2005年04月 - 探偵小説三昧
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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 04 2005

アレックス・プロヤス『アイ・ロボット』

 一応ゴールデン・ウィークだが特にこれといった予定もない。今月はまったく本が読めてないこともあったので、絶好の読書三昧と勝手に思っていたら、結局どこかへ旅行しようということになる。といっても今から宿探ししても無理に決まっているよなあ、などと勝手に思っていたらあっさりネットで温泉宿が見つかり、急遽明日から一泊二日で志賀高原へ行くことになる。

 夜はDVDで『アイ・ロボット』視聴。監督はアレックス・プロヤス。原作はごぞんじアイザック・アシモフの手によるものだが、映画の方はウィル・スミスを主役に据えて、軽快なSFアクション映画に仕上がっている。アシモフの描くロボット三原則、即ち

一. ロボットは、人間に危害を加えてはならない。
一. ロボットは、人間から与えられた命令に服従しなければならない。
一. ロボットは、前掲第一条及び第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

 これをロジックとしてどう打ち破るのか。アシモフのロボットものは、この点がミステリ的にも大いに楽しめる部分なのだが、映画はその辺のツッコミが甘く、ちょっと残念。全体的にはまずまず楽しめるが、原作を知る人にはやっぱり物足りないだろうな。


歓迎会

 新人二名の歓迎会。一人は下戸、一人は酒豪という対照的な組み合わせが面白い。しかし最近、本当に飲む機会が増えており(ほとんどは仕事絡みだけど)、けっこう次の日に残るのが辛い。以前はここまで残らなかったのに、これもやっぱり歳のせい?

久生十蘭『黄金遁走曲』(現代教養文庫)

 久生十蘭『黄金遁走曲』読了。収録作は「ノンシャラン道中記」「黄金遁走曲」「花束町一番地」「モンテカルロの下着」の四作で、いずれもヨーロッパを舞台にしたドタバタ喜劇である。

 『魔都』でもちらちらと感じたのだが、十蘭は物語るということにおいて、全方位的な資質を持っている作家のようだ。しかもそれがすこぶる高いレベルで。まあ、こんなことはおそらく今までいろいろな人が語っているのだろうが、久生十蘭初心者としては、とにかく感心するばかりなのである。ここ数年、大正から戦後くらいまでの探偵小説を意識的に読み、そしてその魅力にあらためてとりつかれた自分だが、久生十蘭は特別興味深い作家になりつつある。ここまで「読む」という行為を極めようとしていた作家が他にいただろうか?

 今回読んだ『黄金遁走曲』で示されるのは、十蘭のコメディ作家としての資質。キャラクターやストーリーも悪くないのだが、それ以上にここでも非常にリズミカルな文体が一層の効果を上げている。
しかもただ単にテンポがいいというのではなく、講談調であったり落語調であったり、いろいろなエッセンスがうかがえる。やはりこういう資質というのは、劇作家であることと無縁ではないはずだ(実際はどうなんだろう?)。

 ちなみに文体だけでなく、単語やルビにいたるまでが独創的(そもそもタイトルも「黄金遁走曲」と書いて、「フューグ・ドレエ」と読む)。作者は原稿用紙の上を縦横無尽に泳いでいるようかのようである。
 いわゆる探偵小説からは離れているので、そちらを期待する向きには勧められないが、この時代でしか感じられない文化を味わうには、とにかく最適の一冊であろう。


富士山を見に

 休みだというのに早朝から起き出し、山中湖&河口湖へ向かう。都心では先週で桜もお終いだったが、さすがにこの辺りは気温も低いせいか、今が八分咲きというところ。天候に恵まれたうえ、富士山と桜のコラボレーションがとにかく素晴らしい。久々に心洗われる思いです。

『逆転裁判』

 仕事関係のパーティに出席。朝の三時頃まで痛飲。久々に気持ち悪くなる。

 今月に入って読書量が激減しているが、これは仕事のせいばかりではない。何を隠そう、って隠すレベルの話でもないが、実は最近ゲームボーイの『逆転裁判』というゲームにはまっているせいだ。貴重な通勤電車での読書時間がこれで大きく削られているのである。
 『逆転裁判』はタイトルどおり法廷ミステリをネタにしたアドベンチャーゲーム。自分は弁護士として容疑者の無実を勝ち取るという内容である。正直、まともなミステリを期待するとガッカリするが、証人の矛盾をついて真実を見つけだすというパターンはそれなりに楽しめ、まあ、いわゆるペリー・メイスンの気分は十分味わえるゲームなのである。それだけにミステリとしての部分が弱いのは何とも惜しい。


エドワード・D・ホック『こちら殺人課!レオポルド警部の事件簿』(講談社文庫)

 友人とバレエを観にいくという相方を駅まで送り、そのまま自分は古本屋へ。普段あまり行かない店でもと、府中の古本屋をいくつか回る。「幻影城」のバックナンバーを二冊ほど買った程度でとりたてた買物はなかったが、小さいけれど妙に充実したお店を一軒見つけたのが収穫。ちょっと府中へ来る楽しみが増えた感じ。
 夜はストレス解消のため、本格的なトマトソースのパスタを作る。トマトの湯むきから始めて、長時間煮込んだトマトソースはさすがに上手い。普段は缶詰のトマトでお茶を濁すことも多いのだが、やっぱり手間暇かけなきゃ駄目なのだな。仕事もいっしょ。

