羽田健太郎『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』: 音盤皇女の劇伴日記

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2007.06.20

羽田健太郎『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』

 また残念な訃報を聞いてしまうことになりました。羽田健太郎といえば『さらば宇宙戦艦ヤマト』の「大いなる愛」を初めとするヤマトの名曲の多くをピアノで支えたプレイヤーであり、『宇宙戦艦ヤマト完結編』に至っては劇伴の作曲まで手掛けたことで、ヤマトの音楽ファンにとっては忘れるに忘れられない人です。

 追悼企画として何が良いかなと迷ったけど、『ハネケン・ランド』は以前にこのブログで取り上げてるし、『宇宙戦艦ヤマト完結編』『超時空要塞マクロス』『オーディーン』あたりは昔のパソコン通信時代の連載で書いてるし、『さよならジュピター』わざわざアナログ盤の再生環境を用意するのが面倒……。そういえばと思い出したのがこの『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』です。
 ヤマトの生誕10周年記念として音楽的に後世に残るものをと企画された四楽章構成の本格的な交響曲で、N響により初演されたものですが、残念ながら再演されたとかいう話は聞いたことがありません。
 ヤマトといえば宮川泰の音楽ですが、それをモチーフに堂々としたクラシカルな交響曲を紡いだのが羽田健太郎でした。後年、ピアニストとしてクラシック音楽のコンサートも手掛けるようになったハネケンですが、この方面で本格的なオーケストラ楽曲までは残していないようなので、後にも先にもこれが一番の大作ということになるでしょう。

 この『交響曲』、アナログ盤にCD新旧、LD新旧にDVDと手元に数だけはあるから、どれを聴こうかと考えましたが、数年前に出た30周年記念のプレミアムCD-BOXの特典ディスクとして「トラックダウンバージョン」という、既製のCDとは別バージョンのものが付いていたので、それを聴いてみることにしました。
 これは何かというと、既製のCDの音源は演奏時に2チャンネル用のステレオマイクで収録された音源がそのまま使われてるらしいのですが、それとは別に複数のマイクでマルチトラック録音された音源があって、DVD等の音源として使われているとのことです。マルチトラックと言ってもコンサートでの一発録りですからパート別に音がきっちりわかれてるってわけでは無いでしょうが、本来意図する音に近いようにバランスを調整する目的で使われてるようですね。
 DVDでは第一~第三楽章がこのトラックダウンバージョンを使用してるとのことなので、第四楽章はCDと同じ音源を用いてるってことでしょうが、DVDでも未使用の第四楽章分も入ってるのがこの特典ディスクということみたいです。

 では、収録曲目です。

 01. 第一楽章「誕生」
 02. 第二楽章「闘い」スケルツォ
 03. 第三楽章「祈り」アダージョ
 04. 第四楽章「明日への希望」ドッペル・コンチェルト

 演奏は大友直人指揮のNHK交響楽団。ソリストとして、スキャットが川島和子、バイオリンがN響コンサートマスター(当時)の徳永二男、そしてピアノが作曲者の羽田健太郎自身です。
 ちなみに現在出てるDVD版はコンサート当日のライブ映像を昨年他界された実相寺昭雄監督の手でまとめられたもので、後年NHK教育で放送された他、ビデオソフトとして発売されたものです。

 それでは順番に聴いていきましょう。


 第一楽章「誕生」

 第一楽章はオーソドックスなソナタ形式です。

(序奏)
 静かに沸き起こってくるような、夜明けのようなフレーズ。

(提示部)
 やがて現れるヤマトのメインテーマがこの楽章の第1主題です。バラード風に始まったかと思うとダイナミックに展開していきます。ブラスを主体に強弱を繰り返しながら、様々に展開されていきますが、主調はマイナーです。
 ここで用いられる旋律は「さらば~」から最初の「ヤ~マ~ト~」までの前半部。ポピュラー形式の歌曲だと全体を1つの主題として使うのが難しいのか、基本的に第1主題は前半部の旋律だけがもっぱら使われています。
 途中、ブラスとストリングスの激しくスピーディーなユニゾンと木琴の畳み掛けるような連打の部分が現れますが、『完結編』の「抜けるヤマト」に似たような表現のフレーズがあるんですね。プレミアムCD-BOXの解説書には使用曲として「抜けるヤマト」も記載されているのですはこれは違うんじゃないのかな。作曲者が同じだからたまたま似たような表現になっただけで、モチーフとして「抜けるヤマト」が使われたわけではないと思います。(現に既製CDのライナーの羽田健太郎自身の解説には記述がありませんし)
 断片的に用いられてきたヤマトのテーマがとりあえず前半部分を通して奏で終えたところで第1主題の提示は終わります。

