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クリストファー・モーリー『取り憑かれた本屋』(インプレスR&D)
クリストファー・モーリーの『取り憑かれた本屋』を読む。原作は1919年のThe Haunted Bookshop。ニューヨークの古書店を舞台にした、知られざるアメリカの古典的探偵小説のベストセラーという触れ込みにまず期待させるが、それ以外にもこの本、なかなかに周辺の情報量が多く、内容の前にまずそちらから少し紹介しておきたい。
著者のクリストファー・モーリーは当時の売れっ子作家、ジャーナリストであり、小説以外にもコラムや戯曲、詩など幅広い分野で活躍、大学でも講義を持っていたという。
ミステリに関していえば、プロパというわけではないがミステリを愛していたことは間違いないだろう。本書を含めていくつかのミステリを書き、エッセイも残している。だがそれにも増して重要なのは、彼がホームズの愛好家団体であるThe Baker Street Irregularsを設立したことであろう。
日本での版元はインプレスR&Dというところだが、ミステリにはほぼ縁がない会社だけに不思議に思った方も多いだろう。この会社はAmazonの流通を使ってオンデマンド出版を専門に行う会社である。だから表向きはインプレスR&Dが発売元だが、いわゆる発行元となる個人なり会社なりが別にいて、印刷から製本、出版までをインプレスR&Dに委託しているのである。まあ会社であれば名前を出すと思うので、本書の場合はおそらく個人の発行なのだろう。
ちなみにインプレスという会社もあるが、こちらは同じグループの会社でPC系の専門出版社である。パソコンに詳しい人ならご存知の出版社で、管理人もこちらの本には仕事柄お世話になっていたものだ。
ところでオンデマンドは書店店頭での流通は難しいのだけれど、一冊からでも本が作れ、普通の出版流通に比べると非常にリスクは小さくなるのが特徴。何より会社が潰れないかぎりは絶版が発生しないのがありがたく、あの捕物出版もこのシステムをとっている。
ただ、それこそ個人の出版も多くなるため、通常の出版社ほど宣伝してくれないのが難点。新刊情報などはホームページやSNSでこまめに情報を収集するしかなく、本書は昨年発行の本だが、その当時はけっこうTwitterでつぶやいてくれる人がいたからよかったが、知らなければそれっきりだった可能性はある。
さて、ようやく中身に入ることができる。まずはストーリー。
ニューヨークで古書店を営むロジャー&ヘレン・ミフリン夫婦。ことにロジャーは本が好きすぎて本に取り憑かれていると自称するほどだ。そんな彼らのもとに常連客の資産家チャップマンから、文学に関する仕事をしたいという娘・ティタニアをしばらく働かせてくれないかという依頼が舞い込んだ。本屋の仕事を文学と称する娘があまりに世間知らずだと、チャップマンは不安に思っているらしい。
そんなロジャーの店へ広告の営業にやってきたオーブリー・ギルバート。彼はひょんなことからロジャーの店を巻き込んだ陰謀とロマンスに飲み込まれてゆく……。
夕暮れの窓際で読書する女性のシルエットという、非常にシックでロマンティックな装丁だったので、なんとなくヒューマニズムあふれるドラマっぽいミステリを予想していたが、いや、まったく違った。
強いていえば本作はコージー・ミステリーに分類される作品である。ロジャーの古本屋で起こった事件をオーブリーが解き明かすというメインストーリーではあるが、これにティタニアとのロマンスも同時進行で盛り込まれる。味付けはユーモアたっぷり、アクションシーンもあるが基本的に殺伐としたところはなく、当時の古本屋事情や文学談義など、著者の蘊蓄も盛りだくさん。むしろ蘊蓄が多すぎる嫌いもないではないが、それこそ著者が書きたかったところだろうから、まあよしとしましょう(笑)。
特筆すべきはキャラクターが非常に立っているところだろう。オーブリーやティタニアは言うに及ばず、ロジャーとヘレンの夫妻、飼い犬のボックなどなど、みな非常に生き生きと描かれ、それが最大の魅力だ。個人的にはすぐに文学的脱線を繰り返すロジャーが面白く、こういう店主は古今東西を問わないなぁと、とても楽しく読めた次第。
著者のクリストファー・モーリーは当時の売れっ子作家、ジャーナリストであり、小説以外にもコラムや戯曲、詩など幅広い分野で活躍、大学でも講義を持っていたという。
