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サミュエル・ロジャース『血文字の警告』(別冊Re-Clam)
『Re-Clam』といえば、おそらくは今の日本で唯一、一定のペースで刊行されている海外クラシック・ミステリ専門の同人誌である。まあ、商業誌を含めても唯一だろうけど。
寄稿する方々も名だたるマニア諸氏からプロに至るまでの豪華メンバー。まだ創刊間もないながら、ROMの後継誌として獅子奮迅の活躍といってもいいのではなかろうか。とにかくクラシックミステリのファンにはたまらない雑誌といえるだろう。
そんな『Re-Clam』は雑誌だけでなく、別冊という形で長編ミステリの出版も行っている。これがまたマニアックな作品揃いで恐れ入る。本日の読了本は、その別冊Re-Clamの三冊目にあたるサミュエル・ロジャース『血文字の警告』である。
アメリカは中西部、ウィスコンシン州の森深くにあるグラッドストーン邸。女子大生のケイトは、グラッドストーン家の次女ジェーンに誘われ、休暇を過ごすためにその屋敷を訪れる。だがケイトには気になることがあった。彼女が出発する直前、血文字のような赤いクレヨンで書かれた匿名の警告文を受け取っていたのだ。
「グラッドストーン氏の屋敷に行ってはいけない。もしそうすれば、おまえは後悔するだろう」
警告を無視して出かけたケイトだったが、やがて警告文を裏付けるかのような事件が発生する……。
これは面白い。
まずは舞台設定がよい。富豪一家と使用人が暮らす森のポツンと一軒家。そこに訪れるヒロインのケイトは不吉な事件の陰に怯え……とくれば、これは『レベッカ』のようなゴシックミステリを連想するところだが、本作はひと味違う。
普通、ゴシックミステリといえば登場人物が何かしらみな秘密を抱え、それが謎や不安を高めてゆくのがお約束。しかし本作では登場人物はそろいもそろって奇妙な人物ばかり。ヒロインも辟易して早々に帰りたい気持ちも出てくるが、そこへ誘拐事件が降りかかり、帰るに帰れなくなってしまう。ゴシックミステリはいつしか“嵐の山荘”的世界へと変貌しており、不安は恐怖へと昇華するのだ。
受け身一方のサスペンスではなく、クセ者ぞろいの人物たちが積極的に掻き回してくれるのが愉快で、意表をつくストーリーにすっかり引きこまれてしまった。
しかし、本作の魅力はそれだけではない。歪な登場人物やストーリーの線上には、それにふさわしい犯人や動機が隠されている。かなり特殊といえば特殊で、サイコスリラーばりといえばいいか。
とはいえ純文学畑の作家だけに(こういう書き方はアレだが)人物造型が非常に効いていることもあって、意外性はあるが、その真相は納得できるものだ。むしろ今の時代にこそ理解しやすく、逆にいうと当時はさぞ衝撃的だったろう。
しいて難を挙げれば、本格ミステリとしては弱め。もちろんゴシックミステリというのは舞台設定の話であり、本作には名探偵もしっかり存在する。だが、探偵役がそこまで探偵として機能しておらず、謎解きの魅力としてはあまり期待しない方がいいだろう。
それでも伏線を振り返るのは楽しい一冊だし、何よりこの真相の意外性は十分に味わう価値がある。同人誌ゆえ今となっては入手も難しいかもしれないが、著者のミステリはあと二冊残っているので、三冊まとめてどこかが面倒を見られないものだろうか。
寄稿する方々も名だたるマニア諸氏からプロに至るまでの豪華メンバー。まだ創刊間もないながら、ROMの後継誌として獅子奮迅の活躍といってもいいのではなかろうか。とにかくクラシックミステリのファンにはたまらない雑誌といえるだろう。
そんな『Re-Clam』は雑誌だけでなく、別冊という形で長編ミステリの出版も行っている。これがまたマニアックな作品揃いで恐れ入る。本日の読了本は、その別冊Re-Clamの三冊目にあたるサミュエル・ロジャース『血文字の警告』である。
アメリカは中西部、ウィスコンシン州の森深くにあるグラッドストーン邸。女子大生のケイトは、グラッドストーン家の次女ジェーンに誘われ、休暇を過ごすためにその屋敷を訪れる。だがケイトには気になることがあった。彼女が出発する直前、血文字のような赤いクレヨンで書かれた匿名の警告文を受け取っていたのだ。
「グラッドストーン氏の屋敷に行ってはいけない。もしそうすれば、おまえは後悔するだろう」
警告を無視して出かけたケイトだったが、やがて警告文を裏付けるかのような事件が発生する……。
これは面白い。
まずは舞台設定がよい。富豪一家と使用人が暮らす森のポツンと一軒家。そこに訪れるヒロインのケイトは不吉な事件の陰に怯え……とくれば、これは『レベッカ』のようなゴシックミステリを連想するところだが、本作はひと味違う。
普通、ゴシックミステリといえば登場人物が何かしらみな秘密を抱え、それが謎や不安を高めてゆくのがお約束。しかし本作では登場人物はそろいもそろって奇妙な人物ばかり。ヒロインも辟易して早々に帰りたい気持ちも出てくるが、そこへ誘拐事件が降りかかり、帰るに帰れなくなってしまう。ゴシックミステリはいつしか“嵐の山荘”的世界へと変貌しており、不安は恐怖へと昇華するのだ。
受け身一方のサスペンスではなく、クセ者ぞろいの人物たちが積極的に掻き回してくれるのが愉快で、意表をつくストーリーにすっかり引きこまれてしまった。
しかし、本作の魅力はそれだけではない。歪な登場人物やストーリーの線上には、それにふさわしい犯人や動機が隠されている。かなり特殊といえば特殊で、サイコスリラーばりといえばいいか。
とはいえ純文学畑の作家だけに(こういう書き方はアレだが)人物造型が非常に効いていることもあって、意外性はあるが、その真相は納得できるものだ。むしろ今の時代にこそ理解しやすく、逆にいうと当時はさぞ衝撃的だったろう。
しいて難を挙げれば、本格ミステリとしては弱め。もちろんゴシックミステリというのは舞台設定の話であり、本作には名探偵もしっかり存在する。だが、探偵役がそこまで探偵として機能しておらず、謎解きの魅力としてはあまり期待しない方がいいだろう。
それでも伏線を振り返るのは楽しい一冊だし、何よりこの真相の意外性は十分に味わう価値がある。同人誌ゆえ今となっては入手も難しいかもしれないが、著者のミステリはあと二冊残っているので、三冊まとめてどこかが面倒を見られないものだろうか。