江戸川乱歩『明智小五郎事件簿 VI「黄金仮面」』(集英社文庫) - 探偵小説三昧
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江戸川乱歩『明智小五郎事件簿 VI「黄金仮面」』(集英社文庫)

 集英社文庫の『明智小五郎事件簿』シリーズは、乱歩が生んだ名探偵・明智小五郎の活躍を物語発生順に紹介するシリーズ。すでに八巻目の『人間豹』まで発売されてはいるが、月イチの刊行ペースについていくのはなかなか難しくて、ようやく六巻目の『明智小五郎事件簿 VI「黄金仮面」』である。

 まずはストーリー。
 その年の春、東京市民の間に怪人物の風評が起こった。ソフト帽のひさしを鼻の頭まで下げ、オーバーコートの襟を耳の上まで立てた、その怪しげな姿。しかし、もっとも怪しげなのは、帽子と襟の間から垣間見える無表情な黄金の仮面であった。
 黄金仮面の目撃情報が募り、ついには新聞の社会面まで取り上げるようになった頃、黄金仮面はついにその目的を明らかにする。上野で開催された産業博覧会に展示された大真珠が、なんと黄金仮面によって奪われてしまったのだ。
 さらに数日後。黄金仮面から日光市の鷲尾侯爵邸に、所蔵の古美術品を盗み出すという予告状が舞い込んだ……。

 明智小五郎事件簿VI

 当時の掲載誌『キング』の意向もあり、この頃の乱歩作品としては、『黄金仮面』はかなり猟奇趣味が控え目である。今までよりメジャーな媒体ということもあって、乱歩もより一般向けに楽しんでもらえることを意識した作品なのだ。
 具体的には活劇色、さらには探偵対犯人という対決の構図がひときわ強く打ち出されているのが特徴といえるだろう。それらの特徴を生かすためか、ミステリとしてはそれほど込み入ったものではなく、あくまでアクション中心、そして連作のようにいくつかの事件を積み上げていくという構成をとっている。

 それだけにミステリとしては見るべきところが少なく、かなりの粗も目立つのが残念。トリックも焼き直しが多い。
 一番の見どころと思える犯人の正体も、確かに驚くべきものではあるが、結局はアイディアありきの一発勝負であり、犯人のキャラクターをそれほどうまく処理しきれていないところにも不満が残る。
 
 そのような弱点を孕んでいるにもかかわらず、エンターテインメントして十分に楽しめる作品に仕上がっていることもまた確か。
 ともすれば滑稽なだけの物語に陥りそうな設定を、人気作品として成立させた乱歩の手腕はさすがである。例えば怪人という存在が都市伝説と化していく様子など、本作での試みが後の怪人二十面相につながっていったかと想像するのも楽しい。
 ぶっちゃけ傑作とは間違ってもいえないが、忘れられない作品のひとつだ。

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Comments

Edit

ポール・ブリッツさん

猟奇趣味は控えめですが、怪奇趣味はけっこう打ち出していますよ。特に前半は今でいう都市伝説風の煽り方をしていて、こういうところは上手いですね。

Posted at 00:52 on 12 26, 2016  by sugata

Edit

ポプラ社の少年探偵団シリーズの背に描かれていたこの黄金仮面をかぶった男の禍々しさに、幼稚園児の自分はこのシリーズを怪奇小説だと思い敬遠していました(笑)。

まあ間違っちゃいないか(笑)

Posted at 23:31 on 12 25, 2016  by ポール・ブリッツ

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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