『エクソシスト 信じる者』
『エクソシスト 信じる者』。かつて大地震で負傷した妊婦の妻か腹の中の子どもか、命の選択を迫られた男が主人公。彼の娘とその友人の娘が悪魔に憑かれる。過去の地震の一件で信仰を失っていた主人公は、近隣の教会の関係者、民間信仰者、悪罵祓い経験者など様々な信仰を持つ者と接触し、彼らと一緒に悪魔祓いをする決断をする。その際、チームの牽引役となるのは、過去の中絶経験を悔いている女性だ。
ロー対ウェイド判決を覆し妊娠中絶を違憲とした現在のアメリカで、上記のような設定のホラーが作られた。少女たちの変貌を最初は医学的に解釈しようと試み、やがて悪魔憑きだと認めざるをえなくなる展開は、ウィリアム・ピーター・ブラッティの小説『エクソシスト』および1973年の同作の映画化を踏襲しており、正統的な続編といえる内容だ。そこで、出産をめぐる個人の判断の是非という今日的でもある問題が前景化される。
ただ、映画では、神と悪魔の存在を認める点では共通するにしても、必ずしも信仰の内容が一致しない人々が共同で悪魔祓いを行う。命を落とす者も出るなかで、人と人のつながりを信じることの大切さが説かれる。人と人のつながりと宗教と、どちらを重視しているかは曖昧であり、中絶の罪悪感が語られているにせよ出産に関し個人が判断することの是非についても、作中で明確な判断は下されていないように思う。その意味では、共和党的でありながら民主党的なストーリーといえるかもしれない。
観た時の居心地の悪さは、現在のアメリカの宗教、中絶をめぐる世論の揺れと軋みが反映された結果だろうか、などと思った。
SUMMER SONIC 2023
今年観たもの
・8月19日
MELT4/amazarashi/New Jeans/TWO DOOR CINEMA CLUB/SEKAI NO OWARI/ALI SHAHEED MUHAMMAD(A Tribe Called Quest)/DJ豊豊/星野源/YOASOBI
・8月20日
METALVERSE/NOVA TWINS/ももいろクローバーZ/sumika/Original Love/Awitch/女王蜂/CHAI/新しい学校のリーダーズ/BABYMETAL
最近の自分の仕事
-大滝瓶太『その謎を解いてはいけない』の書評 → 「ミステリマガジン」9月号
-「アフタートーク 著者×担当編集者」第10回<『#真相をお話しします』結城真一郎(作家)×村上龍人(新潮社)>(聞き手・構成)
-速水健朗「90年代は馬鹿みたいに浮かれていた時代」『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』インタビュー(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/08/post-1393863.html
1970年代後半カルチャー論(仮)
1970年代後半カルチャー論をやりたいと思い始めている。W村上など20代作家が多く登場し、新井素子みたいに10代までがデビュー。性意識、キャラクター、文体など小説に変化があった。同時期にはマンガの24年組、JUNEなどBL源流の動きがあり、YMOのテクノブームでテクノロジーの変化も見られた。
後のカルチャーのプロトタイプ的なものを多く見出せる気がする。この時代をになった人たちが亡くなり始めているから、この時代を考えたくなったということもある。
(これは前回投稿「音羽キャンディーズの時代」にも関連する話)
最近の自分の仕事
-彩瀬まる『花に埋もれる』、清志まれ『おもいでがまっている』の書評 → 「小説宝石」5・6月合併号
-特集 藤子 F・不二雄のSF短編の作品総解説のうち3作担当(「ぼくは神様」「マイロボット」「世界名作童話」) → 「SFマガジン」6月号
-「ジャーロ」編集長インタビュー「評価がある評論家さんが、売れる本を書けないとは思えない」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/04/post-1313377.html
-YMOが突き詰めた擬似日本人像、「なりきれなさ」に託した思い → 「朝日新聞」耕論 YMOとその時代(5月20付。談話)https://www.asahi.com/articles/DA3S15640553.html https://www.asahi.com/articles/ASR5J55WZR4TUPQJ00W.html
-川瀬七緒『四日間家族』の書評 → 「ハヤカワミステリマガジン」7月号
-<アフタートーク 著者×担当編集者>第9回「『いけない』『いけないII』道尾秀介(作家)×清水陽介(文藝春秋)」(聞き手・構成) → 「ジャーロ」No.88
-もしも寺山修司が今、アイドルをプロデュースしたら? 中森明夫『TRY48』が紡ぐ、アングラからサブカルへの連続性 https://realsound.jp/book/2023/06/post-1345584.html
-砂村かいり×モモコグミカンパニーが語る、アイドル活動を終えた後の人生「カメラをむけられないけれど、生活は続く」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/06/post-1342931.html
