧騒が嫌なこともあってスコットランドに来たという導入なのだが、もうひとつエベレストの登頂についてもホテルの登山家たちが話題にしている。この辺りも背景説明だけでなく、きちんとストーリーを補足する役目もあったり、実に手慣れたものである。
ストーリーも前半は本格ミステリ風ながら、後半ではサスペンスやアクションで一気にテンポを上げるところもなかなか。ただ、同時に中盤以降はややロマンス臭が強くなってくるのが気になるところである(特にヒロインの恋愛についてはちょっとトホホな感じ)。まあ、それぐらいは目を瞑ろう。
すごい作品ではないけれど、ロマンチック・サスペンスの教科書みたいな感じである。読者が楽しむことにさまざまな工夫を凝らしている姿勢がいい。ともあれ予想以上に楽しめる作品だったので、本書以降に同じく論創海外ミステリで刊行された作品も期待できそうだ。
いろいろ読破計画の課題を設けてはいるが、論創海外ミステリはもっとペースアップしなければなあ。あ、論創ミステリ叢書もあるんだった。
それはともかく。『霧の島のかがり火』だが、こんな話。
ファッション・モデルのジアネッタは、作家である夫のニコラスと離婚したものの、なかなか心の傷が癒えず、そんなとき両親からから勧められたスコットランド北西部にあるスカイ島へ旅行することにする。ブラーヴェンをはじめとする険しい山岳地で、ホテルの客の大多数は登山か釣りが目的だった。
少々、場違いな感じもあったが、同じく慰労に来ていた女優のマーシャとも知り合い、落ち着けるかと思った矢先、別れた夫が姿を現し、おまけに2週間前、山で殺人事件があったがいまだに犯人が見つかっていないことを知る。しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった……。
メアリー・スチュアートの作品は初めて読むが、本国では有名なロマンチック・サスペンスの書き手である。管理人が苦手なHIBK派の流れを汲む作家かと、読む前には少し構えていたのだが、これがどうして、意外に本格ミステリとしても読ませる一作であった。
解説でも触れられているが、ロマンス小説とミステリの融合がロマンチック・サスペンスだとしても、そのロマンス成分とミステリ成分の配合にもいろいろあるわけで、本作に関していえばかなり本格ミステリ成分が多めというか、実際、知らずに読めば中盤までは、いわゆる「嵐の山荘」ならぬ「霧の山荘」のバリエーションかと思うほどで、落ち着いた展開の中にもじわじわとサスペンスを高めていく感じが心地よい。
この手の作品に得てして多いのが、叫んでばかりの感情的な登場人物(特にヒロイン)であったり、作者の変なルールに縛られているのか、どう考えても納得いかない不合意な行動ばかりとる登場人物(特にヒロイン)だったりするのだが、本作はほぼそういうくだらないキャラ設定もなく、まずまず自立したヒロインが主人公で、そこも好感がもてる。
本格ミステリとしても予想以上にしっかりしており、手掛かりの使い方なども大技とはいかないが、十分にフェアだ。
もっとも感心したのは、自然描写や登山という味付けが実に効果的なところである。雰囲気作りにとどまらず、それがストーリーにもしっかりと絡んでくる。
もうひとつある。本書が発表されたのは1956年だが、作品内では1953年の設定である。実はこの年の6月1日、イギリスではエリザベス女王が戴冠式を行った年であり、何とその三日前にはイギリスの登山隊が世界初のエベレスト登頂に成功しているのである。ヒロインは戴冠式に沸くロンドンの喧騒が嫌なこともあってスコットランドに来たという導入なのだが、もうひとつエベレストの登頂についてもホテルの登山家たちが話題にしている。この辺りも背景説明だけでなく、きちんとストーリーを補足する役目もあったり、実に手慣れたものである。
ストーリーも前半は本格ミステリ風ながら、後半ではサスペンスやアクションで一気にテンポを上げるところもなかなか。ただ、同時に中盤以降はややロマンス臭が強くなってくるのが気になるところである(特にヒロインの恋愛についてはちょっとトホホな感じ)。まあ、それぐらいは目を瞑ろう。
すごい作品ではないけれど、ロマンチック・サスペンスの教科書みたいな感じである。読者が楽しむことにさまざまな工夫を凝らしている姿勢がいい。ともあれ予想以上に楽しめる作品だったので、本書以降に同じく論創海外ミステリで刊行された作品も期待できそうだ。
Comments
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お久しぶりです。
論創海外ミステリは、300冊近くなってますよね。
コロナにかかってから、気力が落ちてしまって
あと通勤が少なくなって、本を読む時間がない状態で
かなりペースがおちてきています。がんばらねば・・・です
Posted at 16:45 on 07 22, 2023 by fontanka
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三門優祐さん
苦手な作風だと思っていましたが、いざ読むとこれは悪くありません。ギリシャを舞台にした作品の評価が高いというのも面白いですね。
一応、邦訳はすべて揃えていますので、まずは論創の分から片付けようと思います。
Posted at 15:55 on 07 11, 2023 by sugata
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スチュアートのほかの作品
スチュアート作品の中では本作のほか、50年代末から60年代初頭のギリシャを舞台にした作品群の世評が高いようです。すべて翻訳があり、『銀の墓碑銘』(1959)、『クレタ島の夜は更けて』(1962)、『この荒々しい魔術』(1964)となります。手前味噌ながら、解説を書かせていただいた『銀の墓碑銘』は特にお勧めできます。
Posted at 11:29 on 07 11, 2023 by 三門優祐
fontankaさん
>論創海外ミステリは、300冊近くなってますよね。
そうですね、私も最近ペースが落ちてきて、100冊近く遅れています。
私も一線を退いてから通勤がなくなって、それで一気に読書時間が減った感じです。
夜は夜で老眼がネックですし、困ったものです(笑)。
コロナは後遺症もよく言われていますので、どうぞ無理なさらず。
お大事になさってください。
Posted at 22:07 on 07 22, 2023 by sugata