極私的ベストテン2019 - 探偵小説三昧
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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


極私的ベストテン2019

 早くも大晦日である。相変わらず一年が光速のごとく過ぎ去り、若い頃ならそれが楽しくもあるのだが、まあ、この年になると、あそこが痛いここが痛いと年がら年中体調も悪く、おまけに老眼も進んで、就寝前の読書がなかなか捗らず、つくづく年はとりたくないと思う今日この頃である。

 まあ、そんなことはどうでもよい。「探偵小説三昧」の大晦日といえば「極私的ベストテン」の発表である。
 今年の読書傾向は、ここ数年進めている昭和の推理作家のさらなる消化。今年は特に泡坂妻夫を攻めてみたが、再読もけっこうあったのだけれど、いや、あらためて泡坂作品の楽しさを痛感した。もう万人に自信をもっておすすめできる超優良作家である(何をいまさら)。
 もうひとつは同人系の復刻本や評論をかなり読んだことか。マニアックすぎて商業出版では成立しない企画が多く、それがことごとく管理人のツボを突いてくるものだから、今年はかなり読んでいるはず。どうしても製本上や校正といった部分で厳しいところはあるけれど、その熱量と内容の濃さは出版社顔負けであった。

 さあ、それでは「極私的ベストテン」。
 管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選んだ結果がこちら。

1位 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(東京創元社)
2位 ロス・マクドナルド『ウィチャリー家の女』(ハヤカワ文庫)
3位 陸秋槎『元年春之祭』(ハヤカワミステリ)
4位 ジャック・フットレル『思考機械【完全版】第1巻』(作品社)
5位 泡坂妻夫『花嫁のさけび』(河出文庫)
6位 アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』(創元推理文庫)
7位 山尾悠子『歪み真珠』(ちくま文庫)
8位 夏樹静子『77便に何が起きたか』(中公文庫)
9位 陳浩基『ディオゲネス変奏曲』(ハヤカワミステリ)
10位 アーナルデュル・インドリダソン『厳寒の町』(東京創元社)


 今年は評判になった新作も比較的読んだせいか、かなりセレクトに苦労した。その中で1位に推したのは
フェルディナント・フォン・シーラッハの『刑罰』。最近は長編が多かったが、この人、やっぱり短編のほうが圧倒的によい。久々に『犯罪』の興奮が蘇った。

 2位はぼちぼち全作読破を進めているロスマクから『ウィチャリー家の女』。『ギャルトン事件』『ファーガスン事件』もよかったが、やはり後期ロスマクのほぼ完成形であり、ハードボイルドとか関係なくもっと読まれてほしい一冊だ。

 3位は単なる中国を舞台にしたミステリではなく、中国の歴史や設定を極限まで生かした傑作。やや好き嫌いは出るだろうが、ミステリとしてのレベルは尋常ではない。

 読みたてほやほやの『思考機械【完全版】第1巻』は4位で。内容というよりも本の企画、解説、造本など含めて素晴らしかった。

 5位は泡坂枠で。もちろん『乱れからくり』『11枚のトランプ』『亜愛一郎の狼狽』『湖底のまつり』『迷蝶の島』という選択肢もあって、「正直、全部ベストテン入れたろか」とも思ったが、さすがにそれは自制。知名度的には落ちるがアイディアが面白い『花嫁のさけび』をあえてチョイス。

 話題のホロヴィッツは今年もベストテンを席巻した。個人的には『カササギ殺人事件』よりもこっちが好み。まあ、探偵小説三昧での順位は下がったけれど、これは今年の方がレベルが高かったということだろう。

 幻想小説もいくつか読んだが、『歪み真珠』はイメージの豊かさに感動する。しかも文章の美しいこと。論理が決着をつける小説を多く読んでいると、たまに読む幻想小説の感動がより大きくなるのはミステリ読みの特権といえるのではないだろうか。

 8位は夏樹静子の短編集。全体的に楽しめるが、なかでも表題作のインパクトは絶大で、これは必読レベル。

 9位も短編集だが、けっこう収録作にムラはあるものの、単純に楽しめる作品が多くて満足。『13・67』の印象しかなかったので、こういうものも書いていたのかという新鮮さもあり。

