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オインカン・ブレイスウェイト『マイ・シスター、シリアルキラー』(ハヤカワミステリ)
年末ランキングで気になった作品をぼちぼち読んでいこうシリーズ、お次はオインカン・ブレイスウェイト『マイ・シスター、シリアルキラー』。
結論からいうと、これは良作。ランキングでは『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」ぐらいにしか引っ掛からなかったが、これは発売から投票まで一年近く空いたこともあって、印象が弱くなった可能性は否めない。ただ、中身はなかなかクセが強く、そういう意味ではやや万人受けしにくかった面もありそうだ。
ナイジェリアのラゴスで、妹アヨオラと母の三人で暮らす看護師のコレデ。真面目で几帳面なコレデは家でも職場でもストレスを抱えて生きていたが、最大の悩みはアヨオラがシリアルキラーということだった。十七歳のとき、彼女は初めて恋人を殺し、その後始末をしたのがコレデだった。
そして今日、アヨオラから電話がかかり、またしても恋人を殺したと告白される。これで三回目だ。無邪気な妹にイライラしつつも、死体や現場を片付けてゆくコレデ。最大の危機はすぎさたかに見えたが、警察の手が密かに迫っていた……。
どこから感想を書こうか迷うところだが、やはりまずはナイジェリア産のミステリというところに注目したい。ナイジェリアはアフリカの大国ではあるが政情は決して安定しているとはいえず、頻繁にクーデターと要人暗殺が繰り返されてきた国でもある。今世紀に入ってようやく民主的な選挙も行われるようになったが、不正や汚職、暴動などは日常茶飯事。そんな政情や生活が安定していない状況では、純文学はまだしも、犯罪要素を孕むミステリが育つ余地はない。念のためネットで調べてみると、文学自体はなかなか盛んだが、ことミステリに関してはやはりまだまだ発展途上のようだ。
そんな中で本書のようなミステリが生まれたというのは、非常に意義のあることだろう。作中では警察組織の日常的な腐敗ぶりも描かれており、こうした現実が垣間見えるのは大変興味深い。
ただ、主人公たちがかなり裕福な階級であり、本作だけをもってわかった気になってはもちろんいけないのは頭に入れておきたい。
ミステリとしてはどうか。実はこれが微妙なところで、設定こそミステリ的だが、正直、純粋なミステリとはとても言い難い。
そもそも通常のミステリにあるような「謎」要素はほぼないのである。いや、ないこともない。連続殺人に手を染めるアヨオラ、そんな妹を助けようとするコレデ。言ってみれば彼女たちの行動原理や心理こそが謎である。
これらの原因を幼少時からのトラウマや家族の絆に求めるのは容易い。しかし、物語が進むうち、そんなに単純なものでないことがわかってくる。一見、無邪気だが相手をたらしこ込むことにかけては天性の手管を持つアヨオラの悪女ぶりがまず凄まじい。しかもそれが最も発揮されるのが男ではなく、姉コレデに対してだとは。二人のやりとりは一見ユーモラスにも見えるが、それを通り越してえげつないほどだ。
そして、実はアヨオラ以上に怖いのがコレデである。常に妹の尻拭いをやらされ、それでいて感謝もされないのに、なぜか妹を助け続けるコレデ。得体のしれない彼女の心理こそが本書を引っ張る原動力でもあり、決して気持ちよいストーリーではないのにどんどん先が気になるのである。
ということで、かなり読者を選ぶ作品ではあるが、いわゆるボーダーラインのミステリ好きには強くオススメしたい。
結論からいうと、これは良作。ランキングでは『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」ぐらいにしか引っ掛からなかったが、これは発売から投票まで一年近く空いたこともあって、印象が弱くなった可能性は否めない。ただ、中身はなかなかクセが強く、そういう意味ではやや万人受けしにくかった面もありそうだ。
ナイジェリアのラゴスで、妹アヨオラと母の三人で暮らす看護師のコレデ。真面目で几帳面なコレデは家でも職場でもストレスを抱えて生きていたが、最大の悩みはアヨオラがシリアルキラーということだった。十七歳のとき、彼女は初めて恋人を殺し、その後始末をしたのがコレデだった。
そして今日、アヨオラから電話がかかり、またしても恋人を殺したと告白される。これで三回目だ。無邪気な妹にイライラしつつも、死体や現場を片付けてゆくコレデ。最大の危機はすぎさたかに見えたが、警察の手が密かに迫っていた……。
どこから感想を書こうか迷うところだが、やはりまずはナイジェリア産のミステリというところに注目したい。ナイジェリアはアフリカの大国ではあるが政情は決して安定しているとはいえず、頻繁にクーデターと要人暗殺が繰り返されてきた国でもある。今世紀に入ってようやく民主的な選挙も行われるようになったが、不正や汚職、暴動などは日常茶飯事。そんな政情や生活が安定していない状況では、純文学はまだしも、犯罪要素を孕むミステリが育つ余地はない。念のためネットで調べてみると、文学自体はなかなか盛んだが、ことミステリに関してはやはりまだまだ発展途上のようだ。
そんな中で本書のようなミステリが生まれたというのは、非常に意義のあることだろう。作中では警察組織の日常的な腐敗ぶりも描かれており、こうした現実が垣間見えるのは大変興味深い。
ただ、主人公たちがかなり裕福な階級であり、本作だけをもってわかった気になってはもちろんいけないのは頭に入れておきたい。
ミステリとしてはどうか。実はこれが微妙なところで、設定こそミステリ的だが、正直、純粋なミステリとはとても言い難い。
そもそも通常のミステリにあるような「謎」要素はほぼないのである。いや、ないこともない。連続殺人に手を染めるアヨオラ、そんな妹を助けようとするコレデ。言ってみれば彼女たちの行動原理や心理こそが謎である。
これらの原因を幼少時からのトラウマや家族の絆に求めるのは容易い。しかし、物語が進むうち、そんなに単純なものでないことがわかってくる。一見、無邪気だが相手をたらしこ込むことにかけては天性の手管を持つアヨオラの悪女ぶりがまず凄まじい。しかもそれが最も発揮されるのが男ではなく、姉コレデに対してだとは。二人のやりとりは一見ユーモラスにも見えるが、それを通り越してえげつないほどだ。
そして、実はアヨオラ以上に怖いのがコレデである。常に妹の尻拭いをやらされ、それでいて感謝もされないのに、なぜか妹を助け続けるコレデ。得体のしれない彼女の心理こそが本書を引っ張る原動力でもあり、決して気持ちよいストーリーではないのにどんどん先が気になるのである。
ということで、かなり読者を選ぶ作品ではあるが、いわゆるボーダーラインのミステリ好きには強くオススメしたい。