「めくらやなぎと眠る女」(2022仏ルクセンブルグカナダオランダ)ジャンルアニメ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 2011年、東日本大震災直後の東京。銀行員の小村は、震災のニュースばかりを見続けていた妻キョウコが突然失踪してしまい茫然自失となる。一方、小村の同僚、片桐は融資先からの返済が滞り途方に暮れていた。ある晩、帰宅すると部屋に巨大なカエルがいて驚く。カエルは東京に巨大地震が来るので一緒に阻止して欲しいと言うのだが…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!
(レビュー) 妻に逃げられた小村。巨大なカエル男、カエルくんに取りつかれた片桐。ふたりの銀行員を主役に6本のストーリーで綴られるオムニバス作品。
村上春樹の短編小説(未読)をフランスでアニメーション化したという大変珍しい作品である。オフビートでシュールな事象が次々と出てきて、まるでコント集のような感じで面白く観ることが出来た。
とりわけ小村の妻キョウコが話す”めくらやなぎと眠る女”の逸話は意味深で印象深い。耳の中に蠅が潜り込んで脳を喰うという何ともおぞましい話で、デヴィッド・リンチ監督の「ブルー・ベルベット」(1986米)を連想した。
また、小村が同僚に頼まれて北海道まで謎の小箱を届けるエピソードも面白かった。これもリンチの「マルホランド・ドライブ」(2001米英)に出てきた青い箱を連想した。
他にも今作にはグロテスクなエピソードが幾つか登場してくる。小村が終盤で出会う少女はかなり不気味だったし、片桐が見る悪夢もダークで捉えどころのない気味悪さを覚えた。時代設定が東日本大震災直後なので、社会全体を包み込む不安な空気感が再現されているのかもしれない。
そんな重苦しい雰囲気の中、片桐とカエルくんのやり取りを描く一連のシークエンスは終始ユーモラスで楽しく観れた。個人的に今作で最も好きなのはこの部分である。カエルくんのとぼけたキャラがユニークだし、平凡で冴えない中年男、片桐に大地震阻止という大きな使命が託されるのも馬鹿げていて可笑しい。
一方で、中にはどう解釈していいのか分からないエピソードもあり、このあたりは自分自身もう少し咀嚼が必要である。
例えば、小村と聴覚障害の少年のエピソード、小村と北海道で出会う女のエピソードは、何を言いたかったのかよく分からなかった。これらは会話劇主体の作りになっており、言葉の意味を探っていくと夫々に退屈はしないのだが、何とも捉えどころのないエピソードとなっている。
映像については、日本やディズニーの作品に比べると決してクオリティは高いとは言えない。特に美術背景はかなり雑な個所があり残念だった。ただ、キャラクターの動きは非常に生々しく奇妙な味わいが感じられる。後で調べて分かったが、一度実写で撮影してから、それをトレースして作画したということだ。ロトスコープのような手法と言えばいいだろうか。これが独特の味わいをもたらしている。