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リリアン・デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』(論創海外ミステリ)
リリアン・デ・ラ・トーレの短編集『探偵サミュエル・ジョンソン博士』を読む。著者はアメリカの作家で、教職を務めながら歴史ミステリをはじめとして犯罪関係、演劇関係の著作も残した作家だ。
本書は18世紀に実在した英文学者サミュエル・ジョンソンを探偵役に据えた歴史ミステリ。また、ワトソン役にもジョンソン博士の伝記を残したことで知られるジェームズ・ボズウェルを起用している。また、その二人だけでなく各作品にもさまざまな当時の著名人を登場させたり、実際の事件を元ネタにしたりと、著者が得意の英国史をふんだんに盛り込んだ作品集となっている。
収録作は以下のとおり。
The Wax-Work Cadaver「蝋人形の死体」
The Flying Highwayman「空飛ぶ追いはぎ」
The Missing Shakespeare Manuscript「消えたシェイクスピア原稿」
The Manifestations in Mincing Lane「ミンシング通りの幽霊」
The Black Stone od Dr. Dee「ディー博士の魔法の石」
The Disappearing Servant Wench「女中失踪事件」
Prince Charlie's Ruby「チャーリー王子のルビー」
The Frantick Rebel「博士と女密偵」
The Great Seal of England「消えた国璽の謎」
歴史ミステリというと、どうしても歴史的興味が優先してしまい、ミステリとしては若干評価が甘くなりがちなのだけれど、本作はミステリの謎解き的な興味と歴史物の面白さが程よくミックスされていて、なかなか楽しめる。
先にも書いたが、まずはジョンソン博士やボズウェルをはじめとした同時代の著名人の掛け合いの面白さ。管理人などは18世紀の英国史といわれてもそこまで詳しくないのだが、それでもジョン・フィールディング(ヘンリー・フィールディングの弟)やホレス・ウォルポールといった文学畑の偉人の登場には思わずニヤリとしてしまうし、歴史マニアならもっと楽しめるのだろう。
また、歴史的知識が薄くても解説がけっこうフォローしてくれているし、当時の英国の習俗なども楽しめるのがいい(たとえばカツラを帽子並みに頻繁に着用したりとか)。
ミステリとしても悪くない。トリック云々という面ではそれほど驚くようなものではないのだが、ワンアイディアをきちんと落としどころに持ってきて、著者が意外なくらいミステリのツボを押さえていることにも感心する。何より歴史的事実を著者の想像によって膨らませ、真相はこうだったのだと見せてくれる楽しさがある。
全般的に楽しめる作品ばかりだが、特に当時の風俗がトリックに活かされる「消えたシェイクスピア原稿」、女スパイが自国に連絡するのを防ぐという異色の展開が魅力の「博士と女密偵」が個人的な好み。
なお、本書はサミュエル・ジョンソン博士・シリーズの四つの短編集からセレクトした日本オリジナルの傑作選である。ベスト版ではあるのだろうが、できればもう一冊ぐらいは続巻を出してもらいたいところだ。
上質なユーモア、ホームズとワトソンの原型ともいえる歴史的な意義も含め、クラシック・ミステリのファンには必読の一冊といっておこう。
本書は18世紀に実在した英文学者サミュエル・ジョンソンを探偵役に据えた歴史ミステリ。また、ワトソン役にもジョンソン博士の伝記を残したことで知られるジェームズ・ボズウェルを起用している。また、その二人だけでなく各作品にもさまざまな当時の著名人を登場させたり、実際の事件を元ネタにしたりと、著者が得意の英国史をふんだんに盛り込んだ作品集となっている。
収録作は以下のとおり。
The Wax-Work Cadaver「蝋人形の死体」
The Flying Highwayman「空飛ぶ追いはぎ」
The Missing Shakespeare Manuscript「消えたシェイクスピア原稿」
The Manifestations in Mincing Lane「ミンシング通りの幽霊」
The Black Stone od Dr. Dee「ディー博士の魔法の石」
The Disappearing Servant Wench「女中失踪事件」
Prince Charlie's Ruby「チャーリー王子のルビー」
The Frantick Rebel「博士と女密偵」
The Great Seal of England「消えた国璽の謎」
歴史ミステリというと、どうしても歴史的興味が優先してしまい、ミステリとしては若干評価が甘くなりがちなのだけれど、本作はミステリの謎解き的な興味と歴史物の面白さが程よくミックスされていて、なかなか楽しめる。
先にも書いたが、まずはジョンソン博士やボズウェルをはじめとした同時代の著名人の掛け合いの面白さ。管理人などは18世紀の英国史といわれてもそこまで詳しくないのだが、それでもジョン・フィールディング(ヘンリー・フィールディングの弟)やホレス・ウォルポールといった文学畑の偉人の登場には思わずニヤリとしてしまうし、歴史マニアならもっと楽しめるのだろう。
また、歴史的知識が薄くても解説がけっこうフォローしてくれているし、当時の英国の習俗なども楽しめるのがいい(たとえばカツラを帽子並みに頻繁に着用したりとか)。
ミステリとしても悪くない。トリック云々という面ではそれほど驚くようなものではないのだが、ワンアイディアをきちんと落としどころに持ってきて、著者が意外なくらいミステリのツボを押さえていることにも感心する。何より歴史的事実を著者の想像によって膨らませ、真相はこうだったのだと見せてくれる楽しさがある。
全般的に楽しめる作品ばかりだが、特に当時の風俗がトリックに活かされる「消えたシェイクスピア原稿」、女スパイが自国に連絡するのを防ぐという異色の展開が魅力の「博士と女密偵」が個人的な好み。
なお、本書はサミュエル・ジョンソン博士・シリーズの四つの短編集からセレクトした日本オリジナルの傑作選である。ベスト版ではあるのだろうが、できればもう一冊ぐらいは続巻を出してもらいたいところだ。
上質なユーモア、ホームズとワトソンの原型ともいえる歴史的な意義も含め、クラシック・ミステリのファンには必読の一冊といっておこう。