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E・D・ビガーズ『黒い駱駝』(論創海外ミステリ)
E・D・ビガーズの『黒い駱駝』を読む。ホノルル警察の中国人警部チャーリー・チャンを探偵役とするシリーズからの一作である。
チャーリー・チャン・シリーズは全六作あるのだが、ひと頃は創元推理文庫の『チャーリー・チャンの追跡』、『チャーリー・チャンの活躍』ぐらいしか読めなかったように記憶している(その創元版すら読めない時期もけっこうあったようだが)。ところが今では論創海外ミステリで本作のほか『鍵のない家』、『チャーリー・チャン最後の事件』も刊行されて、ずいぶん状況が変わってきたのは慶賀の至り。
管理人もこれまでは創元の二冊しか読んだことがなく、それもン十年前のことなので、実に久々のビガーズである。
まずはストーリー。
長い航海を終え、ようやくハワイに到着した客船オセアニック号。その乗客のなかにはホノルルで映画のロケを予定している俳優や撮影隊の一行の姿があった。
ただ、主演女優シェラー・フェインの身辺だけは少々慌ただしいことになっていた。同乗していた富豪の鉱山王ジェインズからプロポーズを受けていたのである。
しかし、同じくフェインと同行していた占い師ターネヴェロの進言により、フェインはプロポーズを断ってしまう。そしてその理由の裏には、三年前、ハリウッドで起こった未解決殺人事件が関係していたのだ……。
帯に書かれた横溝正史絶賛したという惹句が目を引くが、まあ話半分に聞いていても、これはなかなか悪くない。
本作が発表されたのは1929年。ヴァン・ダインがアメリカでミステリの大きなムーヴメントを巻き起こした頃と重なるわけだが、タイプこそヴァン・ダインとは異なるけれども、こちらもまた当時を代表する本格ミステリのひとつといってよいだろう。むしろ安定感ではヴァン・ダインより上ではないか。
正直なところ本格ミステリとしてそれほど尖った作品ではない。チャーリー・チャンの推理も格別、鮮やかというわけではなく、どちらかというと事件の方で勝手に転がっていく感じで、そこが本格としての弱さをも感じてしまう部分だ。
ただ、数々のギミックや胡散くさい容疑者を散りばめているから、真相を突き止めてゆくカタルシスは決して低くない。
特に本作での肝となる、ハリウッドで起こった過去の事件の真相、また、怪しさ満点の占い師の正体、この二つの謎が今回の事件とも相まって、ストーリーを引っ張る力は十分。こういうところは金田一ものを連想させるところでもあり、横溝正史が絶賛した理由にもなっているのではないかと思う次第である。
チャーリー・チャン・シリーズは全六作あるのだが、ひと頃は創元推理文庫の『チャーリー・チャンの追跡』、『チャーリー・チャンの活躍』ぐらいしか読めなかったように記憶している(その創元版すら読めない時期もけっこうあったようだが)。ところが今では論創海外ミステリで本作のほか『鍵のない家』、『チャーリー・チャン最後の事件』も刊行されて、ずいぶん状況が変わってきたのは慶賀の至り。
管理人もこれまでは創元の二冊しか読んだことがなく、それもン十年前のことなので、実に久々のビガーズである。
まずはストーリー。
長い航海を終え、ようやくハワイに到着した客船オセアニック号。その乗客のなかにはホノルルで映画のロケを予定している俳優や撮影隊の一行の姿があった。
ただ、主演女優シェラー・フェインの身辺だけは少々慌ただしいことになっていた。同乗していた富豪の鉱山王ジェインズからプロポーズを受けていたのである。
しかし、同じくフェインと同行していた占い師ターネヴェロの進言により、フェインはプロポーズを断ってしまう。そしてその理由の裏には、三年前、ハリウッドで起こった未解決殺人事件が関係していたのだ……。
帯に書かれた横溝正史絶賛したという惹句が目を引くが、まあ話半分に聞いていても、これはなかなか悪くない。
本作が発表されたのは1929年。ヴァン・ダインがアメリカでミステリの大きなムーヴメントを巻き起こした頃と重なるわけだが、タイプこそヴァン・ダインとは異なるけれども、こちらもまた当時を代表する本格ミステリのひとつといってよいだろう。むしろ安定感ではヴァン・ダインより上ではないか。
正直なところ本格ミステリとしてそれほど尖った作品ではない。チャーリー・チャンの推理も格別、鮮やかというわけではなく、どちらかというと事件の方で勝手に転がっていく感じで、そこが本格としての弱さをも感じてしまう部分だ。
ただ、数々のギミックや胡散くさい容疑者を散りばめているから、真相を突き止めてゆくカタルシスは決して低くない。
特に本作での肝となる、ハリウッドで起こった過去の事件の真相、また、怪しさ満点の占い師の正体、この二つの謎が今回の事件とも相まって、ストーリーを引っ張る力は十分。こういうところは金田一ものを連想させるところでもあり、横溝正史が絶賛した理由にもなっているのではないかと思う次第である。
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