とある獣医の豪州生活Ⅱ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

オーストラリアの獣医師の性比、年齢、収入など@2023年

AVA、Australian Veterinary Associationという組織が存在します。オーストラリアの獣医師が任意で所属し、勉強会などを開催する、日本でいうところの日本獣医師会にとても近いと思われる組織です。

 

自分は所属していないのですが(年会費高ぇんよ)、AVAが数年毎に行うサーベイへの参加を募るメールが来ると毎回ちゃんと応答しています。このサーベイがオーストラリアの獣医師に関するあれこれを把握する上で一番頼れるので、毎回サーベイデータが発表されるのを楽しみにしておるのです。

 

前回のサーベイが2021年でした。この時のサーベイは獣医師の労働時間と給料に関する内容が強めのサーベイで、中々面白い結果でした。内容は動画でまとめたので参考までに貼っておきます↓↓

 

youtu.be

 

で。

 

2021年のサーベイデータはコロナ禍を乗り越え始める初期のデータであり、あれからオーストラリアは国全体での獣医師不足やインフレの波を喰らってきました。ここ2-3年は波乱万丈でした。それを含めたサーベイデータを待ち続けること3年、本来2023年に発表されている筈だった結果がようやく出ていたので軽くみて見ましょう。

 

中の人も割と初見のままブログ書きつつまとめていきます。

 

原文のサーベイデータはこちらから↓

https://www.ava.com.au/siteassets/advocacy/workforce-survey/ava-2023_2024-workforce-survey-report.pdf

 

AVA workforce survey 2023/2024

 

初めに:サンプル数など

AVAや各州の獣医師庁から州に登録されている獣医師の登録アドレスに対してサーベイの協力を求めるメールを出し、23年10月~24年2月にかけてオンラインサーベイを実施しました。2332人からの協力が得られ、うち2187人分のデータが使用可能と判断されています。2023年6月時点での豪州全土の登録獣医師数が15261人なので、回答率は14.3%となります。

これは2021年のサーベイ回答率(26.4%)よりは下がりましたね。

 

サーベイのコンセプト

2023年の世界獣医の日のテーマが「獣医学分野における多様性、公平性、包括性の促進」でした。豪州の獣医師業界におけるこの分野の関連データが不足しているため、Australian Rainbow Vets and Allies(オーストラリアのLGBTQ+獣医とその支援者団体)の協力を得て、獣医学分野内の多様性の理解を深めるためのいくつかの質問が追加されました。

今年のサーベイ内容は給料云々よりもこっちのほうが多めっぽいです。

 

 

 

 

 

獣医師の性別(Gender)

Respondents by gender

サーベイ回答者のうちの69.73%が女性、29.4%が男性でした。

他に極少数のトランスジェンダーやノンバイナリーが存在しますが、大まかにまとめてよいのであればオーストラリアの獣医師は女性7割、男性3割という結果になります。これは中の人が大学在学中の同級生達の性比と一致しています。

オーストラリア全土における就職者の女性率が48.4%であることを考慮しても(これも十分にすごい数値なのだけど)、獣医療現場の女性率は目を見張るものがあります。

 

年齢に対する性比

Respondents by age and gender

年齢別の性比グラフです。予想されてはいるものの面白い結果。

男性獣医師の数はどの年代でも基本はコンスタントですが、女性獣医師の数は年齢を重ねていく度に減少する傾向が顕著です。理由は多岐に渡るでしょうがやはり出産や育児は大きく関わってきそうだなと愚考します。

それでも60-64歳までは女性獣医師の割合が男性獣医師よりも多いという結果になっています。最終的な性比は男女が3:7ですが、44歳までの獣医師人口では8-9割が女性獣医師で構成されているのは興味深いですね。

 

性的指向

Respondents by sexuality

性比とは別に性的指向(Sexuality)についても言及がありますが、異性を好む所謂ストレートな異性愛者が85.5%に収まってます。無回答が5%未満なので、バイセクシャルや同性愛者などが合計で1割存在しています。