 ストリングスによる短い間奏の後、第2主題の「イスカンダル」のモチーフが始まります。この間奏のフレーズ、どこか『さらば宇宙戦艦ヤマト』のデスラーのモチーフに似てるのですが、これも恐らく「イスカンダル」への繋ぎの音を探してたらたまたま似ていたってところでしょうね。宮川泰の原曲の作曲自体が似た曲想から始まってるんじゃないでしょうか。
 木管とストリングスを主体に静かに奏でられる第2主題は第1主題とは反対にメジャーで展開されます。第1主題のようにモチーフが断片的に不安定に変奏を繰り返すのではなく、美しい旋律が歌い上げるように奏でられます。

(展開部)
 静かに湧き上がってくるように再び第1主題が始まります。提示部とは一転して今度はメジャーで、華々しく展開されます。ここで初めて現れるヤマトのメインテーマの中盤の「宇宙の彼方イスカンダルへ」の部分がトランペットで高らかに奏でられるのがとても印象的です。
 華やかで派手な展開が繰り広げられますが、ここで現れるアレンジの技巧は『マクロス』や『さよならジュピター』でも見られる羽田健太郎らしさが発揮されています。そして大きく高らかに雄大なヤマトが奏でられます。

(再現部)
 いったん静寂にかえった後、提示部と同じように第1主題が展開されていきます。やはり主調はマイナーで、提示部よりは短めに終わります。
 ストリングスによる間奏のフレーズはやや長めで、ゆったりと大らかな第2主題がやはりメジャーで奏でられます。キーは提示部に比べてやや低めのイメージで、落ち着いた感じがします。
 曲は平和裏に大団円を迎えるかのように静かに終わっていきます。


 第二楽章「闘い」スケルツォ

 第二楽章はスケルツォ。交響曲におけるスケルツォとは、古典交響曲でのメヌエットに相当するテンポ速めの3拍子の舞曲というところですね。構成的には二部形式の一種のようです。

(A部)
 力強いブラスによる畳み掛けるような短い序奏。これはなぜか4拍子。
 スピーディーで流れるようなストリングスで奏でられる第1主題は『完結編』の「神殿部の斗い」のモチーフ。原曲のブラスのイメージが強いので、初めてこれを聴いたときはとても美しい旋律に聴こえました。
 そこに絡んでくるのがブラスの高らかな「FIGHTコスモタイガー」のモチーフ。「神殿部の斗い」は元から3拍子の曲なので構わないのですが、16ビートの「FIGHTコスモタイガー」が3拍子で奏でられるとかなり物足りない印象を受けます。ともに都市衛星ウルク攻防戦で用いられていた曲なので、イメージ的にはディンギル帝国との戦いですね。
 『完結編』では主に宮川泰がテーマ関連の楽曲、羽田健太郎が状況音楽を担当していて「神殿部の斗い」というのは状況音楽の方で、ヤマト側でもディンギル側でもなく、戦闘状況を描いてる曲なんですね。そこで展開次第ではどちら側のテーマ曲ともくっつくということになります。
 バイオリンによる諧謔的な跳ねるようなフレーズと、それに対応したブラスアンサンブルの繰り返しが展開された後、再び「神殿部の斗い」のフレーズが現れます。それに続き重低音で展開されるのが「ウルクの歴史」のモチーフです。
 諧謔的なフレーズがフルートによってややおとなしめに展開され、静寂に移行していった後、再び「ウルクの歴史」のモチーフが大きく奏でられえます。

(A’部)
 流れるようなストリングスで第1主題の「神殿部の斗い」が変奏的に奏でられます。ここまでくるともう戦いの音楽というより、もっと美しい別の何かの音楽のようです。ブラスが派手に展開されますが、ここでは「FIGHTコスモタイガー」のモチーフは入って来ません。
 短めの展開が続いた後、「ウルクの歴史」のモチーフが堂々と奏でられます。

(B部)
 静寂から奏でられるセレナーデ風の旋律が第2主題。これは3拍子ではなく4拍子ですね。ここでは既製曲のモチーフは使われず、新たなモチーフが生み出されています。戦いの合間の休息というか、戦い疲れて安らぎを求めるというか、そういうところです。
 序盤はストリングス主体に静かに奏でられた後、中盤でブラスも加わってやや力強く。後半はフルートで静寂に戻った後、再びストリングス主体の展開。滔々と朗じるかのごとく、引き伸ばす感じで終わっていきます。

(A”部)
 冒頭の序奏から繰りかえられますが、今度は最初に「FIGHTコスモタイガー」のモチーフが華々しく奏でられます。そしてストリングスの諧謔的なフレーズの展開の繰り返しの後、流れるような第1主題の「神殿部の斗い」が入ってきます。
 そして重低音の「ウルクの歴史」のモチーフが奏でられて終わります。


