中町信『十和田湖殺人事件』(徳間文庫) - 探偵小説三昧
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中町信『十和田湖殺人事件』(徳間文庫)

 先日読んだ『榛名湖殺人事件』に続いて中町信をもういっちょ。『十和田湖殺人事件』は『榛名湖殺人事件』の前年、1986年に出た作品で、著者の代表作としてよく挙げられる作品である。

 まずはストーリーから。
 北海道釧路空港を発った大和航空機134便が墜落した。だが、その悲劇のさなか、機内ではもうひとつのドラマが繰り広げられていた。北海道旅行から帰る途中の四人組の女性がいたが、その中の一人が、別の女性を殺人者として告発していたのだ。
 もとになった事件が起こったのは二ヶ月ほど前のこと。ボートの水難事故で一人の作家志望の男が死亡し、翌日にはその水難事故を通報した女性が岩から転落して死亡した。殺人を告発した女性は、転落死した女性の事故が、実は殺人だったというのである。
 やがて飛行機事故の現場から殺人を示唆する遺書が見つかり、転落死した女性の夫・鹿角刑事は妻の無念を晴らすため捜査に乗り出すが、事件はこれだけでは終わらなかった……。

 十和田湖殺人事件

 すごいな、これは。練りに練ったプロットという感じで、中町信の特徴がフルに発揮された一作といえるだろう。
 主要な登場人物の半数(つまり奥様方)が飛行機事故で亡くなっており(一人は奇跡的に生き残ったが記憶喪失状態に)、残されたのは彼女たちの四人の夫である。かなり限定された設定なのに、なかなか先を読ませないのが中町信ならでは。
 最初は単なるボート事故を起点にした口封じのための殺人かと思われるのだが、それがまあ転がる転がる。四人の夫の職業が作家や編集者というのもミソで、それが事件にいろいろな意味で二重三重に関わる。もちろん詳しくは書かないけれども、この作家や編集者ならではのドラマに「なるほど、そうきたか」などと感心していると、さらに驚かされる羽目になる。
 プロローグの仕掛け、真相に気づいたものが次から次へと殺される展開もいつもどおりで、よくぞここまで複雑なプロットをまとめあげたものだ。

 ただ、個人的にはちょっとやりすぎかなと思うのも事実。『榛名湖殺人事件』でも実は同様な印象をもったのだが、やりすぎは常に真相がもつインパクトを薄めてしまう。いたずらにどんでん返しをやればよいというものではなく、一発で決めるからこそより感動も大きいのである。
 そういう意味では個人的にはやや好みから外れるのだが、客観的には文句なしの力作。著者の技術はいかんなく発揮されているし、出来も『榛名湖殺人事件』を十分凌駕しているといえるだろう。

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Comments

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Ksbcさん

ご健闘をお祈りしております。わたしもまだまだ手持ちがあるので少しずつ読んでいきます。
ただ、気がかりなのは、これまで読んできた初期傑作群に比べると、残っているのはおそらく一枚も二枚も落ちる可能性が高いことなんですよねぇ

Posted at 00:33 on 06 07, 2019  by sugata

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アドバイスありがとうございます。
抜けているもの頑張って探してみます。
では、また。

Posted at 11:07 on 06 06, 2019  by Ksbc

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Ksbcさん

とりあえず最初の十作、『模倣の殺意』から『榛名湖殺人事件』までは読んで損なしという感じでしょうか。
タイトルからではまったく出来不出来が判別できませんので、これはもうちゃんと調べて買うしかないですね(笑)。

Posted at 20:40 on 06 04, 2019  by sugata

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とりあえず「殺意」を読み終えてその後へ進めてません。
古書でも結構いい値段になっていて手が伸びてないですね、そのうえ「殺人事件」もブレーキをかけさせますね。

Posted at 18:50 on 06 04, 2019  by Ksbc

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ポール・ブリッツさん

湖でまとめたトラベルミステリ式タイトルは、いまとなっては悲しいかぎりですが、当時はどれだけ読者に訴求したのでしょうね。
でも、「殺意」でまとまられると、正直これまた中身が連想しにくくて辛いです(苦笑)。じゃあ『自動車教習所殺人事件』がいいのかといわれると、確かに中身はわかるが、センスも情緒もありませんしねぇ。
タイトルにはなかなか恵まれなかった作者という気がします。

Posted at 08:24 on 05 28, 2019  by sugata

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「そんな巧緻なプロットの作品が、何で『十和田湖殺人事件』なんですか」

「じゃあなんか代案あるの」

「ありますよ。初期作品みたいに『殺意』でまとめて」

「ふむふむ」

「『墜落の殺意』」

「こら」

Posted at 03:04 on 05 28, 2019  by ポール・ブリッツ

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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