ここはまぁオーストラリアあるあるですね。自分の職場にもゲイの同僚獣医師が一人いますし、周りの病院でもゲイやレズビアンの獣医師はそこそこ多い印象なので、異性愛者が9割未満に収まるのも体感では納得しかないです。


出身、第一言語、宗教

出身

回答者のうちの74%がオーストラリア生まれで一番多い割合となっています。

時点でイギリスとアイルランド出身者が7.4%。オーストラリアの獣医師免許はイギリス系統の国の書き換えが容易なため国境の壁が少なく移住者が多いことが要因だと愚考します。

他に1%以上の出身国は、アフリカ3%ヨーロッパ2.8%ニュージーランド2.4%が続いています。ヨーロッパという大きな括り以外は全てイギリス系統の国でオーストラリアの獣医師免許の書き換えが容易です。

南東アジア・フィリピン2%という結果も出ており、細かい言及は本文にはありませんが多分シンガポール出身者も含んでいるのではなかろうか。あそこもイギリス系統の国だったので、やはり英国関連国が強めの印象です。

 

第一言語

英語が第一言語の獣医師が圧倒的で回答者のうちの96%を占めています。当たり前ですが大学入部時の倍率などを考えても英語ネイティブが圧倒的に有利です。

回答者のうちの4%(89人)は英語以外を第一言語と回答しています。中の人もその一人だ。

Respondents non-English primary languages (n = 89)

英語以外を第一言語としている獣医師で最も多いのはやはり中国語、時点でスペイン語が続くのは話者の世界人口から見ても納得ですね。アフリカーンス語が伸びるのは南アフリカ出身の獣医師を大量に引き抜いているオーストラリアあるあるですね。

日本語話者は…これ多分だけど僕一人しか回答してねぇな…。

 

宗教観

およそ3人に1人である32.8%が無神論(Atheist、神は存在しないと断言する派)、24.2%が不可知論者(Agnostic、神の存在が証明できないので分からない派)と回答しているので、5割以上が無宗教というちょっと面白い結果です。

オーストラリアという国においては強い宗教であるキリスト教が31.9%、次いで仏教1.2%、ユダヤ教1.1%、ヒンドゥー教0.6%と続きます。

多分0.0005%が神道だと思う。僕です。日本語話者の数的に1人しかいない。

 

 

障害、慢性疾患、神経多様性

Disability, chronic condition or neurodivergent (n=2187)

サーベイ回答者のうちの37.9%が何らかの障害・慢性疾患・神経多様性を有していると答えています。

 

障害・慢性疾患の性別比

Disability, chronic condition or neurodivergent by gender (n=2154)

性別で比べてみると、障害・慢性疾患・神経多様性を有していると答えている割合は女性の方で40%、男性32%と、女性のほうが若干高い傾向にあります。

障害・慢性疾患の年齢比

Disability, chronic condition or neurodivergent by age (n=2152)

年齢別での割合をみると、20-24歳で53%と高く、次いで70-74歳(47%)、75歳以上(44%)と続きます。

これらについてサーベイにおいて深い言及はありません。

 

介護責任

Caring responsibilities by gender (n=2154)

回答者のうちのおよそ41%が何らかの介護責任を負っている・負っていたと回答しています。このうちの12%が小学生以下の子供、17%が小学生、16%が中学生以上の世話であり、4%が障害を持つ人の介護、4.4%が老人介護で回答しています。

性別比では女性獣医師の43%が、男性獣医師の36%が介護責任を負っている・負っていたと回答しています。介護責任が発生しやすい年齢帯は35-55歳でした。これは主に子育ての話ですね。

 

サーベイでは深く言及されていないのでなんとも言えないですが、この数値はあくまでも「現行で登録されている獣医師」における介護責任の割合であり、獣医師として登録を辞めた中での介護責任の割合が不明ですね。例えば「子供の世話のために獣医師を辞めた女性」の割合なんかが不明です。年齢帯が上がる毎に女性獣医師の割合が減っていることも考えると、やはり育児に専念するため獣医師を辞めている女性が一定数いそうであると考えるのが自然だと思われます。

 

