カミ『機械探偵クリク・ロボット』(ハヤカワミステリ) - 探偵小説三昧
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カミ『機械探偵クリク・ロボット』(ハヤカワミステリ)

 『エッフェル塔の潜水夫』で知られるフランスのユーモア作家、カミ。そのカミが残した探偵といえば、シャーロック・ホームズのパロディであるルーフォック・オルメスが有名だが、実はもう一人、いやもう一体というべきか、彼は探偵を創出していた。
 本日の読了本は、カミの『機械探偵クリク・ロボット』。

 機械探偵クリク・ロホ#12441;ット

 クリク・ロボットはミステリ史上初のロボット探偵。四角い頭に鋼鉄の身体は無骨なれども、チェックのスーツと小粋なチロリアン・ハットに身を包み、産みの親、ジュール・アルキメデス博士とともに颯爽と事件に乗り出してゆく。
 その最大の武器は、何といっても正確無比なコンピュータである。様々な情報をインプットし、代数学的に謎を解く。〈手がかりキャプチャー〉、〈推理バルブ〉、〈仮説コック〉、〈短絡推理発見センサー〉、〈思考推進プロペラ〉、〈論理タンク〉などという、いかにも本格ミステリな機能が満載である。

 で、実際にミステリとしてはどうよ、となると、いい感じでゆるめである。捜査や推理については、けっこう真面目にミステリっぽくまとめてはいるが、普通の本格や警察小説と比べるのはさすがに無理がある。
  本作はあくまでミステリをネタにしたユーモア小説、あるいはミステリのパロディととらえた方が適切だ。ミステリの要素をコード化したような〈推理バルブ〉、〈仮説コック〉といった機能のネーミング、死んだはずの被害者が普通に証言したり、首を忘れて外に出たクリクにみんなが慌てふためいたり、お馬鹿な世界にどっぷり浸るのが吉。

 また、ポケミスには珍しく挿絵が入っているのだが、なんとカミ自身が描いたもの。これがまたゆる~い感じで、この絵があるだけで本書の魅力30パーセントほどアップといっても過言ではない。それぐらい魅力的。

 ひとつ気になったのは、クリク・ロボットはアルキメデス博士によってリモコン操作されているという設定だ。そして謎解きも博士の役目。いってみれば、クリクは現代のパソコン的な存在なのだろう。そこが物足りないといえば物足りない。
 例えば、もっと減らず口をたたいて、人間をバカにするような生意気なロボットを想像していた人も多いのではないだろうか。あるいは秀才型の委員長タイプでもいい。そんな人間くさい個性をもった存在にしなかったのはなぜだろう。
 クリクはあくまで従順で、人間に使われる存在である。それが当時(1945年頃)の欧米人の意識によるものなのか。あるいはカミの考え方なのか。想像するとなかなか面白い問題ではある。

 ちなみに本書には本格っぽいスタイルの「五つの館の謎」、アクション味が強い「パンテオンの誘拐事件」の二作を収録。クリクの登場作品はこの二作ですべてらしいが、ううむ、もっと読みたかったなぁ。

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Comments

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Ksさん

わ、Ksさんも読んでましたか。やっぱり、これは皆さん、読んでらっしゃるんですね。
ポケミスは最近の新人紹介路線もなかなかいいんですが、こういう古典の発掘もたまにやってもらえると嬉しいですね。

Posted at 00:03 on 04 12, 2012  by sugata

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もっと読みたかった

これは愉しめましたね。なんといってもその造形に脱帽です。
本当にもっと読みたかったですね。

Posted at 21:18 on 04 11, 2012  by Ks

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ポール・ブリッツさん

カミのセンスが光る一冊ですね。被害者が死んでいるのに証言するとか、そうかと思うと証言者が話をどんどん脱線させたりとか、シュールな笑いとベタな笑いを区別せずぶちこんでいるのがすごいです。

Posted at 11:46 on 04 07, 2012  by sugata

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この本わたしも大好きです!

読むたびに贋作短編を書きたくなってしまうので最近は遠ざけてますが(笑)

Posted at 11:02 on 04 07, 2012  by ポール・ブリッツ

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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