 第三楽章「祈り」アダージョ

 第三楽章はアダージョ。いわゆる緩徐楽章です。構成はやや変則ですが、三部形式といっていいでしょう。

(A部)
 風がそよぐような静かに始まるストリングスの序奏の後、穏やかに入ってくる第1主題。ここでは「平和への祈り」ともいうべき新しいモチーフで作られています。
 その第1主題に取って代わるように現れる第2主題がおなじみの「無限に広がる大宇宙」のモチーフです。ここでは木管とストリングスによってゆっくりと奏でられます。
 その後、ホルンを含む穏やかなフレーズがゆるやかに展開していき、やや高らかに歌い上げられて静かに消えていきます。

(B部)
 ややテンポの速い木管による短い序奏の後、さっきはメジャーで奏でられていた第1主題が今度はマイナーで展開されていきます。
 最初はストリングス主体だったフレーズに、やがて木管とブラスが加わってきて力強く展開されます。

(C部)
 静かに入ってくる川島和子による第2主題のスキャット。いわばヤマトを代表する音の1つですが、声の調子が良くなかったのか、あまりきれいに出てませんね。
 ブラスが入って高らかに奏でられる展開の後、再び静かにゆっくりとしたスキャットの調べ。木管とストリングスによって間奏のフレーズが奏でられた後、ホルンによる高らかなフレーズが続き、雄雄しく穏やかに終曲に向かいます。


 第四楽章「明日への希望」ドッペル・コンチェルト

 第四楽章はピアノとバイオリンによる二重協奏曲。構成はラプソディー形式ということなので、古典的な定型形式ではなく自由な形式を用いているとのことです。といっても、まったく無構成のメドレー形式というわけでもありませんので、便宜的に構成を分けて聴いてみましょう。

(A部)
 重厚なブラスで奏でられる力強い第1主題。新規のモチーフですが、意味的には「勝利の祝福」とか「凱歌」とか、ヤマトの活躍によって得られた平和を祝うような華々しい旋律ですね。
 そこに絡んでくる羽田健太郎の軽やかなピアノ。少しだけヤマトのテーマを奏でているのがニヤリとさせてくれます。ピアノとオーケストラの掛け合いが続いた後、再びオーケストラが第1主題を高らかに奏でます。
 ここで徳永二男のバイオリンソロが、第1主題に反発するような切なく滔々とした旋律を奏でます。「勝利の祝福」を否定するようなそれは、『パート1』のガミラス本星の決戦の後で戦いの残した虚しさに気付き「勝利か、クソでも食らえ」と叫んだ古代進の心情を表しているようです。
 しかし、その反発も虚しく、ピアノまでもが第1主題を奏で始め、オーケストラと調和して盛り上がります。

(B部)
 続いて現れるのが第2主題。これもお馴染みの「大いなる愛」のモチーフです。「大いなる愛」自体が2つの異なるモチーフで構成されていますが、これは『さらば宇宙戦艦ヤマト』で森雪の密航が発覚したシーンの音楽(モチーフA)とラストの壮大な愛のテーマ(モチーフB)を、サントラ盤用のレコーディングをするときにくっつけてしまったからですね。この第2主題はその「大いなる愛」の2つのモチーフを合わせてモチーフとしています。
 まずピアノがモチーフAを奏で、続いてバイオリンソロがピアノを伴奏に同じモチーフAを繰り返します。そしてストリングスが盛り上がってきてモチーフBを奏で始め、最後はオーケストラ全体で盛り上がり、モチーフBを華やかに繰り返します。
 ここは「我々がしなければならなかったのは戦うことではない。愛し合うことだった」という古代進の訴え掛けが広く受け入れられていくような展開を表しているようです。

(C部・序盤)
 ここからが怒涛の展開部で、さらに大きく3つの構成に分けられます。
 まず、第三楽章の第1主題のモチーフが第1主題と一体化してオーケストラによって高らかに奏でられます。第三楽章ではマイナーだったのがここではメジャーなので若干印象が違うようですが、ここで表されるのはやはり「平和の謳歌」でしょう。愛だ何だと小難しいこと言ってないで、せっかく勝利で手に入れた平和だなんだからそれを謳歌しようって感じです。これには愛で平和が守れるのかという反語もあります。
 これに反発して表れるのが、やはりバイオリンソロによる訥々と訴えかけるような旋律。今度は孤軍奮闘ではなくてピアノ伴奏を伴い、第1主題や第2主題のフレーズも交えて訴えかけていきます。平和の繁栄の中でテレサのメッセージに耳も傾けない防衛会議の首脳たちに「地球は宇宙の平和を守るリーダーではなかったのか」と批判する古代進の心情のようです。
 オーケストラが第1主題を高らかに奏で、続いて激しい展開を見せます。第一楽章でも現れたブラスとストリングスの激しくスピーディーなユニゾンと木琴の畳み掛けるような連打のフレーズが繰り返されます。
 やがてバイオリンソロがオーケストラと反発しあう展開が繰り広げられ、喧々諤々と主張の応酬をしてる様が描かれてるようです。

