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J・J・コニントン『九つの解決』(論創海外ミステリ)
J・J・コニントンの『九つの解決』を読む。コニントンの作品はこれまでに『レイナムパーヴァの災厄』を読んだことがあるだけだが、こちらはオーソドックスな本格と思わせつつラストでとんでもない地雷を用意していた印象的な作品であった。本作はその『レイナムパーヴァの災厄』の一つ前に書かれた作品で、同じくクリントン・ドリフィールド警察本部長を探偵役にしたシリーズの一作である。
霧深いウェスターヘイヴンの夜、代診医のリングウッドは、シルヴァーデイル家の女中が急病だと呼び出される。友人の案内で濃霧の中を自動車で向かったリングウッドだったが、間違えて隣の屋敷に入ってしまい、そこで若い男の死体を発見する。
リングウッドは知り合いのクリントン・ドリフィールド警察本部長に連絡。クリントンは早速フランボロー警部と共に駆けつけたが、なんと現場の調査中に新たな殺人事件が起こる……。
ジュリアン・シモンズに言わせると、コニントンも「退屈派」の一人らしいが、本作や『レイナムパーヴァの災厄』を読んだかぎりでは、まったくそれは当たらない。本作では連続殺人やダイイング・メッセージの謎、謎の情報提供者の存在などなど、随時、刺激的なネタを挿入しつつ、さらにはクリントンとフランボローの「九つの解決」をはじめとする推理教室的な趣向もあったりして、むしろストーリー展開としては上々といえるだろう。
それを支えるミステリとしての仕掛けも悪くない。登場人物が少ないので犯人を当てることは難しくないかもしれないが、蓋を開ければ真相はかなり複雑だ。そういった犯罪がどのように行われたかがもちろん第一ではあるのだが、それと同じくらいにはどうやって見抜いたのか、というのも重要である。これに関しては最終章にあるクリントンの捜査メモが秀逸で、これを読むと、どのように気づいたか、どのように推理していったのか、というのがよくわかるようになっている。推理の道筋や考え方が参考になってなかなか面白かった。
ただ、クリントンの捜査メモで謎解きをすべて賄うのは小説としてあまりに味気ない。それらを謎解きシーンとしてストーリーにきちんと溶け込ませてこそのミステリである。それができていないのは大変残念。
面白いと思った部分をもうひとつ挙げておこう。先にも書いたが、クリントン本部長とフランボロー警部の推理教室的な会話が大変楽しい。探偵や警察による推理合戦とかはよくあるけれど、本作ではクリントンがフランボローにレクチャーするような会話が多く、これがなかなか微笑ましい。
題名にもなっている「九つの解決」も、そういったクリントンのミステリ教習のひとつである。事件の可能性をすべて挙げ、当たり前だと思うことも手を抜かずひとつひとつ検討することで、新たな気づきを生み出すというのは、何やらビジネスシーンにも通じるところがあって興味深い。
ということで全般的に満足できる一作ではあるが、強いていえば、もう少しアクの強さがあればなあとは思う。「退屈派」とは思わないが、全般にあっさりしすぎているきらいがある。
いろいろ盛り込んではいるのでネタ自体に不足はないわけで、ではどこに問題があるのかというと、具体的にはストーリー上の(ネタ数ではなく)起伏の付け方、登場人物たちのインパクト、物語を覆う不穏な空気や緊張感といったところか。表面的な部分なのかも知れないし、好みの問題もあるのだが、素材の割にはドラマチックな表現を抑えすぎている感じだ。もしかすると著者が意図的に、謎解き興味以外の部分を抑えることで、謎解きを際立たせたいという狙いがあったのかも知れないのだが、そこはどうなのか気になるところである。
ともあれまだ未読がいくつか残っているので、いずれそちらも読んで、またイメージを上書きしてみたい。
霧深いウェスターヘイヴンの夜、代診医のリングウッドは、シルヴァーデイル家の女中が急病だと呼び出される。友人の案内で濃霧の中を自動車で向かったリングウッドだったが、間違えて隣の屋敷に入ってしまい、そこで若い男の死体を発見する。
リングウッドは知り合いのクリントン・ドリフィールド警察本部長に連絡。クリントンは早速フランボロー警部と共に駆けつけたが、なんと現場の調査中に新たな殺人事件が起こる……。
ジュリアン・シモンズに言わせると、コニントンも「退屈派」の一人らしいが、本作や『レイナムパーヴァの災厄』を読んだかぎりでは、まったくそれは当たらない。本作では連続殺人やダイイング・メッセージの謎、謎の情報提供者の存在などなど、随時、刺激的なネタを挿入しつつ、さらにはクリントンとフランボローの「九つの解決」をはじめとする推理教室的な趣向もあったりして、むしろストーリー展開としては上々といえるだろう。
それを支えるミステリとしての仕掛けも悪くない。登場人物が少ないので犯人を当てることは難しくないかもしれないが、蓋を開ければ真相はかなり複雑だ。そういった犯罪がどのように行われたかがもちろん第一ではあるのだが、それと同じくらいにはどうやって見抜いたのか、というのも重要である。これに関しては最終章にあるクリントンの捜査メモが秀逸で、これを読むと、どのように気づいたか、どのように推理していったのか、というのがよくわかるようになっている。推理の道筋や考え方が参考になってなかなか面白かった。
ただ、クリントンの捜査メモで謎解きをすべて賄うのは小説としてあまりに味気ない。それらを謎解きシーンとしてストーリーにきちんと溶け込ませてこそのミステリである。それができていないのは大変残念。
面白いと思った部分をもうひとつ挙げておこう。先にも書いたが、クリントン本部長とフランボロー警部の推理教室的な会話が大変楽しい。探偵や警察による推理合戦とかはよくあるけれど、本作ではクリントンがフランボローにレクチャーするような会話が多く、これがなかなか微笑ましい。
題名にもなっている「九つの解決」も、そういったクリントンのミステリ教習のひとつである。事件の可能性をすべて挙げ、当たり前だと思うことも手を抜かずひとつひとつ検討することで、新たな気づきを生み出すというのは、何やらビジネスシーンにも通じるところがあって興味深い。
ということで全般的に満足できる一作ではあるが、強いていえば、もう少しアクの強さがあればなあとは思う。「退屈派」とは思わないが、全般にあっさりしすぎているきらいがある。
いろいろ盛り込んではいるのでネタ自体に不足はないわけで、ではどこに問題があるのかというと、具体的にはストーリー上の(ネタ数ではなく)起伏の付け方、登場人物たちのインパクト、物語を覆う不穏な空気や緊張感といったところか。表面的な部分なのかも知れないし、好みの問題もあるのだが、素材の割にはドラマチックな表現を抑えすぎている感じだ。もしかすると著者が意図的に、謎解き興味以外の部分を抑えることで、謎解きを際立たせたいという狙いがあったのかも知れないのだが、そこはどうなのか気になるところである。
ともあれまだ未読がいくつか残っているので、いずれそちらも読んで、またイメージを上書きしてみたい。
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