獣医師免許所有者の職種

Field of work by Primary occupation

回答者に「主な職種」と「属する業界や分野」について答えてもらった結果が上記です。獣医師免許の所有者が対象の調査なので回答者の90%が職種については獣医師と回答しており、その中の85%は臨床業界で働いているという結果になりました。次いで公務員6.8%、産業関係2.3%、教育機関1.7%、研究所勤務0.8%と続いてます。

獣医師免許所持者トータルで見ると臨床現場にいる獣医師は78%ほどという結果になりました。

ごく一部ですが獣医師免許を所有しつつも自らの職種を動物看護師や農家と名乗っている回答者がいることも興味深いです。

また、図には特筆されていませんが回答者のうちの5.7%がスペシャリスト(認定医)と回答しています。

 

雇用形態

役職

Respondents by role in clinical practice (n=1717)

回答者の62.7%が勤務医27.5%が院長などの病院経営者

ローカム獣医師(フリーランス)は5.5%ほどいます。

 

動物病院の種類

Respondents by type of veterinary business (n=1500)

臨床獣医師のうちの4人中3人、およそ76.3%の回答者が一時診療で働いていると回答しています。更におよそ14%は救急、専門、もしくはその両者で働いていると回答しています。

4.5%の臨床獣医師は訪問診療を主な活動としている他、0.2%は遠隔診療を主な活動と回答しています。

 

動物病院の規模

Respondents by size of practice (n=1500)

動物病院の規模に関してはFull-time equivalent veterinarians(フルタイム換算獣医師)で測られています。週38-40時間働いている獣医師を1FTE獣医師とするので、例えば週20時間働いている獣医師が5人いる病院は2.5FTE獣医師として計算されます。

半数近い49.7%は獣医師数が2-5人規模の動物病院です。

獣医師1人だけで回している動物病院はおよそ11.7%。6-10人規模が20.2%、11-20人規模が9.7%、20人以上の大所帯は7.7%です。

 

運営モデル

Respondents by business model (n=1500)

動物病院の経営形態としては約6割が個人経営の動物病院。グループ病院は11.7%で、企業病院は23.3%となりました。およそ4人に1人は企業病院勤務ということになります。

昨今は企業病院の買収が目立っているので、この先この数値がどう動いて行くのかは注目ですね。ちなみに2021年の調査時では企業病院勤務の割合は8%、2016年では4%であったとのこと。すごい躍進です…。

 

診療対象動物

Respondents by practice focus (n=1624)

臨床獣医師の勤める動物病院の、診療対象動物について。7割は愛玩動物を診療する動物病院で、15.6%は畜産と愛玩の両方を診るMixed animal practice。馬が7.7%、産業動物病院が6.4%。

この辺の数値は基本的に従来のサーベイ結果と変わりません。

 

獣医師の労働時間

2021年のサーベイでは労働時間と給料にかなり切り込んだサーベイ調査を行っていましたが、2023/2024年版の調査ではあまり細かい調査が行われていないため参考程度にしかなりません。正直この辺の数値が気になっていたので残念。

 

参考までに書きますが、オーストラリアにおける正規雇用者の労働時間は38時間/週です。38時間を超えるのは追加労働や残業ということになります。

 

労働時間の性別差

Weekly hours by gender (n=1846)

性別に対する労働時間では優位に差が出ており、女性獣医師の労働時間の中央値が38時間/週に対し、男性獣医師の労働時間は40時間/週と、女性より男性獣医師の労働時間のほうが長めであることが明らかになりました。これはオーストラリアの国勢調査における獣医師カテゴリでも同様の結果が出ています。

ただし過去にAVAが行ったサーベイ結果と比較すると、女性獣医師の労働時間中央値にはさほど変わりがないのに対し、男性獣医師の労働時間中央値は減少傾向にあることが分かるため(2013年の男性中央値43時間/週、2018年は41時間/週)、全体的な労働時間の安定化が示唆されています。

 

労働時間の地域差

Weekly hours by location (n=1860)