ミステリに関していえば、プロパというわけではないがミステリを愛していたことは間違いないだろう。本書を含めていくつかのミステリを書き、エッセイも残している。だがそれにも増して重要なのは、彼がホームズの愛好家団体であるThe Baker Street Irregularsを設立したことであろう。
日本での版元はインプレスR&Dというところだが、ミステリにはほぼ縁がない会社だけに不思議に思った方も多いだろう。この会社はAmazonの流通を使ってオンデマンド出版を専門に行う会社である。だから表向きはインプレスR&Dが発売元だが、いわゆる発行元となる個人なり会社なりが別にいて、印刷から製本、出版までをインプレスR&Dに委託しているのである。まあ会社であれば名前を出すと思うので、本書の場合はおそらく個人の発行なのだろう。
ちなみにインプレスという会社もあるが、こちらは同じグループの会社でPC系の専門出版社である。パソコンに詳しい人ならご存知の出版社で、管理人もこちらの本には仕事柄お世話になっていたものだ。
ところでオンデマンドは書店店頭での流通は難しいのだけれど、一冊からでも本が作れ、普通の出版流通に比べると非常にリスクは小さくなるのが特徴。何より会社が潰れないかぎりは絶版が発生しないのがありがたく、あの捕物出版もこのシステムをとっている。
ただ、それこそ個人の出版も多くなるため、通常の出版社ほど宣伝してくれないのが難点。新刊情報などはホームページやSNSでこまめに情報を収集するしかなく、本書は昨年発行の本だが、その当時はけっこうTwitterでつぶやいてくれる人がいたからよかったが、知らなければそれっきりだった可能性はある。
さて、ようやく中身に入ることができる。まずはストーリー。
ニューヨークで古書店を営むロジャー&ヘレン・ミフリン夫婦。ことにロジャーは本が好きすぎて本に取り憑かれていると自称するほどだ。そんな彼らのもとに常連客の資産家チャップマンから、文学に関する仕事をしたいという娘・ティタニアをしばらく働かせてくれないかという依頼が舞い込んだ。本屋の仕事を文学と称する娘があまりに世間知らずだと、チャップマンは不安に思っているらしい。
そんなロジャーの店へ広告の営業にやってきたオーブリー・ギルバート。彼はひょんなことからロジャーの店を巻き込んだ陰謀とロマンスに飲み込まれてゆく……。
夕暮れの窓際で読書する女性のシルエットという、非常にシックでロマンティックな装丁だったので、なんとなくヒューマニズムあふれるドラマっぽいミステリを予想していたが、いや、まったく違った。
強いていえば本作はコージー・ミステリーに分類される作品である。ロジャーの古本屋で起こった事件をオーブリーが解き明かすというメインストーリーではあるが、これにティタニアとのロマンスも同時進行で盛り込まれる。味付けはユーモアたっぷり、アクションシーンもあるが基本的に殺伐としたところはなく、当時の古本屋事情や文学談義など、著者の蘊蓄も盛りだくさん。むしろ蘊蓄が多すぎる嫌いもないではないが、それこそ著者が書きたかったところだろうから、まあよしとしましょう(笑)。
特筆すべきはキャラクターが非常に立っているところだろう。オーブリーやティタニアは言うに及ばず、ロジャーとヘレンの夫妻、飼い犬のボックなどなど、みな非常に生き生きと描かれ、それが最大の魅力だ。個人的にはすぐに文学的脱線を繰り返すロジャーが面白く、こういう店主は古今東西を問わないなぁと、とても楽しく読めた次第。
Comments
Edit
知りませんでした。
情弱なもので、こちらで存在を知り、そのまま本分下のところからポチりました(笑)。
最近はTwitterも殆ど開かず、こういう作品をご紹介頂くのは本当にありがたいです。その分読書は捗るのですが(今、三十云年ぶりに『怪獣男爵』を読んでいます)。こちらもあまり積読にしないように頑張らなくては…。
Posted at 19:19 on 09 09, 2021 by くさのま
くさのまさん
お役に立てて何よりです(笑)。シリアスな内容を予想していただけに、ユーモラスな語り口にはかなり驚きましたが、内容自体は十分楽しめました。
それにしても最近は同人誌やらオンデマンドやらが多くて、本当に情報を集めるのが大変ですね。個人的にはTwitterにずいぶん助けられています。
Posted at 22:20 on 09 09, 2021 by sugata