 北欧ミステリはそれほど読んでいないが、このシリーズは好み。もっと上位にあげたいのだが、ミステリとしての弱さがちょっと響いてこの位置で。

 以上が「探偵小説三昧」の「極私的ベストテン2019」。
 なお、再読&メジャーすぎる作品なのであえてベストテンから外したものとして、
  坂口安吾『不連続殺人事件』
  結城昌治『ゴメスの名はゴメス』がある。
 こちらは当ブログのベストテン関係なく必読作品なのでよろしく。

 その他、先にあげた泡坂作品やロスマク作品以外でランクインさせたかったものは以下のあたり。これらはお好みでどうぞ。
 ケイト・モートン『忘れられた花園(上・下)』
 ジョン・ロード『クラヴァートンの謎』
 ドット・ハチソン『蝶のいた庭』
 R・オースティン・フリーマン『キャッツ・アイ』
 河野典生『陽光の下、若者は死ぬ』
 ジョルジュ・シムノン『ブーベ氏の埋葬』
 ローレンス・ブロック『泥棒はスプーンを数える』
 スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』

 また同人系では、以下の三作。
  森脇晃、森咲郭公鳥、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』
 
 kazuou『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』
  さかえたかし『赤川次郎アーリーデイズvol.1』
 マニアックなものからガイド的なものまで様々なアプローチ。三者三様だが、どれも楽しめた。
 また、抄訳ながら復刻版のルーファス・キング『深海の殺人』は悪くない。これはぜひ論創社あたりから完訳で出してもらえると嬉しい一冊である。

 ということで今年の「探偵小説三昧」の更新はこれにて終了。
 本年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

Comments

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ポール・ブリッツさん

ん? ●原宰●●のことでしょうか(笑)

Posted at 23:16 on 06 10, 2020  by sugata

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じゃあ、藤(以下削除(笑))

Posted at 19:24 on 06 10, 2020  by ポール・ブリッツ

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じっちゃんさん

まあ、そうはいっても、やはり中島氏の功績は偉大ですよね。うまく言えませんが、あらすじの多さにしても、読書におけるフィールドワークみたいな意味合いがあったのではないかと感じている次第です。

Posted at 23:47 on 06 09, 2020  by sugata

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中島河太郎(笑)

(後期の)中島河太郎の解説はひどかったですね。あらすじの羅列で。付け足し程度についていた論評も紋切り型で💦

おっしゃるように、アマゾンなどのレビューも危険です。極力読まないようにはしてますが。ネタバレなしかありかを表示する必要がありますが、自己申告制だと100%完璧なものにはならないでしょうね(確信犯も出てくるでしょうし)。

Posted at 02:31 on 06 09, 2020  by じっちゃん

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ポール・ブリッツさん

というか、あらすじが凄かった印象が。

Posted at 23:29 on 06 08, 2020  by sugata

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>ネタバレの酷さ

中島河太郎(笑)

Posted at 23:17 on 06 08, 2020  by ポール・ブリッツ

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じっちゃん さん

シーラッハの作品はその性質上、多少のネタバレにも十分耐えうるとは思いますが、それでも最初は先入観なしに読むのが一番ですね。
ネタバレの酷さでいうと、ネットショップのレビューが最高に危険ですが、あれもなんとかしてほしいですね。

Posted at 22:44 on 06 08, 2020  by sugata

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ギリギリセーフでした

そうです。文庫版です。
でも、第一話をよんだあとに第一話の解説だけを読んだので、実質的被害はないです。

>私は本編の前に解説は絶対読まないことにしております。
私も原則はそうです。でも、ときに、誘惑に負けて先に解説を読んでしまうことがあります(^^;
特に若い頃はそうでした。
小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』のときもそうでした。
桃源社版で読んだのですが、解説の澁澤龍彦さんが、犯人をばらしておられて(この作品は犯人当ての興味を狙ったものではないので、とかなんとか、とても勝手な理由で(^^;)、非常なショックを受けたことがあります。犯人当て小説であろうがなかろうが、犯人は分からない方がいいです。