 エドワード・D・ホックの『こちら殺人課!レオポルド警部の事件簿』読了。レオポルド警部シリーズを集めた日本独自の編纂による短編集だ。収録作は以下のとおり。

Circus「サーカス」
Death in the Harbor「港の死」
The Freech Case「フリーチ事件」
The Rusty Rose「錆びた薔薇」
The Vanishing of Velma「ヴェルマが消えた」
The Murder Parade「殺人パレード」
Captain Leopold and the Ghost Killer「幽霊殺人」
The Impossible Murder「不可能犯罪 」

 最近では怪盗ニックや青年医師サム・ホーソ−ンものでホックを知った人も多いのだろうが、一昔前はホックといえばレオポルド警部の方が有名だったと記憶する。警部が主人公という、ミステリとしては実に当たり前の設定のうえに、作風が警察小説やハードボイルド寄りなので、やや地味に思われて損をしているのかもしれない。
ニックやホーソーンものといったユーモア風味も悪くはないのだが、個人的にはレオポルドものの渋さを好ましく思う。

 お気に入りは、まず「港の死」。ネタ自体はオーソドックスなものだが、見事に計算されたプロットとクライマックスがお見事。観覧車での少女の消失を描いた「ヴェルマが消えた」も悪くない。フタを開けるとそれほどのトリックではないが、謎の設定が面白い。トリックが一番面白かったのは「不可能犯罪」。絵図らを想像するだけで楽しい一編。
 警察小説寄りとは書いたが、レオポルド警部ものも本質はれっきとした本格。大がかりなものはないけれど、平均点は十分上げられる作品集といえるだろう。残念なことに好評絶版中の一冊だが、せっかくニックやホーソーンの短編集が次々と出ているのだから、講談社も重版するなり、第二弾なりをまとめればいいのに。


プチ花見

 家族サービスで立川の昭和記念公園にプチ花見。桜は今週がほぼワンチャンスらしく、来週には雨でほとんど終わってしまうらしい。というわけでけっこう朝早くから出かけるが、すでにかなりの人出である。桜もせめて3週間ぐらい咲いていてくれると日時を選べていいのだが、何とまあ融通の利かないことよ。
 そして午後一時には早々に退散し、そこから出社。家族には申し訳ないが、これもまた家族のためであるから仕方あるまい。
 ちなみに通勤のお供はエドワード・D・ホックの『こちら殺人課!レオポルド警部の事件簿』。そんなに厚くない短編集なのに、最近は電車で寝ることが多く、さっぱり進まない。感想を書けるのはいつの日か。

目が回る忙しさ

 仕事でいろいろな業務を掛け持ちしているため、目の回るほどの忙しさ。時間は一応取れないこともないのだが、精神的に読書をしたり日記をつける余裕がないのである。
 それでも今日は社内レイアウトの変更を無事に済ませることができ、少しだけ気が楽になる。しかし、すぐに社員の研修用プログラムの作成や会社のサイトの全面リニューアル、個人情報保護法の対策などが待っているため、果てしなくゴールが見えない。この他に通常の編集関係の業務もしっかりこなさなければならないため、ときどき自分で何をやっているのかわからなくなる。
 締め切りがある仕事も辛いが、ゴールのない仕事もまた違った辛さがあるのだと、この二、三年で実感。

ジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男』(中公文庫)

 誕生日。過去の日記で一度も書いたことがないのは、何を今更、みたいな気分だったのだろう。歳を重ねて嬉しかったのは結局十代の頃だけなのだな。

 ジェローム・K・ジェーローム『ボートの三人男』読了。イギリスの古典的なユーモア小説で、タイトルどおり三人の男がボートに乗ってのんびりテムズ川を下る旅の模様をつづった古典ユーモア小説である。ちなみにこの旅には1匹の犬(フォックステリアだったかな?)も同行するのだが、ご丁寧に副題には「犬は勘定に入れません」とつく。
 ここで当然思い出されるのが、昨年、評判になったコニー・ウィリスのSF小説『犬は勘定に入れません』。もちろん本家はジェロームの方で、『犬は勘定に入れません』は『ボートの三人男』へのオマージュというわけだ。

 実は今回『ボートの三人男』を読んだのも、『犬は勘定に入れません』を読むための予習だったわけである。
 だが、きっかけは何であれ、やはり古典は読んでおくべきだと実感した。古くさいユーモアが現代の強烈な笑いに慣れた自分にどの程度響くかと心配だったのだが、予想を遙かに超える面白さだ。爆笑というよりは少しづつ可笑しさがこみあげてくるタイプだが、ドタバタもけっこう混ぜ込んであるので、ほぼ全編に渡って退屈することがない。

 主人公の三人はほぼ似たようなタイプである。自分がすこぶる有能であり、誰からも好かれる、まさに英国のジェントルマンと呼ばれるに相応しい人間であると自負している。しかし実際のところはモラトリアムなところを多分に残している、天然ボケな方々。その三人が交互にやらかす数々の営みがなんといえず楽しい。
とにかく作者の日常や人々を観察する眼が確かなので、「いるいる、こんなヤツ」というわかりやすさも○。解説によると、作者はもともとユーモア小説を書こうとは思っていなかったらしく(テムズ河流域の歴史と地理を知るためのガイドブックだったらしいが、なぜに?)、それが本書のじわっと来る面白みとも関係しているのだろう。
 殺伐としたミステリに疲れたら、ぜひ。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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