地域に対する労働時間では優位に差が出ており、都市圏勤務の獣医師中央値が38時間/週に対し、地方勤務の獣医師中央値は40時間/週と、地方勤務のほうが都市圏勤務の獣医師より労働時間が長めであることが明らかになりました。ただしそこまで顕著な差が出たわけではありませんでした(2時間差)。

こちらは過去に調査されていない項目のため推移などは分かりません。

 

労働時間と診療対象動物

Weekly hours by type of practice (n=1438)

診療対象動物に対する労働時間では顕著な差が出ています。愛玩動物診療の現場では中央値が38時間/週なのに対して、馬診療では中央値が49時間/週と、圧倒的な長期労働環境になっています。これは過去の研究結果に近い数値であり、サーベイの偏りではなく馬診療界隈あるあるだと思われます。

 

オンコール時間と地域差

On-call hours by location (n=1457)

回答者のうちのおよそ30%がオンコール診療を行っていると回答していますが、地域差はハッキリと出ており、獣医師一人当たりのオンコール時間は、都市圏勤務では中央値0時間/週なのに対し、地方勤務では12時間/週でした。都市圏は夜間対応の救急病院などの施設が充実しているため紹介先があるのに対し、地方では距離的な問題で紹介ができない環境がほとんどのため地方勤務の獣医師はオンコール対応を行わざるを得ないことが多いためだと思われます。

 

かくいう中の人だってケアンズ在住の頃は週2~3日はオンコールでしたからね…シドニー万歳、都会万歳、夜間病院様様万々歳。

 

オンコール時間と診療対象動物

On-call hours by practice type (n=1438)

動物病院の診療対象動物に対するオンコール時間でもやはり顕著な差が出ています。愛玩動物病院のオンコール時間中央値は0時間/週ですが、馬診療やMixed animal practiceのような畜産動物を扱う病院ではやはり長くなります。

産業動物病院は何故か中央値9時間/週と、そこまで長くないです。これはあくまで僕の考えでしかないのですが、産業動物系の病院は獣医師数が多いのでオンコール対応日数が薄まる、そもそもコストにシビアな産業動物なのでそう簡単に夜間対応で呼ばれない、みたいな理由があるのかもしれないですね。

 

獣医師の給料

こちらも2021年のサーベイに比べて2023/2024年版の調査は深掘りしておらず物足りないです。

オーストラリアの給料はよく時給換算で表記されますが、これは時給x38時間x52週間と計算することで年収が表せます。また、雇用主は労働者に対して給料の約10%の積立年金を別途で支払う必要があるので、実際の年収は給料の1.1倍と考えて貰ってよいです。

あと、フルタイムで働いていれば有給休暇4週間/年と、病欠有給5日/年が貰えます。やったね。

 

年齢別の時給

Effective hourly rate by age

まずは年齢別の時給。前回のサーベイと違って細分化がなされておらず、ザックリとした数値しか出されていないのでどこまで信用していいかは微妙。参考程度の数値です。

中央値を年収換算(積立年金の1.1倍補正は含めません)すると:

  • 20-24歳(新卒) $75,088 = 750万円
  • 25-29歳     $84,968 = 850万円
  • 30-34歳     $103,740  = 1037万円
  • 35-39歳     $118,560  = 1185万円
  • 40-44歳     $125,476  = 1255万円
  • 45-49歳     $122,512  = 1225万円
  • 50-54歳     $132,392  = 1324万円
  • 55-59歳     $126,464  = 1265万円
  • 60-64歳     $141,284  = 1413万円
  • 65-69歳     $146,224  = 1462万円
  • 70-74歳     $143,260  = 1433万円
  • 75歳以上      $128,440  = 1284万円

ただし年収計算は38時間x52週労働の値です。30歳を超えて中堅獣医師になる頃には4桁プレイヤーになるのが望ましい流れですね。勤務医でも全く現実的な数値です。

 

