衆議院選挙の党開票日が27日に迫る中、ふと、今回の投票にあたって自分が考えていることを書き起こしておこうという気持ちが湧いてきました。大上段に政治を語るのは少し気恥ずかしいですが、いい歳をした大人が政治についての考えをきちんと語れないほうがよほど恥ずかしいとの信念に基づいて、やってみようと思います。
今回の選挙で私が重視しているのは、個別の政策でいえば「刑事司法」、全体的な考え方で言えば「民主主義と経済」です。
刑事司法制度
いま、冤罪に関する再審無罪判決や再審開始の決定が相次いでいます。
袴田事件が、「5点の着衣」が警察による捏造証拠であったことを認定して再審無罪となったことはみなさんもご存じの通りですが、今週、1986年に発生した福井女子中学生殺害事件で7年の懲役判決が確定し服役した男性の再審の開始も決定されました。
福井中3事件では、新たに開示された検察側証拠から、検察が男性を有罪にするために事実に反する主張をし、証人に利益を供与して唯一の証拠である目撃証言を誘導していた疑いが明らかになりました。裁判所は「不誠実で罪深い不正の所為」と検察の不正義を糾弾しています。
どちらの事件でも、裁判官が裁量で提出を命じた検察側の証拠によって真実の究明につながりました。冤罪の原因の検証とともに、検察に全ての証拠の提出を義務付ける再審法の改正、さらには人質司法や死刑制度の見直しが急務です。
実は、あまり一般には知られていませんが、この分野に関しては民主党政権に実績があります。
14年前、検察官が証拠のフロッピーディスクを改竄した村木厚子さんの冤罪事件が明らかになった時は、当時の民主党政権の柳田稔法務大臣が私的諮問機関「検察の在り方検討会議」を開きました。そこで「検察の再生に向けて」という提言がまとめられ、その提言から法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が開かれ、一部事件の取り調べ可視化や国選弁護人制度の拡大など、わずかではあるものの刑事司法改革は前進しました。
この法制審議会には映画監督の周防正行氏も参加し、著作『それでもボクは会議で戦う』で、改革に激しく抵抗する法務省・検察庁との攻防の様子を読むことができます。
では、今回はどうでしょうか。残念ながら、袴田事件という前回よりもさらに根深い事件に直面してもなお、現在の自民党政権に、民主党政権の時のような積極的な改革は期待できる状況にありません。
とりわけ現内閣の牧原秀樹法務大臣は、弁護士資格を有していながら、SNSで「オリンピック選手への誹謗中傷は全員逮捕すべき」と捜査の謙抑主義を定めた刑事訴訟規則に反する投稿をしたり、煽り運転や性犯罪の法定刑に死刑がないことを残念がり、上川元法務大臣が3週間で13人もの死刑を執行したことを「なんて凄い方だ」と称賛するなど、逮捕や死刑の執行に異様な執着心を見せている法務大臣でもあります。
牧原法相は袴田事件の無罪確定後も、畝本直美検事総長の「長期間に渡って法的地位が不安定な状況にして申し訳ない」という曖昧な謝罪の文言を踏襲するのみで、再審制度の見直しや再発防止についてて問われても、法務省や議員連盟での議論を期待すると述べるにとどまりました。
再審法の改正については日弁連の旗振りで超党派の議員連盟が組織され、自民党の大物議員も多数参加しているとはいえ、このような法務大臣を任命する自民党の政権において、冤罪・人質司法の前進が期待できるとは期待できません。
では、袴田事件の反省を生かし、日本の刑事司法の改善に繋げられる政党はどこでしょうか。主要政党の中で、政策集に再審法改正のある政党を「○」、再審法改正以外の冤罪防止の取り組みのある政党を「△」、冤罪防止の取り組みの見られない党を「×」として、私が調べた限りでまとめてみました。
立憲民主党
立憲民主党は「2024年衆院選 主な政策項目 - 立憲民主党」にこう書いています。
- えん罪被害者の速やかな救済のため、再審法を全面的に見直します。
- えん罪をなくすため、「取り調べ等の録音・録画(可視化)制度」の対象事件をさらに拡大し、取り調べ等の開始から終了までの録音・録画を実現します。
「立憲民主党 政策集2024」でも「人権尊重の刑事司法制度」を掲げ、再審法の他にも取り調べ録音録画の対象の拡大、人質司法の改善などさらに多くの取り組みを提案しています。
日本共産党
共産党の「2024年総選挙政策」にはこうあります。
――再審法を改正します。
袴田さん無罪判決では、捜査機関による自白強要と証拠捏造を断罪しました。二度とこのような国家権力による重大な人権侵害を引き起こさないために、全面的な証拠開示と、再審開始決定に対する検察による不服申し立ての禁止を制度化するなど再審法改正を行います。
さらに、分野ごとの政策ページでは広範な改善政策を提案しています。
社民党
再審法についての言及はないものの、社民党の「統一自治体選挙2023政策集(PDF)」の中に、参考人を含む取り調べの全過程の可視化や検察側全証拠の開示義務付け、代用監獄の廃止などの政策提言が確認できます。
日本維新の会
