交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202
(※注意 この記事は収録曲「カーテンコール」の内容のネタバレを含みます)
21世紀の新たなるヤマトの交響組曲です。
一つ前の『交響組曲 新宇宙戦艦ヤマト』がぎりぎり20世紀最後の年でしたから、実に21年ぶりということになりますが、『交響組曲 新宇宙戦艦ヤマト』はあくまで新作のためのイメージアルバムであり、大半が既製曲のメドレーにすぎない実態であり、またサントラ盤との区別の曖昧な『交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ』も、ある意味で別物のように思えます。
既製の劇伴曲をベースに新たなるアレンジで純粋に鑑賞用アルバムとして製作されたという点では最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の対になるべき存在であり、その相手が今もなおアニメ音楽史上不朽の名盤として語り継がれている以上、完成度は気になるところです。
まぁ以前に「交響組曲の終焉」なんてことを書いた手前、新しい交響組曲がどんなものかは興味があるところでもあります。
タイトルが『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202』であるように、メインとなっているのは『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』で用いられた楽曲であり、そこに宮川彬良が手掛けた『宇宙戦艦ヤマト2199』や『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』の楽曲も一部含まれて構成されています。
全体が7つの章立てで構成され、曲名に「第○章」と付いているのは最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のそれぞれの楽曲が『交響組曲』の1曲であるとともに独立した1曲というイメージがあるのに対して、あくまで『交響組曲』全体で1つの作品であるという明確な主張のように思われます。
第一章 地球
銀河の胎動~再生の序曲
アンドロメダ
ヤマト発進
『2202』の新規曲である「銀河の胎動」から始まり、続く旧第1作からの「誰もいない街」で予期しない意外性をアピールしてきます。そして、『新たなる旅立ち』のタイトル曲で馴染みの「ヤマトに敬礼」が新鮮なアレンジで盛り込まれでいます。
ストリングスから始まるバラード調のヤマトのテーマは「宇宙戦艦ヤマト2202・新序曲」の中盤からですが、アレンジ的にはいくらか『交響組曲』の「追憶」を意識しているような印象を受けます。
旧作『さらば宇宙戦艦ヤマト』からの「アンドロメダ」は『2202』劇伴に沿ったアレンジ。第1話で登場した禍々しいアンドロメダではなく、旧作通りの地球復興のシンボル的なイメージを表しています。
最後は「元祖ヤマトのテーマ」。オリジナルの軽快なビッグバンドの演奏よりも重厚なオーケストラアレンジに仕上がってるところが聴き物。ステレオ版『さらば宇宙戦艦ヤマト』の発進シーンでモノラル版の「元祖ヤマトのテーマ」の代わりに『交響組曲』の「誕生」のメインテーマを持ってきてるようなところが、なんとなく思い出されてきます。
ただ、「アンドロメダ」で楽曲的に区切りが付いた後にヤマトのテーマを持ってくる必要があるのかというところは、ちょっと違和感を覚えました。
第二章 テレサ
テレサより、人間たちへ
追記
冒頭の重く悲痛な曲は『2199』からの「膠着する戦闘」。
そして旧作『さらば宇宙戦艦ヤマト』から使われている「テレサのテーマ」(旧作BGM集では「テレサ愛のテーマ」)。途中から『不滅の宇宙戦艦ヤマト』の「テレサのためいき」を思わせるようなリズムの付いたポップなアレンジに代わり、そしてピアノがメインとなるジャズっぽいアレンジへと移っていき、最後は「コスモウェーブ」(旧作BGM集では「テレサのテーマ」)のサスペンス的な短い末尾で締めくくられます。
この曲の聴きどころは中盤以降の新規アレンジ部分ですが、ちょっと個々の部分が独立しすぎていて、あっさりとしすぎてる印象を受けます。
第三章 白色彗星
白色彗星の系譜(キース・エマーソンに捧ぐ)
大帝ズォーダー
重低音の弦楽器(コントラバス)で奏でられる「白色彗星」、次いでパイプオルガンっぽい音色で奏でられた後、一転して重厚なエレクトリックアレンジに移っていきますが、この辺がキース・エマーソンっぽいのかな。とはいえ『幻魔大戦』と『ゴジラ FINAL WARS』しか知らないので何とも言えませんが。