時給と性別差

Effective hourly rate by gender

給料の性別差は優位に現れており、女性獣医師の中央値が時給56ドルなのに対して男性獣医師の中央値は時給70.5ドルと、男性のほうが女性よりも高い時給でした。ただ、先述したように女性の割合は若い年齢で高く高齢では男性割合が上がることも考えると、この時給の差の一部要因は年齢であるように感じます。オーストラリアの国勢調査でも世界的な数値を見ても女性の収入は男性よりも少ない傾向にあるのは確かなので、今後の踏み込んだサーベイ調査に期待。

 

時給と診療対象動物

Effective hourly rate by practice type (n=1396)

診療している対象に対する時給には優位に差が出ており、馬とMixed animalの中央値は産業動物愛玩動物の中央値よりも顕著に下がります

 

時給と地域差

Effective hourly rate by location (n = 1415)

地域における時給の差は想像していたよりも少なめです。都市圏勤務の中央値が時給60ドルに対し、地方勤務の中央値は時給57ドル

専門医などの高給取りは都市圏に寄るであろうことや、馬やMixed animalが地方に寄ることまでを考慮すると、これ多分愛玩動物一時診療臨床獣医師」に絞って地域差みたらほとんど変わらないんじゃなかろうか

そうだと仮定すると地方のほうが生活費抑えられるから、地方で臨床やってたほうがスマートに稼げる気がしてきた…シドニー出るか…。

 

まとめ

  • オーストラリアの獣医師の7割は女性。45歳以下なら8-9割は女性。
  • 74%がオーストラリア出身者。次いで7.4%がイギリス連邦
  • 96%が英語が第一言語。残りもイギリス背景国強し。
  • 50%以上が無宗教。多分獣医学生時代にふるいにかけられてる。
  • 回答者の8割が臨床獣医師。これは回答者側にバイアスありそう。
  • 62.7%が勤務医、27.5%が病院経営者。フリーランスは5.5%。
  • 臨床獣医師のうち76.3%が一時診療。14%が救急や専門など。
  • 約6割が個人経営の動物病院。企業病院勤務が23.3%の怒涛の追い上げ
  • 労働時間は男性>女性で、地方>都市圏
  • 給料は30歳辺りで年収10万ドル(1000万円)目指していけ。
  • 馬業界の労働時間長い、オンコール時間長い、平均時給低い。
  • 意外と時給の地域差は低め。愛玩動物ならほぼ変わらない説。

 

また2年後くらいに新しいサーベイ調査でお会いしましょう。

 

不穏な夜を乗り越えて【内陸キャンプ旅5日目】

道を切り拓いた先に、動物運は待っている。

 

 

若干の雨と強い風の夜を乗り越え、カナマラのキャラバンパークには静かな朝が訪れた。幸いだったのは風の勢いには似合わない雨の弱さである。これで豪雨が来ていたらテントの浸水、進行方向の冠水や補給路の喪失といった大惨事になりかねなかった。昨晩の祈りは辛うじて蜘蛛の糸くらいの細さで天へと通じたようだ。

5日目の朝焼けが穏やかに濡れたテントを包む。

テントを乾かして出発である。想定よりも雨が弱かったため、本日の朝はまず昨日引き返した冠水地点を車で強行突破し、その先にある野鳥観察ポイントを目指すことにした。果敢に水へ突撃するのは運転手T君である。

いけるいけるゥ。

先の見えない冠水ではあったが、冠水しやすい道路脇には基本全てに水深計が設置してあり、これが10㎝を示していれば何とかなることも判明。朝だしまだギリギリ車通りもある場所だからこそできる無茶。