(C部・中盤)
 盛り上がりの中から傾れ落ちるように音階を下げていくピアノ。いったん極限まで弱まったところから、切々と語りかけるような旋律が奏でられ始めます。ピアノはやがて第1主題を奏で、続いてヤマトのテーマをバラード風に弾いていきます。
 ここでは熱くなった議論の双方に頭を冷やさせる一方、語り方を変えて訴えかけて双方の仲を取り持とうとしてる立場というところですね。ヤマトの戦いが何だったのかをもう一度考え直させているようです。

(C部・終盤)
 中盤のピアノを引き継いで、バイオリンソロが第2主題のモチーフAを奏で始めます。次第にリズミカルに弾むようなバイオリンの早弾きにピアノ伴奏が加わって展開していきます。
 バイオリンが盛り上がりきったところでオーケストラが第1主題を華々しく奏でると、再びバイオリンとの掛け合いが始まりますが、ここでは対立するというよりも熱っぽく語らい合ってるという感じになっています。
 その後はバイオリンとピアノがオーケストラと一体となって第2主題のモチーフBを雄々しく高らかに歌い上げて大団円を迎えます。

(コーダ)
 盛り上がった中をそのまま引き継ぎ、重厚に力強いヤマトのテーマが奏でられ、堂々の完結を迎えます。

     ☆ ☆ ☆

 第一楽章はヤマトのメインテーマをモチーフに使い、短い序奏に長めの提示部、派手な展開部、再現部と続く、堂々としたソナタ形式ですね。
 第二楽章は第1主題の「神殿部の斗い」の美しさがまず目を引くところですが、第2主題のセレナーデがさらに優雅さを加えていて、元がアニメの戦闘音楽とは思えないくらい芸術的に仕上がってるように思います。
 第三楽章はヤマトでは馴染みの深い「序曲」のスキャットが現れ、改めて心が洗われるような清らかさを感じさせてくれます。
 第四楽章はもうこれだけで独立した楽曲として通用しそうなぐらいの、極めて完成された素晴らしい仕上がりです。ただ、バイオリンはともかく、ピアノは羽田健太郎自身の演奏が前提で作られてるような曲なので、ピアニストが変われば印象ががらりと変わってしまう懸念はあります。

 「大いなる愛」というと後年のコンサート等では作曲者の宮川泰自身がピアノを演奏することが多かったのですが、羽田健太郎の演奏と比べるとやはり印象が違いますね。羽田健太郎が軽やかでしゃれたイメージなのに比べると、宮川泰は湿っぽいというか情にほだされたようなイメージでした。

 ポピュラー音楽とクラシック音楽の違いの一つに、ポピュラーではしばしば特定のアーチストが前提とされているのに対し、クラシックはアーチストを選ばないという点がありますが、そういう意味では純粋な交響曲として徹し切れてない部分も大きいと思われますが、せっかく後世に残るようにと作曲された作品だから、何度も再演されるようになってほしいものです。(自分が生で聴きたいというのが第一ですが)


今回のサンプル(これの特典ディスク)
生誕30周年記念 ETERNAL EDITION PREMIUM 宇宙戦艦ヤマト CD-BOX
生誕30周年記念 ETERNAL EDITION PREMIUM 宇宙戦艦ヤマト CD-BOX

単品CDは入手が困難なようですね
交響曲 「宇宙戦艦ヤマト」~ライブ~
交響曲 「宇宙戦艦ヤマト」~ライブ~

最も入手が容易なのがDVD版でしょうか
交響曲 宇宙戦艦ヤマト ライブ
交響曲 宇宙戦艦ヤマト ライブ

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コメント

こんにちは。

この交響曲宇宙戦艦ヤマト、2009年5月に大友氏指揮で再演さえる情報があります。

まだ未確認なので多くは語れませんが、千載一遇のチャンスになるかもしれません。

投稿: 9の部屋 | 2008.11.03 13:09

9の部屋様、コメントありがとうございます。
再演される予定があるなら、ぜひ聴きに行きたいですね。どうせ関東の方だろうから旅費と日程の調整をつけないといけないでしょうけど……

投稿: 結城あすか | 2008.11.04 05:44

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