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ポール・ケイン『七つの裏切り』(扶桑社ミステリー)
ポール・ケインの『七つの裏切り』を読む。ウィリアム・F・ノーランやジョー・ゴアズ、ビル・プロンジーニといったハードボイルド界の大物たちが最もハードボイルドだと口を揃え、チャンドラーをしてウルトラ・ハードボイルドと言わしめた作家の短篇集である。作品数が少なく、唯一の長篇『裏切りの街』こそ文庫にもなっているが、これまで短編は雑誌やアンソロジーにしか掲載されておらず、我が国ではこれが初めての短篇集となる。
Black「名前はブラック」
Red 71「“71”クラブ」
Parlor Trick「パーラー・トリック」
One, Two, Three「ワン、ツー、スリー」
Murder Done in Blue「青の殺人」
Pigeon Blood「鳩の血」
Pineapple「パイナップルが爆発」
収録作は以上。本格ミステリほどではないけれど、ハードボイルドもその定義についてやいのやいの言われることがあるが、個人的にはまず文体、次にその内容ということになろう。具体的には、前者が心理描写のほとんどない簡潔で乾いた文体、後者では私立探偵やギャングといった冷酷非情でタフな人物たちが登場する物語といったところになる。といっても後者は結局なんでもよくて、別にミステリである必要すらない。もともとヘミングウェイが発祥という説もあるし、SFとりわけサイバーパンクとも相性が良い。早い話が解説で木村仁良氏も書いているとおりで、まずは文体が大事であり、それに内容が伴えば最高なのである。
そういう意味で、ポール・ケインが多くの研究者や作家から評価されるのは十分納得できる。
収録作の七篇はいずれも裏社会を舞台にしており、大抵はそこで何かの陰謀や犯罪が水面下で企てられている。主人公はふとしたきっかけで、あるいは初めから狙いがあって渦中に飛び込み、そこで波乱を起こすことで関係者を破滅へと招いていく。
どれも一見ありきたりなストーリー。しかし、いつ爆発するかわからないというピリピリとした緊張感に痺れ、一癖も二癖もありそうな男女がギリギリのところで騙し合い、潰しあう駆け引きのスリルに酔える。おまけに意外に凝った真相も多く、殺伐とした物語なのに、実はカタルシスもかなり高いのだ。
何より、そういった魅力は文章に支えられている。簡潔でキレッキレの文体、心理描写もほぼないというのは、下手をすると説明不足にも思えるだろう。しかし、それは行動だけで彼らの気持ちを読むということでもあり、同時に行間も読むということである。乾いた文章に隠された内面を味わうことが、ハードボイルドを味わうということに通じるのではないだろうか。
どれも堪能したけれど、あえて好みを挙げるなら「名前はブラック」と「“71”クラブ」。最初に続けて読んで、その世界観にあっという間に引き込まれる。ホラーのような怖さも味わえる「青の殺人」もいい。
Black「名前はブラック」
Red 71「“71”クラブ」
Parlor Trick「パーラー・トリック」
One, Two, Three「ワン、ツー、スリー」
Murder Done in Blue「青の殺人」
Pigeon Blood「鳩の血」
Pineapple「パイナップルが爆発」
収録作は以上。本格ミステリほどではないけれど、ハードボイルドもその定義についてやいのやいの言われることがあるが、個人的にはまず文体、次にその内容ということになろう。具体的には、前者が心理描写のほとんどない簡潔で乾いた文体、後者では私立探偵やギャングといった冷酷非情でタフな人物たちが登場する物語といったところになる。といっても後者は結局なんでもよくて、別にミステリである必要すらない。もともとヘミングウェイが発祥という説もあるし、SFとりわけサイバーパンクとも相性が良い。早い話が解説で木村仁良氏も書いているとおりで、まずは文体が大事であり、それに内容が伴えば最高なのである。
そういう意味で、ポール・ケインが多くの研究者や作家から評価されるのは十分納得できる。
収録作の七篇はいずれも裏社会を舞台にしており、大抵はそこで何かの陰謀や犯罪が水面下で企てられている。主人公はふとしたきっかけで、あるいは初めから狙いがあって渦中に飛び込み、そこで波乱を起こすことで関係者を破滅へと招いていく。
どれも一見ありきたりなストーリー。しかし、いつ爆発するかわからないというピリピリとした緊張感に痺れ、一癖も二癖もありそうな男女がギリギリのところで騙し合い、潰しあう駆け引きのスリルに酔える。おまけに意外に凝った真相も多く、殺伐とした物語なのに、実はカタルシスもかなり高いのだ。
何より、そういった魅力は文章に支えられている。簡潔でキレッキレの文体、心理描写もほぼないというのは、下手をすると説明不足にも思えるだろう。しかし、それは行動だけで彼らの気持ちを読むということでもあり、同時に行間も読むということである。乾いた文章に隠された内面を味わうことが、ハードボイルドを味わうということに通じるのではないだろうか。
どれも堪能したけれど、あえて好みを挙げるなら「名前はブラック」と「“71”クラブ」。最初に続けて読んで、その世界観にあっという間に引き込まれる。ホラーのような怖さも味わえる「青の殺人」もいい。