Posted in 05 2015
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マイクル・Z・リューイン『神さまがぼやく夜』(ヴィレッジブックス)
先日プロンジーニを読んだからというわけでもないのだが、今度はマイクル・Z・リューインの新刊『神さまがぼやく夜』を読んでみた。
リューインはプロンジーニと同様、ネオ・ハードボイルド系の作家である。私立探偵アルバート・サムスンやパウダー警部補、探偵家族ルンギ一家のシリーズなどが知られていて、どれもオススメなのだが、代表シリーズをひとつ挙げろと言われればやはりサムスンものを推したい。
サムスンものに関していえば、どの作品も事件自体はいたって地味なものだ。そこにハードボイルドの探偵にしては極めて常識人的なサムスンが関わっていくうち、アメリカの抱える社会問題が炙り出しのように、じわーっと浮かび上がってくるという寸法。
語り口も心地よく、シリアスな中にも程良いユーモアを漂わせる。惜しむらくはコレという絶対的な代表作がないことだが、裏返せばこれは出来にムラがないということでもある。水準はどれも一定のレベルを満たしているので、ハードボイルド云々にこだわることなく、幅広い層にオススメできるシリーズでもあるのだ。
前振りが長くなってしまったが、本作はそんな手練れのリューインが書いた数少ないノンシリーズ作品。しかも主人公がなんと神さまだというのだから、これは気にするなというほうが無理。
このところ新たな宇宙創造に集中するあまり、久しく人間界の様子に疎くなっていた天地創造の主、神さま。 久々に降り立った下界では、人間の進化が神の想像を遥かに超えてしまっていた。おまけにかつて自分に似せて創ったはずなのに、彼らのやることなすことがまったく理解できない。
その上、仕事にこもってばかりいたせいで欲求不満気味でもあった神さま。人間の女性との自由意志による肉体関係にも意識が向いてしまう。そこでリサーチとばかり夜ごと酒場を巡り歩くが……。
面白い。
要は現状に悶々としている神さまが、たまにはいい女といい関係になりたいぞという物語である。しかし酒場で女性に声をかけるところまではよいが、そのあとが続かない。
なんせこれまで自分の意志を一方的に行使するだけでよかった立場である。そもそもコミュニケーションなど取る必要がないので、コミュニケーション技術など無いに等しい。毎度のように女性の逆鱗をかい、平手打ちを食っては反省する日々だ。そんな神さまが少しずつ場数を踏み、ときには悪魔の知恵も借りながら、成功をめざす。
まあ、言ってみればそれだけのストーリーなのだが、この神さまの失敗談が大変面白く、そして多くの失敗から神さまも少しずつ教訓を得て、人間的に(?) 成長してゆく様が憎らしいほど巧い。ユーモアいっぱいなのだが、徐々にウルッと来るエピソードも差し込んでくるなど、この匙加減の絶妙さはさすがリューイ ン。大学での教授とのやりとり、小児病棟での子供とのやりとり、鯨とのやりとりなどは独立した短編でもいいぐらいの鮮やかさだ。
結局、本書でリューインが謳っているのは宗教論でもなく恋愛論でもなく、人間賛歌だ。
現代アメリカの抱える様々な問題のなかで、辛いことはいろいろあるけれど、それでも前を向いて歩こうよというリューイン流のメッセージなのである。ページの端々、エピソードのあちらこちらから、リューインのそんな気持ちがひしひしと伝わってくる。
殺伐としたミステリばかり読んでいる身としては、非常に気持ちよく楽しめた一冊であった。
リューインはプロンジーニと同様、ネオ・ハードボイルド系の作家である。私立探偵アルバート・サムスンやパウダー警部補、探偵家族ルンギ一家のシリーズなどが知られていて、どれもオススメなのだが、代表シリーズをひとつ挙げろと言われればやはりサムスンものを推したい。
サムスンものに関していえば、どの作品も事件自体はいたって地味なものだ。そこにハードボイルドの探偵にしては極めて常識人的なサムスンが関わっていくうち、アメリカの抱える社会問題が炙り出しのように、じわーっと浮かび上がってくるという寸法。
語り口も心地よく、シリアスな中にも程良いユーモアを漂わせる。惜しむらくはコレという絶対的な代表作がないことだが、裏返せばこれは出来にムラがないということでもある。水準はどれも一定のレベルを満たしているので、ハードボイルド云々にこだわることなく、幅広い層にオススメできるシリーズでもあるのだ。
前振りが長くなってしまったが、本作はそんな手練れのリューインが書いた数少ないノンシリーズ作品。しかも主人公がなんと神さまだというのだから、これは気にするなというほうが無理。
このところ新たな宇宙創造に集中するあまり、久しく人間界の様子に疎くなっていた天地創造の主、神さま。 久々に降り立った下界では、人間の進化が神の想像を遥かに超えてしまっていた。おまけにかつて自分に似せて創ったはずなのに、彼らのやることなすことがまったく理解できない。
その上、仕事にこもってばかりいたせいで欲求不満気味でもあった神さま。人間の女性との自由意志による肉体関係にも意識が向いてしまう。そこでリサーチとばかり夜ごと酒場を巡り歩くが……。
面白い。
要は現状に悶々としている神さまが、たまにはいい女といい関係になりたいぞという物語である。しかし酒場で女性に声をかけるところまではよいが、そのあとが続かない。
なんせこれまで自分の意志を一方的に行使するだけでよかった立場である。そもそもコミュニケーションなど取る必要がないので、コミュニケーション技術など無いに等しい。毎度のように女性の逆鱗をかい、平手打ちを食っては反省する日々だ。そんな神さまが少しずつ場数を踏み、ときには悪魔の知恵も借りながら、成功をめざす。
まあ、言ってみればそれだけのストーリーなのだが、この神さまの失敗談が大変面白く、そして多くの失敗から神さまも少しずつ教訓を得て、人間的に(?) 成長してゆく様が憎らしいほど巧い。ユーモアいっぱいなのだが、徐々にウルッと来るエピソードも差し込んでくるなど、この匙加減の絶妙さはさすがリューイ ン。大学での教授とのやりとり、小児病棟での子供とのやりとり、鯨とのやりとりなどは独立した短編でもいいぐらいの鮮やかさだ。
結局、本書でリューインが謳っているのは宗教論でもなく恋愛論でもなく、人間賛歌だ。
現代アメリカの抱える様々な問題のなかで、辛いことはいろいろあるけれど、それでも前を向いて歩こうよというリューイン流のメッセージなのである。ページの端々、エピソードのあちらこちらから、リューインのそんな気持ちがひしひしと伝わってくる。
殺伐としたミステリばかり読んでいる身としては、非常に気持ちよく楽しめた一冊であった。