Posted in 02 2011
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マイクル・コナリー『死角 オーバールック』(講談社文庫)
マイクル・コナリーの『死角 オーバールック』を読む。おなじみロス市警ボッシュのシリーズ最新作だが、今回はちょっと趣が違う。
というのも、本作はもともと『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』日曜版に連載されたものなのだ。つまり新聞読者の興味を惹くよう毎週のように見せ場を作りつつ、なおかつ連載各回を同等の分量に抑えなければならない必要があった。どちらかというと重厚長大な作風で、内面描写も少なくないボッシュ・シリーズだから、これらの条件は決して低くないハードルと言えるだろう。
それがどの程度、出来に影響を与えたのか、シリーズのファンとして気にならないはずがない。
ロスの展望台で男の射殺死体が発見された。現場に到着したボッシュは捜査を進めるが、そこへ介入してきたのはFBIの姿。牽制し合うボッシュとFBIだが、やがてこの犯行が単なる殺人ではなく、放射性物質を用いたテロの可能性があることが明らかになる……。
おお、ミステリとして、まずは文句なしの面白さ。当初の不安はほぼ杞憂に終わった。
いつもより長めに書けないところをちゃんと計算し、逆にスピード感で勝負する狙いの良さ。殺人からテロへと事件の性質が変化し、それに比例するかのように緊迫感が急加速という展開は圧巻の一言である。しかも、意外な真相、意外な犯人。最後まで抜かりのない、徹底したサービスぶりだ。おまけにレイチェルという強力キャラも添えて彩りを添える。
コナリーはいつのまにこんな巧くなったんだ、なんてことを毎回書いている気もするが、今回もまた別の面での巧さを感じた次第。
というように、単なる一冊のミステリとしてみれば、本書は決して損はさせない一冊。
ただ、惜しむらくはシリーズとしての弱さ。レイチェルの登場、若手刑事との新コンビ、過去作品からの繋がりなど、シリーズとしての体裁は問題なく整えているのだけれど、それは置き換え可能な表面的なものばかりなのだ。ボッシュ・シリーズをシリーズとして読ませているのは、ボッシュの内面の連鎖である。そこに変化や起伏がなければ、本シリーズの意義は低くなってしまうのではないか。
解説によると、実は本作はいくつかの改訂がなされ、本国では4つのバージョンがあるようだ。しかも初めて単行本として刊行された限定版では、ボッシュとレイチェルが復縁したようなラスト。そんな経緯も踏まえてか、なんと以後の作品では、二人の関係が一気に冷え切ったものに戻ってしまっているらしい。つまり本作のシリーズとしての意味合いを、著者自ら打ち消してしまったともいえる。さすがのコナリーも今回ばかりはしくじったということか(苦笑)。
まあ、そういった点なども考慮すると、やはり本作はボッシュ・シリーズ外伝として位置づけるべきなのだろう。
繰り返すが本作はミステリとして充分に一級品である。以上のことは、あくまでファンの無い物ねだりとして受け止めていただければ幸いかと(笑)。
というのも、本作はもともと『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』日曜版に連載されたものなのだ。つまり新聞読者の興味を惹くよう毎週のように見せ場を作りつつ、なおかつ連載各回を同等の分量に抑えなければならない必要があった。どちらかというと重厚長大な作風で、内面描写も少なくないボッシュ・シリーズだから、これらの条件は決して低くないハードルと言えるだろう。
それがどの程度、出来に影響を与えたのか、シリーズのファンとして気にならないはずがない。
ロスの展望台で男の射殺死体が発見された。現場に到着したボッシュは捜査を進めるが、そこへ介入してきたのはFBIの姿。牽制し合うボッシュとFBIだが、やがてこの犯行が単なる殺人ではなく、放射性物質を用いたテロの可能性があることが明らかになる……。
おお、ミステリとして、まずは文句なしの面白さ。当初の不安はほぼ杞憂に終わった。
いつもより長めに書けないところをちゃんと計算し、逆にスピード感で勝負する狙いの良さ。殺人からテロへと事件の性質が変化し、それに比例するかのように緊迫感が急加速という展開は圧巻の一言である。しかも、意外な真相、意外な犯人。最後まで抜かりのない、徹底したサービスぶりだ。おまけにレイチェルという強力キャラも添えて彩りを添える。
コナリーはいつのまにこんな巧くなったんだ、なんてことを毎回書いている気もするが、今回もまた別の面での巧さを感じた次第。
というように、単なる一冊のミステリとしてみれば、本書は決して損はさせない一冊。
ただ、惜しむらくはシリーズとしての弱さ。レイチェルの登場、若手刑事との新コンビ、過去作品からの繋がりなど、シリーズとしての体裁は問題なく整えているのだけれど、それは置き換え可能な表面的なものばかりなのだ。ボッシュ・シリーズをシリーズとして読ませているのは、ボッシュの内面の連鎖である。そこに変化や起伏がなければ、本シリーズの意義は低くなってしまうのではないか。
解説によると、実は本作はいくつかの改訂がなされ、本国では4つのバージョンがあるようだ。しかも初めて単行本として刊行された限定版では、ボッシュとレイチェルが復縁したようなラスト。そんな経緯も踏まえてか、なんと以後の作品では、二人の関係が一気に冷え切ったものに戻ってしまっているらしい。つまり本作のシリーズとしての意味合いを、著者自ら打ち消してしまったともいえる。さすがのコナリーも今回ばかりはしくじったということか(苦笑)。
まあ、そういった点なども考慮すると、やはり本作はボッシュ・シリーズ外伝として位置づけるべきなのだろう。
繰り返すが本作はミステリとして充分に一級品である。以上のことは、あくまでファンの無い物ねだりとして受け止めていただければ幸いかと(笑)。