テンポが目まぐるしく変わるエレクトリックなサウンドの後は、オルガンを使った教会音楽風のフレーズをはさみ、『2202』の新曲の中でも最重要の「大帝ズォーダー」。劇伴よりも重厚で、より悲痛な宿命を印象づけています。
第四章 暗躍
独裁者の悲哀~潜航する者
物悲しいピアノで始まる『星巡る方舟』からの「バーガーの悲哀」。原曲は『2199』で新しく作られたデスラーのテーマ「独裁者の苦悩」ですが、ここではピアノメインの前者が採用された模様。
後半はピチカートの効いた『2199』からの「ファーストコンタクト」のサスペンス風の導入部から、勇壮な『ヤマト前進』(ヤマトUボート風)。デスラー総統と対峙する威風堂々たるヤマトというイメージを、劇伴より厚みのあるアレンジで奏でています。
第五章 翼~かならずここへ~
哀しみのヤマト
消えゆく命
旧作オリジナルよりは少しゆったりとして、『2199』のリメイク版よりはテンポの早い「哀しみのヤマト」の中盤から、『2202』の新曲「翼~消えゆく命~」に繋がり、再び「哀しみのヤマト」の後半が奏でられた後、再度「翼~消えゆく命~」で締めくくられるという、繋ぎの妙を見せるアレンジの曲。
最初の『交響組曲』の「回想」が「ショッキングなスカーフ」の冒頭に続けて「悲しみ」のフレーズが展開されていて、それがもとから一曲だったような印象を受けるのに似たようなイメージを感じます。
第六章 鬩ぎ合う力
決意の翼
ガトランティス襲撃
虚空の邂逅
方舟の覚醒(シャンブロウ)
果てしなき戦い
ヤマト渦中へ
冒頭、『2202』の最大の盛り上がり曲である「ドッグ・ファイト」をより勇壮なアレンジで堪能させた後、続くのは『星巡る方舟』の「ガトランティス襲撃」。滅びの方舟の力を擁した超文明的な破壊者である『2202』のガトランティスとは違う、戦いそのものを目的にするような蛮族を奏でる音楽が、ある意味異質に感じるのは否めないところですが、作品自体の方もむしろこっちの路線で続けてほしかった気がするのは確かです。
同じく『星巡る方舟』の「大決戦-ヤマト・ガミラス・ガトランティス-」から繋ぎの部分を抜き出してきて、『さらば』以来おなじみの「デスラー(孤独)」を1フレーズ挿入した後、木管メイン(オリジナルはストリングス)で始まる『2199』の「虚空の邂逅」が美しく優雅に奏でられ、末尾は劇伴よりも壮大なアレンジで締めくくられます。
続く「シャンブロウ」は『星巡る方舟』の曲ですが、ここでは『2202』の惑星ゼムリアとガトランティスの力の源である滅びの方舟を意識した採用でしょう。敵味方を超えた神秘で強大な存在を示しています。
旧作『さらば』の「超巨大戦艦の出現」に続いて、『2202』から重苦しい激闘の音楽「果てしなき戦い」が重厚に奏でられます。この曲、激闘を思わせるスリリングな部分と戦いの悲しみや虚しさを表すようなバラードの部分が交互に繰り返されるため、単独曲として聴くと落ち着かないのですが、組曲的な構成には相性が良いように感じます。
最後は『2199』から「ヤマト渦中へ」。マスタリング時に音圧を上げている劇伴と違って、演奏そのものの厚みを感じます。旧作シリーズでの「未知なる空間を進むヤマト」(及びその派生曲)に似たような使われ方をしてる曲ですが、『ヤマトよ永遠に』以降のリメイクがあった場合、扱いがどうなるのか気になるところです。
交響曲の一楽章に匹敵する長さのトラックですが、明確に途中で曲が区切られているので、それほどの大作感はありません。この辺りを純粋に一続きの曲としてアレンジされていたら、それは物凄いものだっただろうと期待してしまいますが、まあいろいろな面で限界を超えた無い物ねだりということなのでしょう。
第七章 愛
続・銀河の胎動
大いなる愛~終曲
第一章と対を成すかのように、再び『2202』の「銀河の胎動」から。
そして旧作『さらば』以来お馴染みの「大いなる愛」。ピアノで始まり、ストリングスに展開される第1主題に続くのは、『2202』の「終曲」風のアレンジで低音でゆったりと奏でられる第2主題。そして再び奏でられる第1主題は『さらば』の「医務室にて~愛の涙~」で使われてる悲痛なマイナーアレンジ。そして最後は第2主題が『2202』の「終曲」風に、ゆったりとそして壮大に盛り上がり、最後は余韻を残しながら奏でられていきます。
第1主題、第2主題の繰り返しは『さらば』の音楽集に収録されている宮川泰の原曲通りの構成なのですが、ここに部分のアレンジをまったく別物にしてるので、同じモチーフを使ったまったく別の音楽に仕上がっています。この辺のバラエティ感が、このアルバムの面白いところかもしれません。
ただ、『さらば』の音楽集と比べても、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202』の最終章としては、もうちょっと大団円感が欲しかったように思います。
カーテンコール