雨露に濡れたエミューの父と子供達。

降水で花畑状態になっている内陸とエミューと野生のT君。

その後しばらく走ったところで、唐突に探鳥ポイントが出現。ご丁寧にアキクサインコの生息地を示す立て看板まで設置されていた。これは期待が持てそうな場所だ。

EuloとCunnamullaの間に位置するポイント。

どうであろうか、元々水場なだけあってかなり好条件で鳥の濃い場所だ。昨日の雨によるテンションダウンから一転、我々の期待値は高まる。

空の機嫌も悪くないし、鳥達は元気だ。

「おっ!」

「あっ!」

「いやっ!」

「わわわっ!」

鳥はとても濃かった。言葉にならない嗚咽と共に自分もT君も勝手にフィールドを駆け回る。自由である。

セキセイインコ達。群れずにペアでばらばら行動。

ベニオーストラリアヒタキ、Crimson chat(Epthianura tricolor)。

セイキインコ、Mulga Parrot(Psephotellus varius)。

オカメインコも勿論ヒョイヒョイ言っていた。

水があり草の種があれば、それはもう営巣体勢で良いのだろう。

アカカンガルーさんも勿論います。オッサンの顔してる。

結局お昼近くまでたっぷりと滞在してしまった。残念ながらT君の求めていたアキクサインコの姿は拝めなかったが、それでも成果としては十二分の良き場所であった。また来たい。

 

※2024年リベンジ編にて同地点でアキクサインコに無事遭遇

 

この道をずっと進むとEromangaの町か…。

鳥たちを十二分に堪能したところで一度Cunnamullaの町に戻り、昼食。何故か道中に「カナマラまで来たなら名物ラクダバーガーを食べないと!」などという煽り文句がでかでかと掲げられた広告看板があったので、余所者である我々はまんまとその術中にハマり町のカフェへ向かう。

メニューにはCunnamulla Camel Burgerの文字。

ラクダバーガーを陽気なオバちゃん店員に注文して待つこと10分ほど。ビートルートの輝くサンドイッチプレスで潰し焼いた手作り感満載のバーガーが参上。ラクダ肉は何度か食べたことがあるが豚肉の脂を重たくしたような独特の味がする。美味い。

ラクダバーガー。紙袋に突っ込まれた雑な感じが実に良い。

腹ごしらえを終えたらまたしても車の旅。この日の目的地はクルマサカオウムが何度も目撃されているBourkeの町近くの一角。途中、近道のオフロードを進んでいると突破不可能な泥道の冠水に阻まれ1時間以上のロスタイムを喰らうなどする。

T君が助手席で平和に爆睡する中、ひたすら南下する。

CunnamullaからBourkeへと南下するということはどういうことか。それはいよいよQLD州とのお別れを意味していた。全く変わり映えのしない真っすぐな道路の傍らで、NSW州の歓迎を謳う看板は静かにそびえ立っていた。

曇天にそびえる州境の看板。

Bourkeの町を掠めたまま進路を少し北西に向け、幹線道路から外れた田舎道を進む。空模様は雲こそあれど安定していそうである。

多分こっちはヒガシアゴヒゲトカゲ(Pogona barbata)

アゴヒゲさん達を避けつつ進み続けると、今度はよりスローペースに道路を横切る生物を発見。

「おっ!松っちゃんだ!」

マツカサトカゲ(Tiliqua rugosa)。

この旅において初遭遇のマツカサトカゲさん。松ちゃんという愛称で呼んでいる人は少ない。逃げ足の遅い子なので降車してまじまじと観察してしまうのだ。

蒼い舌を見せつける果敢な威嚇も愛くるしい。

マツカサさんと戯れているうちに陽はどんどん傾いていく。いけないいけない、今日の野営地を見つけなければ。目的であるクルマサカオウムの過去の目撃情報を参照しつつ、我々は道端から外れたブッシュに上手いこと車を隠せる場所を発見し、ここにステルスキャンプを決行することに決めたのである。

ここを本日のキャンプ地とする!

と、ブッシュに車を突っ込んだ瞬間に頭上の木から何か大きな生物が飛び立った。

「あっ!」

「おっ!いたねいいね!」

クルマサカオウム(Lophocroa leadbeateri)。

オーストラリアのオウムの中でも内陸のアクセスの悪い場所にしか生息していないため見るのが難しいはずなのだが、可能性のある場所に来てみたらあっさりと出会えてしまえた。これは運が向いてきたぞ。

お食事中のところを邪魔してしまったようですぐに飛び去ってしまったが、これは期待できるぞと胸を高鳴らせながらその場にテントを設営。この日のサイコロ飯は無難な落としどころで中華丼であった。

サイコロ飯。出目は3。

 

