「ディストラクション・ベイビーズ」(2016日)ジャンルアクション・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 高校生の将太は両親を早くに亡くし、小さな港町で兄の泰良と2人で暮らしていた。しかし、喧嘩に明け暮れていた泰良はある日突然、姿を消してしまう。その後、泰良は街の繁華街に出没するようになり、強そうな相手を見つけては喧嘩をふっかけ、自暴自棄な日々を送るようになる。そんな泰良に魅了された高校生の裕也は彼と一緒に行動を共にするのだが…。
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(レビュー) 暴力に明け暮れる若者たちの姿をハードなバイオレンス描写を交えて描いた青春クライム作品。
物語は非常にストレートなのだが、感情移入できるドラマとは言い難い。むしろ、暴力にのめりこんでいく登場人物たちに嫌悪感すら覚えてしまった。こういう映画もそうそうないだろう。最近観た中では
「クズとブスとゲス」(2015日)くらいである。
実際、泰良を見て、こんな奴がいたら恐ろしいし相手にしたくない…と思った。何しろほとんど通り魔のように、誰彼構わず殴りかかるのだから始末に負えない。普通は理由があって殴るのだが、彼の場合はそうではない。実に理不尽に一方的に暴力をふるうのだ。
だから、連戦連勝で無敵を誇る彼がヤクザ相手にコテンパンにやられる所は、滑稽且つ奇妙な爽快感を覚えた。本当は暴力を見て爽快感を覚えてはいけないのだが、そうと分かっていても、生意気な小僧の鼻っ柱を折ってやった…というような痛快さが感じられた。
ただ、泰良は弱そうな相手には手を出さない。不良とかヤクザとか強そうな相手にしか喧嘩を吹っ掛けないので、もしかしたら己の強さを証明するために”喧嘩道”を究めんとしているのかもしれない。
それに対して裕也は違う。彼は泰良の腕力を味方につけて強くなった気でいるが、狙うのは女性やお年寄りといった弱い相手である。ある意味では、泰良よりも卑劣な男と言えよう。
映画は、そんな泰良と裕也のコンビが夜の街でひたすら暴力行為をエスカレートさせていく…という展開で進行していく。
その一方で、弟・将太が泰良を追いかけるドラマも展開される。こちらはこちらで、心を閉ざした将太の鬱屈した感情が描かれていて中々目が離せなかった。両親の不在や孤独な環境、あるいは叔父との関係などを想像すると、彼が唯一の肉親である兄を求めて彷徨う姿はどこか不憫に見える。
後半に入ってくると、風俗店で働く那奈というヒロインが加わり、泰良と裕也は暴力行為を更に加速させていく。彼女も裕也たちに振り回された被害者なのだが、しかし最後の顛末を見ると一概にそうとも言えない所が面白い。彼女もまた暴力に魅せられてしまった加害者なのではないか…という風に見れる。
ただ、本作を観て明確なメッセージというの物は感じられなかった。ただの娯楽としての暴力映画を撮りたかったのか?それとも泰良たちの暴力を見せることで、観客に何かを考えて欲しかったのか?暴力の虚しさといった通俗的なメッセージを今ここで改めて訴えているような感じもしないし、観終わって今一つシックリとこなかったのは残念である。
監督、共同脚本は真理子哲也。インディペンデント時代から注目されていた気鋭の作家で、長編監督デビュー作「イエロー・キッド」(2009日)からその才能は認知されていた。その彼がいよいよメジャーな俳優を使って製作したのが本作である。
正直、メジャーでここまでやっていいの?という感じもするが、この剥き出しなバイオレンス描写はインパクトがあり、その熱量には圧倒されるばかりである。あまりカットを割らずに淡々と暴力を切り取って見せるあたりには北野武監督の影響も感じられた。
また、要所で見せるノワール・タッチにも魅了された。画面設計の上手さにも、その才覚が伺える。
キャストでは何と言っても、泰良を演じた柳楽優弥の怪演が印象に残った。無表情で殴り、殴られる姿に底知れぬ狂気が感じられた。セリフも終盤に少しある程度で、ほとんど肉体勝負の演技に徹している。彼の怪演に作品が引っ張られているという感じがした。