購入者へのサプライズとして発売まで曲内容が伏されていたボーナストラックなのですが、もう隠してる意味は薄らいでいると思われますので、遠慮はしないことにします。
このトラックに収録されているのは、最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』に収録されていた「真赤なスカーフ」のリメイクというか、再現曲です。なので、技術的なところを除けば目新しいアレンジ等がなされているわけではなく、そのまんまの曲です。
宮川泰による旧作の音楽は、その楽譜がほとんど残っていないため、『2199』以降のリメイク版での再現曲も宮川彬良の耳コピによって作られています。それは『交響組曲』が作られた当時も同じで、宮川泰本人が劇伴曲を耳コピしながら「交響組曲」にアレンジしていったといいます。
そんな苦労をしてるなら、そうして作った『交響組曲』の楽譜ぐらい残しておいても良かろうと思うのに、それも残されてはいないようで、後に2009年に宮川彬良が『交響組曲』のA面曲のコンサートを行った際には、そのほとんどを耳コピで復元したそうです。
この「真赤なスカーフ」を含むB面曲についてもいずれコンサートが開かれる予定だったみたいですが、今のところは実現されていません。B面曲については「イスカンダル」と「明日への希望」は同時期にコンサートで演奏されているので楽譜は復元済みかと思われますが、「真赤なスカーフ」はその中にはありません。
この「真赤なスカーフ」のアレンジについては『交響組曲』について語る時によく触れられているので、宮川彬良にとってもかなり思い入れのある曲であり、機会があれば復元を試みようとしていたのであろうことは、「宇宙戦艦ヤマト2202・新序曲」に一部用いられていることからも確かだと思います。
そんなことなので、今回、この曲が復元されたのは、ちょうど良い機会がやってきたということだったのかもしれません。
まあ、ライナーノーツ書いてるランティスの人が元の『交響組曲』を全然聴いてないだろうことは言わないことにしておきましょう。
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このアルバムは『宇宙戦艦ヤマト2199』と『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の音楽を手掛けた宮川彬良の集大成のアルバムとしてみなせば、文句なく十分に納得できる仕上がりのアルバムであるように思います。
欲を言えば作品中で印象的であった「大志」や「Great Harmony」が使われていないのが寂しいといったところでしょうか。
ただ、ヤマトの「交響組曲」としてみた場合は、どうしても最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』との音楽的な相違が気になります。
まあ、最初の『交響組曲』はビッグバンドによる演奏の劇伴曲をシンフォニックなオーケストラ曲に作り直したという時点で相当にインパクトの強いものでした。その上で「序曲」や「誕生」のように、元の劇伴曲は複数使っていてもメインのモチーフは一つであり、巧妙なアレンジによって一繋ぎの単一曲として完成しているものが、『交響組曲』のシンボルとして存在していたのは明らかなのです。
それに比べると今回の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202』は、個々の曲要素では斬新なアレンジを伺えますが、各章の多くは個々の曲要素のメドレーに過ぎず、物語的な要素はあっても単独曲としてのまとまりが感じにくいというのが偽らざるところです。
この辺り、作曲家としての音楽性とか「交響組曲」というものの解釈の違いと言ってしまえばその通りなのですが、やはり旧作からのヤマト音楽のファンにとってすれば、どうしても最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のようなものを期待しがちなのです。
とはいえ、昔の劇伴のレコードなんて出てなかった時代に初めて出てきた音楽アルバムというインパクトのあったものと、最初からオーケストラ曲として作られてる劇伴アルバムと容易に聴き比べられてしまう今のアルバムを、単純に比べてしまっても意味はないとも思いますが。
ライナーのインタビュー記事の中で宮川彬良が羽田健太郎の『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』に触れてるところがありますが、今は無理でも、いつかはそこに挑戦して欲しいと願って、この稿を終えます。
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