-金属恵比須主催 プログレッシヴ・フォーラム「SFと小松左京、そしてロック音楽」イベントレポ(取材・構成) https://realsound.jp/book/2023/06/post-1343238.html
-村上春樹『街とその不確かな壁』に見る、老いの創造力 円堂都司昭×藤井勉×三宅香帆 鼎談 https://realsound.jp/book/2023/06/post-1348397.html
-平野啓一郎が明かす、三島由紀夫への共感「虚無のなかから文学的な美を創造することに自らの存在意義をかけた」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/07/post-1363995.html
-「ハヤカワ新書」一ノ瀬翔太編集長インタビュー「読む前と世界が違って見えるレンズのような本が作れたら」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/07/post-1360417.html
-日本一の長寿雑誌「中央公論」編集長インタビュー「クオリティの一線は譲らず、この大切なプラットフォームを守っていきたい」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/07/post-1370781.html
今年の予定
・懸案の評論単著2冊を仕上げる(それぞれ全体の半分以上を書き進んでいるので完成しないことはないはず)。
・執筆参加本が2冊出る(いずれも自分の担当分は入稿済み)。
・さらに某企画が通れば参加。
・書籍化前提で評論連載を始めたい。
・以前よりスローペースになっているが、編集長インタビューのシリーズは続ける。
・他にもいろいろ。
最近の自分の仕事
-MRCミステリーガイド 書評配信――阿津川辰海『録音された誘拐』/荒木あかね『此の世の果ての殺人』/夕木春央『方舟』/潮谷験『あらゆる薔薇のために』/西式豊『そして、よみがえる世界』 → メフィストリーダーズクラブ
-宇佐美まこと『展望塔のラプンツェル』の文庫解説
-「ミステリ用語解説」 → 「第75回日本推理作家協会賞 贈呈式/第68回江戸川乱歩賞 贈呈式」冊子
-庄子大亮『アトランティス=ムーの系譜学 〈失われた大陸〉が映す近代日本』書評 → 共同通信配信
-日本推理作家協会編『最新ベスト・ミステリー 陥穽の円舞曲』(西上心太氏とともに収録作を選考。序文を執筆)
-文学フリマ代表・望月倫彦が語る、リアルなイベントの価値 「文章を書く人の数は今が一番多い」(構成・取材)https://realsound.jp/book/2022/11/post-1184723.html
-小川哲『君のクイズ』、北村匡平『椎名林檎論 乱調の音楽』の書評 → 「小説宝石」12月号
-歌野晶午『首切り島の一夜』書評、「特集 ミステリが読みたい! 2023年版」のアンケート投票と国内篇総括 → 「ミステリマガジン」2023年1月号
-「アフタートーク 著者×担当編集者」第6回『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』鴨崎暖炉(作家)×下村綾子(宝島社)の聞き手・構成 → 「ジャーロ」No.85
-「参照・引用・付加価値のデッドロックとしての一九九〇年代――ロスト・ジェネレーションの思春期・青年期」 → 「現代思想」12月号 特集=就職氷河期世代/ロスジェネの現在
-『invert 城塚翡翠 倒叙集』で変わる清原果耶の“性格” 倒叙ミステリーの魅力を解説 https://realsound.jp/movie/2022/11/post-1187405.html
-「2050年に30歳以下で年収200万円以下は普通にありえる」 近未来SF『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』のリアリティライン(長谷敏司インタビュー 構成・取材) https://realsound.jp/book/2022/12/post-1195698.html
-呉勝浩『爆弾』へのコメント → 「週刊文春」12月8日号 2022年ミステリーベスト10
-小松左京の未完の大作『虚無回廊』をプログレに? 異色のバンド・金属恵比須が語る、ロック×文芸の可能性(高木大地インタビュー 構成・取材) https://realsound.jp/book/2022/12/post-1200786.html
-河合莞爾『ジャンヌ』の文庫解説
-伊坂幸太郎が描く、時代を超えた対立の構造 作家8組が競演「螺旋プロジェクト」の試み https://realsound.jp/book/2022/12/post-1220870.html
-人間椅子・和嶋慎治、初小説で新たな扉を開く「文章で創作するのは子どもの頃からの憧れでした」(構成・取材) https://realsound.jp/book/2022/12/post-1218838.html