日本維新の会は、再審法改正に関する記述はありませんが、「維新八策2024 個別政策集|日本維新の会」に、「347. 冤罪根絶のため、参考人も含めてすべての捜査において取り調べの全面可視化を行うとともに、国際基準である取り調べ時の弁護人立ち合いの制度化に努めます。」としています。
人質司法や冤罪といった問題は、政治と(もっといえば政治思想と)強く結びついた問題です。袴田巌さんのような冤罪事件を減らすためには制度を変革する必要があり、それを効果的に実現できるのは保守政党ではなくリベラル政党であり、リベラル政権がいま必要とされていると考えています。
裏金・民主主義・経済
裏金問題ー自民党の政治資金パーティー収入不記載問題について。
世の中は裏金許すまじとヒートアップしています。しかし、なかには本当にそんなに悪いことなの?もっと大事なことを話し合った方がいいんじゃないの?という思いの人もいるんじゃないかと思うので、ここではあえて、なぜ許されないのか、ざっくりと自分が考えていることを振り返って整理していこうと思います。
私は、この問題は民主主義の働きを歪めているために許されないと考えています。
自民党の一部の議員は、政治資金パーティーで支持者から集めた政治資金のうち、ノルマを超えた分を派閥から自らに環流(キックバック)させたり、派閥に納めなかったりして、政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになっています。周知の通り、これは明らかに組織的な動きでした。
政治資金規制法に捕捉されない現金ができること。これは、政治家にどこから金が入り、どこに金が流れたかを国民が知ることのできないお金ができることを意味します。裏金ですね。
そもそも我々の政治システムが前提とする民主主義というのは、「国民ぜんたいの議論を政治に反映させれば、国家が最も繁栄する」という考え方で成り立っているわけですよね。いっぽう、国民全員が直接議論することは現実的にできないので、かわりに幅広い国民の利益を代表する代議士を選出する、代議制民主主義というシステムによって便宜上それを実現しているわけです。
そこにカネが介在すると、「国民の代表者」という代議制の建前が失われ、民主主義が本来予定していた機能を喪失してしまいます。だからこそ政治資金規制法や公職選挙法といった法律は、政治家や政治団体のお金の流れを制限したり、市民が監視できるように公開を義務付けています。
今回の裏金問題では、自民党が少なくとも20年以上にわたり、組織的に国民の監視の届かないカネの流れを作ろうと腐心していたことが明らかになりました。つまり、組織的な意思を持って民主主義のシステムに抜け穴が作られ、本来の民主主義の予定する働きが妨げられていたわけです。
私は正直なところ、日本が30年間経済的に発展しなかったのは、そのことと無関係ではないだろうと考えています。
今年のノーベル経済学賞を受賞して話題になったダロン・アセモグルらは、二〇一三年の『国家はなぜ衰退するのか』において、一部のエリートが権力を独占する収奪的政治体制のもとでは、経済発展はどこかで頭打ちになり、持続的に成長しないと主張しています。アセモグルらは、国家の経済が発展するかどうかは、その政治体制が多元的で包括的かどうかによって決定づけられると主張しています。
実際、日本が過去に経験した経済発展である近代化と戦後の経済成長は、いずれも明治維新と第二次世界大戦の敗戦という一種の政治革命に続くものでした。日本は民主的な多元的政治体制をインストールするたびに飛躍を遂げてきた国ということもできるかもしれません。
いまの日本はどうでしょうか。
多くの被害者を出してきたカルト教団や宗教右派の票を得るために、ただカップルの両名が結婚してからも同じ名前で働けるようにするというだけの自由が世界中で日本でだけ禁止され、同性愛者が異性愛者と同様に家庭を築く自由もありません。
経済エリートの意向を汲み、雇用緩和により非正規労働が常態化し、法人税は下がりつづけ、消費税は上がり続けています。異次元の金融緩和を続けても弱体化した国内消費をカバーできず、約束されたトリクルダウンは起きず、格差は一層拡大して一般消費者には生活を圧迫する物価高だけが残りました。
政府の教育への支出はOECD加盟国で最低レベルですが、軍事費は野放図に拡大しています。中小企業の経理事務は強行されたインボイスで混乱し、保険証の廃止は決定経緯の文書すら存在しません。
このような政治体制のもと、我々の経済はすでに30年の停滞を続けています。次の4年間で突然イノベーションが刺激されて経済が発展するとは、アセモグルを持ち出すまでもなく想像できません。
そういうわけで、私は、日本の経済が再び豊かになるためにも、民主的で多元的な政治体制を指向するリベラル政権への転換が必要だと考えています。
足元に目を戻しても、代議制民主主義を本来の働きに戻すためには「企業・団体献金の廃止」を実現する必要があると私は考えますが、自民党にその能力がないことはすでに明らかです。
だいたいそんな感じです。ここまで書いておいてなんですが、まだ投票先は決めてません。
では。