山本文緒の初期の作品で、携帯電話のない時代が描かれていて、取り上げている題材もドッペルゲンガーということで、なんだか昔流行っていたような気がして、単純に古い話なんだなーと思って読んでました。

主人公の蒼子は、東京で高収入の夫と結婚したものの、夫は浮気をしていて、自身も若い男と付き合っていたが、満たされない毎日。
ある日、旅行の帰りに立ち寄った博多で、自分とそっくりな女性と会う。
その女性は、かつて自分が結婚を迷っていた昔の恋人と結婚していた。

一つ道が違っていたら、こういう暮らしをいていたかも知れない、という自分に出会うってかなりの衝撃です。
二人は一か月だけ入れ替わって生活をすることに。

福岡で生活している蒼子は、東京で暮らしている蒼子のドッペルゲンガーということで、二人一緒の場面だとドッペルゲンガーは消えてしまう。
東京の蒼子は、自分が本物だと安心していたのだが。

初めは入れ替わって生活することにウキウキして、どこかお気楽な二人だったのに、やがてもう一人の自分に対しての様々な感情が芽生え、片一方を亡きものにしようという、ホラーサスペンスの様相を呈してきます。
この先、どうなるんだろうというハラハラ感があって、エンタメ的にかなり面白い作品でした。

一方で、二人の蒼子があまりにも男に依存した生活を送っており、男からDVを受けても仕方のないことと受け止め、自立の道を考えない展開に、違和感を覚えました。
ひと昔前の女性ってこうだったの?というモヤモヤ感。
かつて女性たちは、小さい頃から自分たちは男性に庇護されて生きて行くもんだという、刷り込みがなされていることが、二人の蒼子の人生をみじめなものにしているのではないかと思いました。
現代の女性がそこから、すべて解放されたとは言い難いですが。

蒼子はもう一人の自分に出あうことによって、負の自分に気づくことができたのかもしれない。
そう考えると、なかなか深い話なんだなと思いました。


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