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山村美紗『殺意のまつり』(中公文庫)
今週も仕事が強烈で早くも2回目の出張。そのほか月イチの報告会のための資料作り、年イチの会社イベントなどが重なってもうヘロヘロ。金曜は久々に三時ごろまで飲み、土曜日は昼近くまで寝てしまう。
おかげで読書ペースもガタ落ちだが、なんとか読み終えたのが山村美紗の短編集『殺意のまつり』。
「トリックの女王」とか「日本のアガサ・クリスティ」などと称されることもある山村美紗だが、その反面、二時間ドラマに原作が多く使われることやベストセラー作家として作品を量産したことから、比較的ディープなミステリマニアからは軽視されている印象もある。
しかし、西村京太郎や赤川次郎などもそうだけれど、ベストセラー作家はベストセラー作家になるだけの理由があるわけで、その本来の実力はやはり侮れない。量産するようになるとどうしてもクオリティは落ちてしまい、えてして過小評価されがちなのだが、みなそれぞれ初期にはしっかりと傑作を残しているのだ。
本日の読了本『殺意のまつり』も、著者の初期の代表作といえる一冊。もとは1976年に文藝春秋から刊行されたものだ。
「残酷な旅路」
「恐怖の賀状」
「50パーセントの幸福」
「黒枠の写真」
「死者の掌」
「孤独な証言」
「殺意のまつり」
収録作は以上。女性らしい視点といえば語弊があるかもしれないが、独特の意地悪さやブラックな笑いを含んだサスペン色の強い作品が中心である。何よりプロットがうまいし、それを平易な文章で引き込まれるストーリーにまとめあげている。
通俗的な内容が多いので、なかなか深い感動というところまではいかないものの、全般的な水準は高く、クラシックミステリにも通じるような良質の満足感を得ることができるだろう。
以下、簡単に作品のコメントなど。
まずは「残酷な旅路」。不倫を扱い、スーツケースの取り違えから脅迫事件へ、そして……という流れが鮮やか。どんでん返しもきれいに決まっている。
「恐怖の賀状」「50パーセントの幸福」「黒枠の写真」はそれぞれ年賀状、親子鑑定、カメラといった小道具を上手く用いている。読者が知らない要素を謎やトリックとして使うことはミステリとしてあまり褒められたことではないのだが、著者はそれらの専門的な説明もきちんと取り込みつつ展開しているところが見事だ。
「死者の掌」は、毒殺された被害者の背中に、何者かの手形が押された三通の通帳が乗せられていたという導入がよい。ラストの苦さもまたよし。
「孤独な証言」は飛行機墜落事故の証言を巡る物語で、本書中でもっとも異色な作品といえるだろう。ひとつの証言の解釈が多様に受け止められることで、主人公の苦悩、
司法制度の落とし穴の怖さも伝わってくる。
表題作の「殺意のまつり」はやはり本書中のベストだろう。ある殺人事件の冤罪をテーマにしているけれど、著者は冤罪がもつヒューマンな問題などにはそれほど執着せず、一種のコンゲーム的な面白さを追求している。
管理人的にはどんでん返しの連発はあざとすぎて実はあまり好みではないのだが、本作のそれは上手くストーリーに馴染んでおり、かなり楽しむことができた。
おかげで読書ペースもガタ落ちだが、なんとか読み終えたのが山村美紗の短編集『殺意のまつり』。
「トリックの女王」とか「日本のアガサ・クリスティ」などと称されることもある山村美紗だが、その反面、二時間ドラマに原作が多く使われることやベストセラー作家として作品を量産したことから、比較的ディープなミステリマニアからは軽視されている印象もある。
しかし、西村京太郎や赤川次郎などもそうだけれど、ベストセラー作家はベストセラー作家になるだけの理由があるわけで、その本来の実力はやはり侮れない。量産するようになるとどうしてもクオリティは落ちてしまい、えてして過小評価されがちなのだが、みなそれぞれ初期にはしっかりと傑作を残しているのだ。
本日の読了本『殺意のまつり』も、著者の初期の代表作といえる一冊。もとは1976年に文藝春秋から刊行されたものだ。
「残酷な旅路」
「恐怖の賀状」
「50パーセントの幸福」
「黒枠の写真」
「死者の掌」
「孤独な証言」
「殺意のまつり」
収録作は以上。女性らしい視点といえば語弊があるかもしれないが、独特の意地悪さやブラックな笑いを含んだサスペン色の強い作品が中心である。何よりプロットがうまいし、それを平易な文章で引き込まれるストーリーにまとめあげている。
通俗的な内容が多いので、なかなか深い感動というところまではいかないものの、全般的な水準は高く、クラシックミステリにも通じるような良質の満足感を得ることができるだろう。
以下、簡単に作品のコメントなど。
まずは「残酷な旅路」。不倫を扱い、スーツケースの取り違えから脅迫事件へ、そして……という流れが鮮やか。どんでん返しもきれいに決まっている。
「恐怖の賀状」「50パーセントの幸福」「黒枠の写真」はそれぞれ年賀状、親子鑑定、カメラといった小道具を上手く用いている。読者が知らない要素を謎やトリックとして使うことはミステリとしてあまり褒められたことではないのだが、著者はそれらの専門的な説明もきちんと取り込みつつ展開しているところが見事だ。
「死者の掌」は、毒殺された被害者の背中に、何者かの手形が押された三通の通帳が乗せられていたという導入がよい。ラストの苦さもまたよし。
「孤独な証言」は飛行機墜落事故の証言を巡る物語で、本書中でもっとも異色な作品といえるだろう。ひとつの証言の解釈が多様に受け止められることで、主人公の苦悩、
司法制度の落とし穴の怖さも伝わってくる。
表題作の「殺意のまつり」はやはり本書中のベストだろう。ある殺人事件の冤罪をテーマにしているけれど、著者は冤罪がもつヒューマンな問題などにはそれほど執着せず、一種のコンゲーム的な面白さを追求している。
管理人的にはどんでん返しの連発はあざとすぎて実はあまり好みではないのだが、本作のそれは上手くストーリーに馴染んでおり、かなり楽しむことができた。