読書な毎日 : 2023年10月

読書な毎日

お気に入りの本の感想です。

2023年10月

「少年と犬」馳 星周


多聞(タモン)という犬が主人公。
東日本大震災で、飼い主と離ればなれになったであろう多聞が、南に向かう途中に出会う人々の様々な人間模様を、連作短編の形態で書かれています。

各章で登場する人たちは、飼い主を失いボロボロの姿で彷徨う多聞と出会い、そんな多聞を放っておけなくなって、飼い主を探しながらも自分で飼うことにします。
多聞は賢い犬で、出会う人の心のよりどころとなります。

多聞はいつも南を向いている。
南に会いたい人がいるのに違いない。
でも、震災があったのは東北なのに、なぜ南?と不思議に思いながら読み進めました。

多聞が出会う人たちは、さまざまな問題を抱えていて、多聞のおかげで幸せになるのかな?と思いきや、亡くなってしまったりすることもあって、意外な結末が多かったです。
でも、人の最期に犬がいてくれるということが救いの物語なんだとも思えました。

犬好きな人は、素直にこの物語に感動できるはずです。

そうでない人も・・・
単なる不思議な犬との出会いと考えると、なんだか嘘くさくなりますが、登場人物の深層心理が、犬となって現れたと考えると、面白いかも知れません。



最終章の「少年と犬」で、多聞はやっと会いたい人との再会を果たします。
少年を守りたいために、多聞は果てしない旅をしていたのかと、ウルっとしてしまいました。


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「一人称単数」村上春樹


8作の短編集です。

成り行きで一夜を共にした女性の話から始まる「石のまくらに」
久しぶりの村上春樹でしたが、相変わらずです。

「ウィズ・ザ・ビートルズ」で、「僕は不特定多数の女性にモテたという経験はただの一度もない・・・しかしそれでもなお、なぜかそんな僕に興味を持って近づいてくる女性が、だいたいいつもどこかにいた」という一文が出てきます。
確かに、村上春樹の描く「僕」はそんな感じです。

この「ウィズ・ザ・ビートルズ」の冒頭の話が、とっても共感を覚えてしまいました。
自分が年をとったと感じるのは、自分の同年代であった人々がすっかり老人になっていて、とりわけ、かつての少女たちが年をとったことを考え悲しくなるんだとか。
確かに、何年もあってなかった人と再会して、相手の風貌がかわったことに驚き、自分もまた年をとったことを実感することってよくあります。
そんな「僕」の高校時代からの思い出から、不思議な偶然のめぐりあわせと、ちょっぴり切ない展開がなかなか良かったです。

「クリーム」は哲学的なお話。
何度読んでも意味がわからないのですが
「説明もつかないし筋も通らない、しかし心だけは深くかき乱されるような出来事」が、時として、僕らの人生には持ち上がる。
そんな説明のつかないこの短編を何度も読み返してみたくなりました。

懐かしかったのは「品川猿の告白」
かつて「東京奇譚集」という短編集で、猿の名前を奪われた女性の話が出てきたと記憶してるのですが、これはその猿の側から書いた告白編?
猿の世界に戻っても、もはや雌猿にはそそられなくなってしまった品川猿の悲哀が出てました。
自分の名前を一瞬忘れるような人は、猿に名前を盗まれてるかもしれません(笑)

表題でもある「一人称単数」
題名からは、まったくどんな話か想像がつかなかったのですが、知らない女の人から身に覚えのないことで罵倒されるという、気の毒な話でびっくりです。
なぜ「一人称単数」という題名なのか不思議です。

「ヤクルト・スワローズ詩集」は、村上春樹自身のことであろう話が出てきて興味深かったです。
野球が詳しくない私でも、なかなか勝ってくれない球団の応援をする話や、黒ビール担当の売り子のくだりが笑えました。

村上春樹の長編小説はもうお腹いっぱいで、読む気持ちになれないのですが、短編集はまだまだいけそうです。


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「月の裏側」恩田陸


九州の水郷都市、箭納倉(やなくら)。
元大学教授、協一郎の呼びかけで、教え子の多門、娘の藍子、記者の高安が、ある事件を解明しようと
箭納倉に集合します。
そのある事件とは。

まず、架空の土地
箭納倉の神秘性に魅了されました。
水の壁に覆われているような、しっとりと濡れている街。
この街では、三人の失踪事件が相次いで起こってました。
ある日突然いなくなり、そして不思議なことにしばらくすると戻ってくるのですが、皆失踪時の記憶を失くしているのです。

いろいろ調べていくうちに、実は失踪事件は昔から定期的に起こっていて、一度始まると何件も続くという。
そして、それは掘割りに面した家の住人だということがわかります。


衝撃的なのは、戻ってきた人々は、かつてのその人と同じようでいて、実は違う何かに再生されているのではないか?ということ。
再生途中の人間もどきの描写は、まさにホーラーで、怖かったです。

もっと興味深かったのは、彼らは普段はかつての人間を装っているが、予想できない突発的なことが起こると、無意識に皆同じ顔になってしまうということ。
図書館で「あっ」と口を覆う姿が、皆同じだと気づいた藍子の驚きが衝撃的でした。

自分たちは何者かに盗まれ、やがてこの世界は盗まれた者たちに占領されてしまうという危機感が、読み手にも伝わってきました。

その恐怖感とは裏腹に、4人が昔を思い出すシーンや、どことなく懐かしい感じがする箭納倉の描写が、読み手の郷愁をも掻き立てます。
やがて過去を思い出すうちに、ひょっとしてもう自分達はずっと前から盗まれているのではないか? それを確かめるためには、一度盗まれてみるしかないという結論に。
果たして真相は?

初めはどうやら、この水郷地帯ということがポイントで、かつて堀りに沈められた幽霊かなんかが、人々を水の底につれていってるのかな?と思いましたが・・・・・
そういう単純な話ではないらしい。
うーん。恩田陸さんなので(苦笑)
月の裏側を見ることができないように、謎は謎のままということでしょうか。


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