ポール・アルテ『金時計』(行舟文化) - 探偵小説三昧
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ポール・アルテ『金時計』(行舟文化)

 ポール・アルテの『金時計』を読む。日本での版元が行舟文化に変わっての二冊目だが、なんと本作は本国で今年出たばかりの最新刊だ。というか、実は本国フランスより日本での刊行が先になったとかで、どういう事情があったかは知らないが、とりあえず日本のファンとしては嬉しい一冊である。

 まずはストーリー。
 1911年の冬のこと。織物輸入会社の社長ヴィクトリア・サンダースは、双子の弟のダレン、副社長のアンドリューとアリスの夫妻、秘書のシェリルを別荘に招待する。しかし、ダレンは猟色家、シェリルは傲慢、加えてアンドリューとシェリルが浮気をしているのではとアリスが疑い、ダレンとシェリルに互いに惹かれている様子。そんな一触即発のなかで、サンダースが死体で発見される。しかも現場は雪の密室状態であった……。
 時代は変わって1991年。劇作家のアンドレ・レヴェックは子供の頃に観た映画を思い出せず、これを解明することが自身のスランプを脱する手段だと考えていた。妻のセリアの勧めで、アンドレは近所に住む哲学者で映画マニアのモロー博士を訪ね、精神分析を応用した映画探しを試みるが……。

 金時計

 ええと、これはなんと言っていいのか。結論からいうと、えらく変なものを読まされたという感じである(苦笑)。
 以下、ややネタバレ気味になってしまうので未読の方はご注意ください。

 本作最大のポイントは、過去と現代、二つのパートで構成されているという点だ。シリーズ探偵の美術評論家オーウェン・バーンズが殺人事件を解決する1911年パート、そして劇作家のアンドレが過去の秘密を探ろうとする1991年パートで、この二つが章ごとに交互に語られてゆく。
 1911年パートはストーリー紹介でも書いたように、女性社長の殺害事件が描かれている。現場は野外だが、降雪のために擬似密室を構成しているのがミソ。密室も悪くはないが、プロットがそれ以上に良くて、意外な真相が読みどころである。
 一方の1991年パートはサスペンス調。アンドレが探しているのは映画だが、実はその映画を通じて、過去の忌まわしい出来事が明らかになるのでは……という展開。終盤はサイコサスペンスの香りを漂わせつつ、こちらもけっこう上手くできている。

 ということで、どちらのパートもそれなりに面白く読めるのだが、問題はこのパートのつなぎ方である。
 これがぶっちゃけ輪廻転生とかを持ち出してくるものだから、正直、二つのパートに対する興味との乖離がありすぎて、驚きや感動にはかなり乏しい。
 複数のパートで構成される作品の場合、興味はおのずと各パートがどのように関連するかにかかってくるわけだが、なぜこのような奇妙な形をとってしまったのか。まあ、意欲作とはいえないこともないのだが、各パートの内容は悪くないだけに惜しまれる。

 なお、過去と現代、二つのパートで見せるやり方は今時珍しくもない手だが、過去パートにシリーズ探偵を使うというのは。ちょっと贅沢な感じであった。

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Comments

Edit

fontankaさん

ううむ、各パートはいいのですが、それをつなぐ要素が物語に合わなくてもったいないと思いました。ハンバーガーでいうと、バンズとパティはいいのに、合わせるソースを間違えたという感じでしょうか。変な喩えですいません(苦笑)。

Posted at 22:00 on 10 22, 2019  by sugata

Edit

こんばんは。

この趣向私は意外に気に入りました。
ただ、「キーとなる品物」がどうやって時代を越えてわたるのかが、よくわかりにくくて・・・
でしたが。

ミステリより恋愛部分に重きがおかれてたと思います。

Posted at 19:54 on 10 22, 2019  by fontanka

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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