東日本大震災において、その初動を担った国土交通省東北地方整備局によって執筆された本で、東日本大震災の実体験をもとに災害の初動期の対応内容や、これを実現するために必要な指揮官の心得がまとめらています。
単純に、東日本大震災の裏側を知るという意味で大変に有意義な本だと思います。特に直近でも能登半島地震など大きな被害が出ている地震が発生しているし、今後も南海トラフ地震などが起きる可能性が高い中で、その対応を担う地方整備局がどのように動いたか・動けたかを知っておくことは、万が一自分が被災者になった時にも活きる(どのように行政を頼ることができるか、どのように復旧していくかの勘所を得ることができる)と思います。
また、(大地震などの災害と比べるとはるかに小規模ですが…)日常の中で大なり小なりトラブルが発生することがありますが、そのときの初動についての知見としても活かせる内容が多いと思いました。例えば、
- 「平時にあって官庁の業務は主としてボトムアップを基本とする意思決定によって運営されているが、有事にあっては、その子システムを一瞬にして切り替えて、指揮官の決断によって行わなければならない。」
- 「状況が不確実なときは、最悪を想定し、あらゆるリスク計算をして臨むのが原則であり、あとでムダにならないようになどと考えず、大きく構えるのが定石である。」
- 「初動のスピードを決める要素は数々あるが、その最大のものは指揮命令系統の確立である。」
- 「的確な指揮のため、大概的な情報発信のため、そして災害対応の反省・教訓を引き出すために、発災直後からの記憶は重要である。専門の記録班をおくとともに、各員が活動記録を整理する習慣も必要である。」
- 「大規模災害への対応は長期に及ぶものであり、対応する職員の健康維持については初期の段階から厳格に指導すべきである。また、指揮官自身も自らの健康状態に留意しなければなならい。そのためには、つい全員で泊まり込みがちになりがちな日本的習慣を止めさせて、職員「ローテーション」を早い段階で決めることが肝要であり、順次、衣食住に関する情報を収集・伝達しながら、異常な生活から持続可能な定常状態への移行を図ることが必要である。」
…というのは、日々の障害(特に、対応に数日~数週間を要するような障害)が発生したときに意識せねばならない点だな、と感じます。
「おわりに」に筆者らが記載していた「備えていたことしか、役に立たなかった」もとても重要で、トラブルや障害は起こらないのが一番だけれども、とはいえ0にできないので、常に備える必要がある。 そのためには、発生してしまったトラブルや障害はしっかり振り返って、次に向けた備えにつなげていく動き(振り返り、フローの改善、訓練の実施)が大変大事になる、と感じました。