Posted at 03:53 on 06 08, 2020  by じっちゃん

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じっちゃん さん

おおっと、それは残念でしたね。私はあまりそういう記憶がないので、おそらく文庫版の解説なのでしょうか?(私はハードカバーで読んでます)
まあ、そういうリスクも含めて、私は本編の前に解説は絶対読まないことにしております。

Posted at 19:51 on 06 07, 2020  by sugata

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解説を先に読むべからず

シーラッハの『犯罪』読み始めました。

第1作読んだあとだったのでよかったけど、松山巌の解説ひどいですね。全部バラしてある(¯―¯٥) しかも、その後を読んでも、バラす必然性が全く感じられない。これはないと思ふ。

Posted at 17:10 on 06 07, 2020  by じっちゃん

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じっちゃん さん

リンクまで貼っていますので流石に忘れるわけがありません(笑)。

マッギヴァーンいいですね。他のコメントでも書いているとおり、ロスマクが片付いたら私も読もうと思っているのですが、そのロスマクにしても半分を越えたところなので、いったいいつになるのやらという感じです。どうぞお先にお楽しみください。

Posted at 23:19 on 06 05, 2020  by sugata

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よかった

憶えておられましたか。よかった(笑)

sugataさんのこのブログはとても印象に残っていたので
ブログ再開後真っ先にご訪問させていただきました。

今後ともよろしくお願いいたします。

ところで、話題になっているマッギヴァーン。
私も未開拓です。
ずいぶん昔に『緊急深夜版』と『悪徳警官』を読んだだけ。
『ファイル7』と『明日に賭ける』は持ってはいるものの、
積ん読状態です。
近々チャレンジしようと思います。

Posted at 03:10 on 06 05, 2020  by じっちゃん

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じっちゃん さん

ごぶさたです。もちろん憶えておりますよ。
ブログ再開、おめでとうございます。
駄文を書き散らかしておりますが、今後の読書ライフのお役に立てられれば幸いです。

あと、リンク先は修正しておきますね。
今後ともよろしくお願いします。

Posted at 20:44 on 06 04, 2020  by sugata

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おひさです

おひさです。・・・といってもおぼえておられるかしら? 以前同じFC2でブログをやっていた者です。場所をAmebaに移して、ブログを再開したので、久々にご訪問した次第です。

この記事、今後読む本の参考になりますね。

個人的に気になったのは、以下。

1位 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(東京創元社)
3位 陸秋槎『元年春之祭』(ハヤカワミステリ)
6位 アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』(創元推理文庫)

フェルディナント・フォン・シーラッハは『犯罪』もまだ読んでいないので、そちらをまず読もうかな。アンソニー・ホロヴィッツは前作『カササギ殺人事件』を読んでいます。面白かったけど、もうひとつ釈然としない思いが。sugataさんは『メインテーマは殺人』のほうがお好みとのことですので、期待したいです。3作とも近所の図書館にあったので、借りて読みたいと思います。

ありがとうございました(人''▽`)

Posted at 10:21 on 06 04, 2020  by じっちゃん

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Ksbcさん

Ksbcさんとは好みが似ているなぁと思っているので、感想はいつも参考になります。読まれたらぜひ教えてください。

Posted at 22:24 on 01 08, 2020  by sugata

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マッギヴァーンは2冊めです。
先に読んだ「明日に賭ける」がかなり良かったので「ファイル7」も期待して読みましたが…。
悪くはないですが、「明日に賭ける」ほどのパンチはなかったです。
引き続き、見つけたら挑戦します。

Posted at 20:04 on 01 08, 2020  by Ksbc

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Ksbcさん

明けましておめでとうございます。
こちらこそ本年もよろしくお願いします。

マッギヴァーンは数冊しか読んでいなくて、長年の宿題の作家です。大体本は入手済みのはずですが、一体どこに積んであるやらという状況で、ロスマクが片付いたら攻めてみたく思います。

Posted at 23:17 on 01 07, 2020  by sugata

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おめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

上位の2つだけしか読んでおりません。どちらも文句なしの傑作でした。
年末は本を読もうと思っていたのに思わぬ帯状疱疹に見舞われ、挫折。
結局、マッギヴァーン「ファイル7」だけに終わってしまいました。

Posted at 20:35 on 01 07, 2020  by Ksbc

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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