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小泉喜美子『痛みかたみ妬み』(中公文庫)
小泉喜美子の短編集『痛みかたみ妬み』を読む。古書にあらず、なんと新刊。最近、小泉喜美子も『血の季節』やら『殺人はお好き?』やら、いろいろと復刊が続いてめでたいことである。
さて、本書はかつて双葉社から刊行された短編集『痛みかたみ妬み』の増補版である。追加で加えられたのは、学生向け雑誌に発表された作品を中心に四作。うち二作は単行本未収録ということで、たんなる復刊にしないところはさすが日下氏。
ちなみに出版元はそれほどミステリのイメージがない中公文庫。これから本格的に参入するとちょっと面白そうだ。
「痛み」
「かたみ」
「妬み」
「セラフィーヌの場合は」
「切り裂きジャックがやって来る」
「影とのあいびき」
「またたかない星」
「兄は復讐する」
「オレンジ色のアリバイ」
「ヘア・スタイル殺人事件」
収録作は以上。
小泉喜美子は翻訳ミステリー風の都会派サスペンスや幻想的な作風で知られ、雰囲気作りが上手い作家だ。オチを効かせた作品も多く、そういった要素がきれいに融合すると『弁護側の証人』や『血の季節』みたいな傑作が生まれるのだろう。
ただ、正直そこまでアベレージの高い作家というわけではない。出版芸術社の『太陽ぎらい』みたいな傑作選はともかく、本書にかぎらず短編では作品ごとの出来不出来の差はけっこう感じられる。
まあ、これはオチがきれいに決まるかどうかにかかっているところが大きいので、翻訳ミステリー風味というか、独特のサラッとした語り口や雰囲気を楽しむということであれば、どの作品もそれなりに楽しめるはずだ。
ちょっと気になったのは、本書の帯に書かれている「イヤミスの元祖」云々。これはちょっと違うのではないか。
本来イヤミスになるようなネタでも、上にも書いたように著者ならではのサラッとした語り口で仕上げることによって、その読後感は意外にえぐみが少なく、むしろ小粋だったり、ときには甘く感じることさえある。たんに「イヤミス」として括るのはいかがなものだろう。
以下、印象に残った作品など。まずはタイトルの元にもなっている「痛み」「かたみ」「妬み」がよろしい。三編に共通するのは主人公の女性の心の内が、物語とリンクしてたっぷりと描かれていることである。それは主人公の二面性だったり、現実と理想の乖離だったり、錯誤と現実だったりして、じわじわと迫る悲劇を予感させてよいのだ。
「痛み」は感化院に収容されている少女同士の愛憎のもつれがベース。捻れたドラマも読みごたえがあるが、その先にある痛みが哀しみを誘う。
「かたみ」は着地が見えにくい話で、本格っぽいのかと思っていると、予想外の皮肉なラストが待っている。
「妬み」はタイトルどおり女性の“妬み”を描いた佳作。こういうのは男性作家にはなかなか書けないだろうなぁ。
そのほかでは著者が詳しいという歌舞伎をネタにした「セラフィーヌの場合は」が、女形の妖しい魅力に迫って興味深い。また、昭和四十年ごろの安手の映画みたいな「兄は復讐する」も、独特のチープ感を醸し出していてけっこう好みだ。
さて、本書はかつて双葉社から刊行された短編集『痛みかたみ妬み』の増補版である。追加で加えられたのは、学生向け雑誌に発表された作品を中心に四作。うち二作は単行本未収録ということで、たんなる復刊にしないところはさすが日下氏。
ちなみに出版元はそれほどミステリのイメージがない中公文庫。これから本格的に参入するとちょっと面白そうだ。
「痛み」
「かたみ」
「妬み」
「セラフィーヌの場合は」
「切り裂きジャックがやって来る」
「影とのあいびき」
「またたかない星」
「兄は復讐する」
「オレンジ色のアリバイ」
「ヘア・スタイル殺人事件」
収録作は以上。
小泉喜美子は翻訳ミステリー風の都会派サスペンスや幻想的な作風で知られ、雰囲気作りが上手い作家だ。オチを効かせた作品も多く、そういった要素がきれいに融合すると『弁護側の証人』や『血の季節』みたいな傑作が生まれるのだろう。
ただ、正直そこまでアベレージの高い作家というわけではない。出版芸術社の『太陽ぎらい』みたいな傑作選はともかく、本書にかぎらず短編では作品ごとの出来不出来の差はけっこう感じられる。
まあ、これはオチがきれいに決まるかどうかにかかっているところが大きいので、翻訳ミステリー風味というか、独特のサラッとした語り口や雰囲気を楽しむということであれば、どの作品もそれなりに楽しめるはずだ。
ちょっと気になったのは、本書の帯に書かれている「イヤミスの元祖」云々。これはちょっと違うのではないか。
本来イヤミスになるようなネタでも、上にも書いたように著者ならではのサラッとした語り口で仕上げることによって、その読後感は意外にえぐみが少なく、むしろ小粋だったり、ときには甘く感じることさえある。たんに「イヤミス」として括るのはいかがなものだろう。
以下、印象に残った作品など。まずはタイトルの元にもなっている「痛み」「かたみ」「妬み」がよろしい。三編に共通するのは主人公の女性の心の内が、物語とリンクしてたっぷりと描かれていることである。それは主人公の二面性だったり、現実と理想の乖離だったり、錯誤と現実だったりして、じわじわと迫る悲劇を予感させてよいのだ。
「痛み」は感化院に収容されている少女同士の愛憎のもつれがベース。捻れたドラマも読みごたえがあるが、その先にある痛みが哀しみを誘う。
「かたみ」は着地が見えにくい話で、本格っぽいのかと思っていると、予想外の皮肉なラストが待っている。
「妬み」はタイトルどおり女性の“妬み”を描いた佳作。こういうのは男性作家にはなかなか書けないだろうなぁ。
そのほかでは著者が詳しいという歌舞伎をネタにした「セラフィーヌの場合は」が、女形の妖しい魅力に迫って興味深い。また、昭和四十年ごろの安手の映画みたいな「兄は復讐する」も、独特のチープ感を醸し出していてけっこう好みだ。
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