犯罪にのめり込んでいく若者たちの刹那的な生き様を渇いたタッチで描いた作品。
「ケンとカズ」(2016日)ジャンルサスペンス
(あらすじ) 小さな自動車修理工場で働くケンとカズは高校からの腐れ縁である。2人は仕事の傍ら、工場のオーナー藤堂が元締をする覚醒剤の密売に手を染めていた。ある日、ケンの恋人・早紀が妊娠する。これを機にケンは今の仕事から足を洗いたいと考え始める。ところがカズは藤堂を裏切って敵対するグループと手を組んで商売を始めた。ケンはそれに巻き込まれていくようになる。
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(レビュー) 覚醒剤の密売に手を染める二人のチンピラの生き様を渇いたタッチで描いた犯罪映画。
監督・脚本は本作が長編デビュー作となる小路紘史。
役者の表情に迫ったクローズアップが印象的で、映画全体に息詰まるようなサスペンスを生み出している。
例えば、冒頭の強盗シーン。ケンたちが敵対する売人を襲撃する場面における、空気が張りつめたようなピリピリとした緊張感は尋常ではない。このオープニング・シーンから一気に画面に引き込まれた。
監督の演出意図に見事に応えたキャスト陣も素晴らしい。本作はインディペンデント作品なので有名な俳優は一切登場してこない。しかし、これは逆に言えばイメージが付いていないまっさらな状態でその役者の演技を見ることが出来るわけで、ヘンなバイアスがかかっていない分、登場人物がみな活き活きと見えてくるようになる。これが名の通った有名俳優であれば、こうはいかないだろう。登場人物に対する感情移入もすんなりできて、終始彼らの心情に寄り添いながら観ることが出来た。
ケンを演じたカトウシンスケは、どことなく若い頃の原田芳雄を彷彿とさせる風貌で印象的である。一方のカズを演じた毎熊克哉も何となく的場浩司に似ていて不良的な佇まいがこの役にシックリときた。本作はこの両者の熱演が一つの見所である。
物語はいわゆる田舎にくすぶる若者たちの鬱屈した青春と友情を描いたドラマとなっている。この手のドラマは古今東西どこにでもあるが、逆に言うと普遍的な面白さがあるので安心して見ることが出来た。
ケンとカズは高校時代からの親友で、ある種ホモセクシャルなテイストも嗅ぎ取れるが、決してベタベタとした馴れ合いの関係ではない。互いのことを厳しく見ながら、時には意見を対立させて激しい喧嘩もする。そんな二人の関係は、ある意味バディ・ムービーのような感覚で観れる。
そんな二人の関係は、あることをきっかけに破綻してしまう。ケンの恋人、そしてカズの母親の存在によって崩壊してしまうのだ。
ケンは、生まれてくる子供のために真っ当な仕事に就いて欲しいと願う恋人の情にほだされて、カズは日に日に認知症を悪化させていく母を施設に入れるため、二人は生きる道を異にするようになる。ケンはヤクザ稼業から身を引き、カズは益々裏社会の深みにハマっていくのだ。
最終的に二人とも悲劇的な結末を迎えるのだが、これにはアメリカン・ニュー・シネマ的な喪失感、哀愁が感じられた。裏社会に生きる若者たちの非情な運命を見事に画面に焼き付けることに成功していると思う。
本作でもう一つ面白いと思ったのは、ケンとカズの関係が対等な物から徐々にカズの方が優位になっていく事だった。生きる上での”覚悟”と言えばいいだろうか‥。その”覚悟”はカズにはあったがケンにはなかった‥という所がミソで、それが二人の結末の差に繋がっているのかな‥と考えさせられた。
また、本作はシナリオもよく出来ている。2人が犯罪に走ってしまう動機付けがきちんと説明されているのでドラマの芯がしっかりしている。ケンは恋人と生まれてくる子供のために、カズは認知症の母を介護するために大金を手に入れなければならない。その切実なる思いはひしひしと伝わってきて、こうした人物のバックボーンも本作は丁寧に描かれていて好感を持った。
小路監督の演出は荒削りな部分もあるが、見せる所はじっくりと見せ、流す所は流すという風に全体的にメリハリを上手く効かせていたと思う。
ただ、ケンが見るイメージカットだろう。恋人が赤ん坊を抱いて微笑むカットが度々挿入される。温かみに溢れたスローモーション映像なのだが、これはややクドイという感じがしなくもない。過度に抒情性を持たせた演出でどこか香港ノワールのテイストを想起させ、全体をクールに包み込む本作においてはやや浮いていると感じた。
この他にも編集、場面構成で首をひねりたくなる箇所が幾つかあり、このあたりが洗練されれば更に作品の完成度は増しただろう。とはいえ、長編デビュー作であることを考えれば、まずまずの出来栄えである。
むしろ、これらの稚拙さを補って余りある勢いとパッション。そこに自分は魅力を感じた。今後の日本映画を占う意味でも一見の価値がある作品かもしれない。