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岡村雄輔『岡村雄輔探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
ゴールデンウィークに入ったが、ひと月ほど前に箱根で遊んだばっかりだし、基本おとなしくして探偵小説と戯れる毎日である。まあ今年に限らずだいたいゴールデンウィークはせいぜい近場で遊ぶ程度。観光地に行ってもどこも大混雑だし、むしろ普段は進まないミステリ関係の資料整理をしたり片付けをするチャンスである(笑)。
本日も三時間ほどかけて本を少し整頓し、とりあえず再読のなさそうな本をレンタル倉庫に預ける。あとは家族とアウトレットモールに出かけて春夏もののジャケットやシャツを購入。まあ、アウトレットも大混雑で、疲れるのは観光地とそれほど変わらないかも。
読了本は論創ミステリ叢書から『岡村雄輔探偵小説選II』。まずは収録作。
「王座よさらば」
「斜陽の小径」
「黄薔薇殺人事件」
「盲魚荘事件」
「幻女殺人事件」
「通り魔」
「ビーバーを捕えろ」
初期作品を集めた『岡村雄輔探偵小説選I』では、いわゆるディレッタント型の名探偵・秋水魚太郎が活躍するガチガチの本格がメインだったけれど、本書では後期の人間ドラマを重視した作品が多く採られている。岡村雄輔の興味や方向性はもはや謎解きではなく、事件の被害者や犯人の側にあるわけで、犯罪に巻き込まれた人々の悲哀について掘り下げていく。
探偵役も秋水から熊座警部補にバトンタッチしているが、その探偵役すら快刀乱麻の名探偵という役割ではなく、単なる物語の進行役あるいは事件の見届け人的な存在に終始している。
そういった方向性自体は決して間違ってはいないし、だからといって本格としての要素を大きく犠牲にしているわけでもないので、むしろ個人的にはこの手の路線はけっこう好み。全体的には前作『〜I』ほどのケレン味には欠けるけれども、これはこれで悪くない。
特に長編「幻女殺人事件」はなかなか魅力的だ。ダムの工事現場であろうか、泊まり込みで働く土木作業員や技術者らが登場する物語は、文字どおり泥臭い人間関係があって、そのなかで殺人事件が発生する。とにかく感覚がリアルというか、こういう登場人物で本格をまとめる手腕というのは、とりあえず評価されるべきだろう。また、すごいトリックというわけではないけれども、狙っているところはけっこう面白く、トータルでは本書のベスト2に推す。
そしてベスト1は短編「通り魔」。犯行動機ともマッチングしたトリックが効いていて、解説に「著者の目指してきたスタイルのひとつの到達点」とあるが正しくそのとおりだろう。これはおすすめ。
惜しむらくは、これは全体的な感想になるのだが、小説自体がそれほどお上手ではない。構成、ストーリーの展開などに特に顕著だが、きれいにまとめるという作業が苦手という印象である。著者本人だけは納得しているのだが、それを読者に伝えきれていないというか、そのあたりをうまくストーリーに落とし込めれば物語もよりわかりやすく、展開にもメリハリがついたのではないだろうか。
まあ、当時の他の作家に比べるとそういう弱点はあるのだけれど、独自の世界をもった人ではあるし、希少性の高さは無論のこと。探偵小説ファン、とりわけ本格系がお好きな人にはおすすめである。
本日も三時間ほどかけて本を少し整頓し、とりあえず再読のなさそうな本をレンタル倉庫に預ける。あとは家族とアウトレットモールに出かけて春夏もののジャケットやシャツを購入。まあ、アウトレットも大混雑で、疲れるのは観光地とそれほど変わらないかも。
読了本は論創ミステリ叢書から『岡村雄輔探偵小説選II』。まずは収録作。
「王座よさらば」
「斜陽の小径」
「黄薔薇殺人事件」
「盲魚荘事件」
「幻女殺人事件」
「通り魔」
「ビーバーを捕えろ」
初期作品を集めた『岡村雄輔探偵小説選I』では、いわゆるディレッタント型の名探偵・秋水魚太郎が活躍するガチガチの本格がメインだったけれど、本書では後期の人間ドラマを重視した作品が多く採られている。岡村雄輔の興味や方向性はもはや謎解きではなく、事件の被害者や犯人の側にあるわけで、犯罪に巻き込まれた人々の悲哀について掘り下げていく。
探偵役も秋水から熊座警部補にバトンタッチしているが、その探偵役すら快刀乱麻の名探偵という役割ではなく、単なる物語の進行役あるいは事件の見届け人的な存在に終始している。
そういった方向性自体は決して間違ってはいないし、だからといって本格としての要素を大きく犠牲にしているわけでもないので、むしろ個人的にはこの手の路線はけっこう好み。全体的には前作『〜I』ほどのケレン味には欠けるけれども、これはこれで悪くない。
特に長編「幻女殺人事件」はなかなか魅力的だ。ダムの工事現場であろうか、泊まり込みで働く土木作業員や技術者らが登場する物語は、文字どおり泥臭い人間関係があって、そのなかで殺人事件が発生する。とにかく感覚がリアルというか、こういう登場人物で本格をまとめる手腕というのは、とりあえず評価されるべきだろう。また、すごいトリックというわけではないけれども、狙っているところはけっこう面白く、トータルでは本書のベスト2に推す。
そしてベスト1は短編「通り魔」。犯行動機ともマッチングしたトリックが効いていて、解説に「著者の目指してきたスタイルのひとつの到達点」とあるが正しくそのとおりだろう。これはおすすめ。
惜しむらくは、これは全体的な感想になるのだが、小説自体がそれほどお上手ではない。構成、ストーリーの展開などに特に顕著だが、きれいにまとめるという作業が苦手という印象である。著者本人だけは納得しているのだが、それを読者に伝えきれていないというか、そのあたりをうまくストーリーに落とし込めれば物語もよりわかりやすく、展開にもメリハリがついたのではないだろうか。
まあ、当時の他の作家に比べるとそういう弱点はあるのだけれど、独自の世界をもった人ではあるし、希少性の高さは無論のこと。探偵小説ファン、とりわけ本格系がお好きな人にはおすすめである。
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