赤から青へ、そして黒へとつながっていく空のコントラストを肴にしながら飯盒の白飯を掻きこみ、アウトバック特有のバカでかい蚊に襲われ始める前に早々にテントへと非難を決め込み、この日は大満足の就寝となった。

暗闇のその先でクルマサカオウムは叫んでいた。

 

 

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太古の大地に想いを馳せて(2024年キャンプ8日目)

最終夜は数千年前へのタイムトラベル

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8日目朝は5:30に起床。そりゃ前日19:30に寝ていればイヤでもそうなる。しかし外は暗くて寒い。二度寝を決め込んで次に起きたのは6:30であった。

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まったりと朝の探鳥を行う。ここでの本来の狙いはクルマサカオウムであるが、彼らは経験則から言うと結構喋ってくれるので声が聞こえてからその方向に向かうのが正解である。だが肝心の声が全くしない。今日はいないのであろうか。

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違うインコ類は色々と飛んでいるし喋っているのだがなぁ。

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9時まで待ってみるが全く気配がないので移動を決意。まぁ簡単に出会える鳥ではないから仕方ない。

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Bourkeの町まで戻ってスーパーで朝飯とジュースを購入。久々の文明である。

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町の中ではクロオウム達が30羽ほど集まって井戸端会議を開いていた。そして相変わらず左利きである。

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昨晩はネット環境から離れていたので町外れの木陰で鳥の声を聴きながらブログの執筆、更新、予約投稿設定を行う。これでBourkeはひと段落である。

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さらにネット環境で調べると、クルマサカオウムの最新目撃地点はここから更に南下したMt Hope周辺と判明。その目撃日は26日...って今日じゃねぇか。うーん...そっち方向に行くかぁ...
方向性は決まった。南に向かいつつシドニーを目指そう。

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旅路を再開して40分ほどで近くに国立公園の看板を発見。時間的な余裕もあるし寄ってみよう。

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Gundabooka National Park。ここにはオーストラリア先住民が描いた壁画が残っているらしい。これはぜひみに行かなくては。ということで壁画のある場所までブッシュウォークです。

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20分ほどで壁画の場所に到着。こんな荒野のこんな岩場に突然あるのか。凄いな。

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岩肌の絵を見てみる。おぉ、凄い!本当に先住民の残した絵ですよ。格好いいなァ。沢山の人が集まっている様子はきっと何かの祭事を表しているのであろうか。

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こちらにはエミューの絵。この辺りでメインで獲っていた狩猟対象だろうからなぁ。

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人の絵には右手に「くの字型」の物が握られている様子も描かれている。この辺の部族はまさにブーメランをメインウェポンとして使用していたのだろうかねぇ。変化していないであろう周りの環境を見て、飛び交うブーメランを想像する。妄想が捗る。

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しかしなんでこんなところに壁画があるのだろうと思いちょっと辺りをうろついてみる。するとすぐ近くに水溜まりを発見。ここ1ヶ月でまともな雨は1日だけの筈なのにまだ真水が充分に残っているところから推測するに、ここは当初でも貴重な真水の補給源だったのかもしれない。

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そんな想像を膨らますニンゲンを一匹のカンガルーは不思議そうに見つめていた。きっと彼はその本当の理由を知る大地の生き証人なのだろう。

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フラリと寄ってみたが大満足のブッシュウォークであった。

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寄り道を終えて再び車を走らせる。向かう先はBourkeの南。つまりは...
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そう、2022年に散々な目に遭った伝説の場所Cobarである。

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今回の旅も集大成。せっかくなので今日は焚火を起こして肉を焼こう。そう思ってローカルの肉屋に突撃。

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ソーセージが色々と種類があって美味そうだったので各2本ずつ購入。コイツを焼いてパンに挟んで食おう。

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もはや「いつもの場所」と呼ぶべき野営地点に到着。実家のような安心感とCobarのような不安感。

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しかしやはり火を起こして焼いた肉は美味しいのである。明日ちゃんと帰れるかなんて不安は忘れ、ひたすら美味しい肉に齧り付いた。

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