読書な毎日

読書な毎日

お気に入りの本の感想です。

「いえ」小野寺史宜


下町荒川青春シリーズ 第3弾ということになるんでしょうか。
前作の「ひと」「まち」も読んでいたので、またあの雰囲気に浸りたくて読みました。

主人公の三上傑の妹・若緒は、傑の友達・大河と付き合っていましたが、大河が運転する車でデート中に交通事故が起きてしまいます。
若緒はその事故の後遺症で、足を引きずるようになってしまいました。

穏やかに暮らしていたはずの三上家は、事故のことでギクシャクしてしまいます。
もと教師だった父は事故を起こした大河を責めようとしない。
それが気に入らない母親との喧嘩が多くなりました。

傑も大河と距離を置くようになり、若緒は大河と別れてしまいます。
若緒は就活中で前向きに頑張りますが、足のことが就活に影響しないかと心配する傑。
近所の喫茶店でのさりげない兄・妹との会話が良かったです。
お互いべったりではなく、ちょうどいい距離感だなと思いました。

スーパーで働いている傑は、パートのおばさんたちの仕事を管理する新米社員。
シフトが公平でないなど、ベテランのパートのおばさんとの関係がうまく行かない日々が続きます。
パート従業員とのトラブルは、あるあるな出来事ばかりで、他人事ではない気がしました。

家族・仕事・友達。
それぞれのわだかまりをどう解決していくのか?

相変わらず、派手な出来事はおきませんが、日々の暮らしの中で出あう人々との、ちょっとしたやり取りの中で、傑も少しずつ成長していきました。

後半、懸案となっていたことを一つずつ解決していく傑の姿が頼もしかったです。

このシリーズにでてくる若者たちは、みんな素朴で親近感があり、素直に「ガンバレ!」と応援したくなります。


にほんブログ村

「まぐだら屋のマリア」原田マハ


原田マハのアート小説じゃないほうの作品です。
タイトルからはちょっと勘違いしそうですね。

NHKBSでドラマ化されると聞いたので、その前に読んでみようという気になりました。

東京の老舗料亭で修行をしていた紫紋。
この料亭で産地偽装や料理の使いまわしをしていたことが発覚。
なんだか、実際にもこんな事件ありましたね。
その事件によって友を失い深く傷ついた紫紋が、死のうと思ってたどりついたのが、尽果(つきはて)という名前のバス停でした。

紫紋はそこで、「まぐだら屋」という小料理屋を一人で切り盛りしている、通称・マリアという女性に救われ、その店を手伝うことになります。

料亭の偽装事件に巻き込まれた紫紋をはじめ、紫紋のあとから来た丸弧、そしてマリアの壮絶な過去が、これでもか!という感じで語られるので、読んでいて辛いものがありました。
また、マリアに至っては、ドロドロ系のメロドラマを見せられている気もしましたが・・・・・

登場人物はそれぞれ魅力的で、みんなの幸せを願わずにはいられなくなりました。
マリアと紫紋がずっとマグダラ屋で料理を作っていて欲しいとも思いましたが・・・・・・
紫紋の新たな旅立ちも、原田マハさんらしい、爽やかなラストでした。

随所に出てくる料理の描写が見事。
傷ついた人々の心を癒す、重要な役割を果たしていたとも言えます。
もみじにまつわるエピソードも好みでした。

マリアやまぐだら屋の名前は、ダジャレか?という感じもするんですが、尽果に伝わる伝説と聖母・マリアのイメージが重なってきて、上手いなと思いました。
贖罪と再生をテーマにしているところが、原田マハさんのアート小説にも繋がっていて、面白かったです。


にほんブログ村

「スピノザの診察室」夏川草介


以前から作者の名前は存じ上げてましたが、テレビ番組「あの本読みました?」にゲスト出演したときのお話に感銘を受け、ぜひ本作を読んでみたいなと思ってました。
私には珍しく、単行本で買ってしまいました。

失礼ながら、医師、兼作家さんということで、話の内容は面白くても文章力はどうなんだろう?と思ってました。
読み始めてみると、京都の情景が目に浮かんでくるような表現が素晴らしく、軽いタッチで描かれているのに、「スピノザ」という哲学者の思想もさりげなく盛り込まれていて、重厚な仕上がりに、恐れ入りました!

主人公のマチ先生は、亡くなった妹の子どもを引き取って育てるため、大学病院を辞めて京都の病院に勤務する内科医です。

外来の傍ら往診も行い、終末患者とその家族に優しい言葉をかけるマチ先生。
誰もが、自分も終わりを迎えるときは、こんなドクターに巡り合いたいと思うはずです。

たくさんの患者が登場してきましたが、やはり冒頭にでてきた辻という患者が、ラストに再び登場するまでのエピソードが、心にしみました。
自暴自棄な生活を送っていてどうしようもない人に見える辻さん。
でも、そんな辻さんから、人としての矜持が垣間見えたとき、自分も死ぬ間際はこうありたいなと思いました。
最期にマチ先生宛に残したであろう言葉が泣けました。

「医療が題材だが”奇跡”はおきない。腹黒い教授たちの権力闘争もない」と、本の紹介欄に作家さんご本人が書かれてますが、マチ先生が大学病院に潜り込んで、内視鏡手術の助手をしてしまうシーンは、ちょっとスリリングな展開で面白かったです。


にほんブログ村



プロフィール

葉月

カテゴリ別アーカイブ
月別アーカイブ
タグクラウド
QRコード
QRコード
記事検索
  • ライブドアブログ