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アンソニー・ホロヴィッツ『ヨルガオ殺人事件(下)』(創元推理文庫)
アンソニー・ホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』読了。まずはストーリーから。
編集業から足を洗い、ギリシャのクレタ島で恋人と小さなホテルを経営するスーザンのもとへ、イギリスで高級ホテルを経営している老夫妻が訪ねて来る。
老夫妻の話はこうだ。八年前、ホテルで客の一人が殺されるという事件が起こり、元従業員の男が犯人として逮捕された。ところが今になって娘のセシリーが犯人は別にいると言い出し、その秘密がアラン・コンウェイが発表した小説『愚行の代償』に書かれているという。『愚行の代償』は事件をヒントにミステリ作家のアラン・コンウェイが描いた名探偵〈アティカス・ピュント〉シリーズの一作だ。だがセシリーはその直後に失踪してしまい、老夫妻は『愚行の代償』の担当編集者だったスーザンなら真相を突き止め、セシリーを見つけ出せるのではと相談に来たのである……。
▲アンソニー・ホロヴィッツ『ヨルガオ殺人事件(下)』(創元推理文庫)【amazon】
なるほど、そう来たか。
『カササギ殺人事件』、『メインテーマは殺人』、『その裁きは死』と、直近のホロヴィッツ作品はすべてメタ趣向を取り入れたものになっているが、その衝撃度では『カササギ殺人事件』がやはりトップだろう(出来としては『メインテーマは殺人』が個人的イチオシ)。
本作はその『カササギ〜』の続編である。『カササギ〜』を読んだ方ならご存知だろうが、その仕掛けが特殊すぎて、とても続編ができるようなタイプのミステリではなかっただけに、さすがに驚いてしまった。ただ、スーザンを主人公にした普通のミステリにするなら、もちろんどんな続編も可能なわけで、でもそれはさすがにつまんないでしょ、ということである。
しかし、ホロヴィッツはその高すぎるハードルを易々と超えてしまった。本作も前作同様、スーザンが担当したミステリ作家アラン・コンウェイの作品『愚行の代償』を丸まる作中作とし、その上で『愚行の代償』を現実とリンクさせて見事なミステリに仕上げている。
最初こそ「結局は『カササギ〜』と同じ趣向じゃないの」と斜に構えていたのだが、作中作の出来と使い方の巧みさが『カササギ〜』を上回っており、ここまでやられては褒めるしかない。
ひとつ気に入らない点を挙げるとすれば、作中作『愚行の代償』の出来がよすぎて、現実パートであるスーザンの調べている事件が見劣りすることだ。『愚行の代償』を使った仕掛けはなかなか面白いけれども、そのほかの部分が弱く、スーザンの調査がメインの上巻では若干店舗が悪く、上巻の終盤で『愚行の代償』が始まると一気に巻き返した感じである。
それにしてもホロヴィッツの才能は凄い。こういう凝りまくった作品を近年コンスタントに発表しているだけでなく、パスティーシュやジュヴナイルも書き、すでに七十作以上の著作があるのである。多作家はえてして品質が落ちるものだが、ホロヴィッツの場合、むしろこれまでの多作の成果がここにきて花開いたという感じでもある。スーザンとアラン・コンウェイの新作が今後出るかどうかはわからないが、ここまでくるとやはりもう一作、読んでみたい気がする。
編集業から足を洗い、ギリシャのクレタ島で恋人と小さなホテルを経営するスーザンのもとへ、イギリスで高級ホテルを経営している老夫妻が訪ねて来る。
老夫妻の話はこうだ。八年前、ホテルで客の一人が殺されるという事件が起こり、元従業員の男が犯人として逮捕された。ところが今になって娘のセシリーが犯人は別にいると言い出し、その秘密がアラン・コンウェイが発表した小説『愚行の代償』に書かれているという。『愚行の代償』は事件をヒントにミステリ作家のアラン・コンウェイが描いた名探偵〈アティカス・ピュント〉シリーズの一作だ。だがセシリーはその直後に失踪してしまい、老夫妻は『愚行の代償』の担当編集者だったスーザンなら真相を突き止め、セシリーを見つけ出せるのではと相談に来たのである……。
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なるほど、そう来たか。
『カササギ殺人事件』、『メインテーマは殺人』、『その裁きは死』と、直近のホロヴィッツ作品はすべてメタ趣向を取り入れたものになっているが、その衝撃度では『カササギ殺人事件』がやはりトップだろう(出来としては『メインテーマは殺人』が個人的イチオシ)。
本作はその『カササギ〜』の続編である。『カササギ〜』を読んだ方ならご存知だろうが、その仕掛けが特殊すぎて、とても続編ができるようなタイプのミステリではなかっただけに、さすがに驚いてしまった。ただ、スーザンを主人公にした普通のミステリにするなら、もちろんどんな続編も可能なわけで、でもそれはさすがにつまんないでしょ、ということである。
しかし、ホロヴィッツはその高すぎるハードルを易々と超えてしまった。本作も前作同様、スーザンが担当したミステリ作家アラン・コンウェイの作品『愚行の代償』を丸まる作中作とし、その上で『愚行の代償』を現実とリンクさせて見事なミステリに仕上げている。
最初こそ「結局は『カササギ〜』と同じ趣向じゃないの」と斜に構えていたのだが、作中作の出来と使い方の巧みさが『カササギ〜』を上回っており、ここまでやられては褒めるしかない。
ひとつ気に入らない点を挙げるとすれば、作中作『愚行の代償』の出来がよすぎて、現実パートであるスーザンの調べている事件が見劣りすることだ。『愚行の代償』を使った仕掛けはなかなか面白いけれども、そのほかの部分が弱く、スーザンの調査がメインの上巻では若干店舗が悪く、上巻の終盤で『愚行の代償』が始まると一気に巻き返した感じである。
それにしてもホロヴィッツの才能は凄い。こういう凝りまくった作品を近年コンスタントに発表しているだけでなく、パスティーシュやジュヴナイルも書き、すでに七十作以上の著作があるのである。多作家はえてして品質が落ちるものだが、ホロヴィッツの場合、むしろこれまでの多作の成果がここにきて花開いたという感じでもある。スーザンとアラン・コンウェイの新作が今後出るかどうかはわからないが、ここまでくるとやはりもう一作、読んでみたい気がする。
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