映画ありのまま マジカル・ガール
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マジカル・ガール

一見するとハートウォーミングな映画に見えるが、実はとんでもない映画だった。
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「マジカル・ガール」(2014スペイン)star4.gif
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 白血病で余命わずかな少女アリシア。彼女の願いは、大好きな日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着て踊ることだった。父ルイスはその夢を叶えてやろうとするが、失業中の独り身にはコスチュームを買ってやる金がない。思い詰めた末に、高級宝石店に強盗に入ろうとするが‥。その頃、心に闇を抱えた人妻バルバラは精神科医の夫に逃げられ自殺しようとしていた。その最中、彼女はルイスと出会う。二人は成り行きで一晩限りの関係を持ってしまい‥。

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(レビュー)
 魔法少女に憧れる娘のために奔走する父と、精神を病んだ人妻。彼女の元担任教師だった老人。3人が破滅的な人生を辿っていくサスペンス作品。

 監督・脚本は日本のアニメや音楽などが大好きだと言う新人のカルロス・ベルムト。本作に登場する魔法少女のコスチュームは明らかに「魔法少女まどか☆マギカ」のパロディであるし、劇中には長山洋子のデビューソング「春はSA-RA SA-RA」という曲がかかる。こうした日本カルチャーが、そこかしこに登場してくるので日本人としては親しみが湧いてくる。

 ただ、序盤こそ、こうした日本カルチャーで観客(特に日本人観客)のハートを掴むが、ストーリーが進行するにつれてかなりブラックなテイストが主張されていく。どうせまた難病物でしょ?と高をくくっていると、さに非ず。まったく予想できない方向にストーリーが進み、終盤にかけてはグイグイと引きつけられた。

 この映画、オープニングからして何とも不思議な始まり方をする。まるで手品である。最初はそれが何を意味するのかさっぱり分からなかったが、映画を見終わって「なるほど‥」と思えた。つまり、人間は誰しも「マジカル(魔法)」という「錯覚」に魅せられてしまう生き物である。それによって人は夢を見ることも、そして落胆させられることもある。そういうことを、このオープニングとエンディングは語っているのではないだろうか。これはある種、マジック・ショーを見た時の感覚に似ている。まるで狐につままれたような、何とも不思議な感触だが、それがこの映画に深い余韻をもたらしている。

 また、監督の伝えたいメッセージというものもよく理解できた。
 ルイス、バルバラ、ダミアンは結果的に残酷な運命を辿るが、彼らは夫々に何かを<得る>ために何かの<罪>を犯している。

 例えば、ルイスであれば余命いくばくもない娘の夢を叶えてやるために。バルバラは離れかけた夫の愛を取り戻すために。彼らは夫々重大な罪を犯した。
 ダミアンはバルバラに利用されただけなので、ここでは完全なる被害者のように見えるが、しかし彼に関しては過去に何かしらの罪を犯したことは明白である。何しろ彼は刑務所に服役していた。本編では描かれていないだけで彼も何か重大な罪を犯したのだろう。そして、その理由も何かを<得る>ためだったかもしれない。

 あるいは、ダミアンに関しては、こうも考えられる。彼はバルバラに<魔法>を返すために罪を犯したと‥。それはプロローグとエピローグを関連させた循環構成から想像できる。彼は映画の冒頭でバルバラによって<魔法>をかけられ、ラストでその<魔法>バルバラに返している。これは彼の復讐だったのか?それとも愛の告白だったのか?それは分からないが、少なくとも彼はバルバラの気持ちを<得る>ために罪を犯した‥と解釈できる。

 いずれにせよ、このようにここに登場する3人の男女は三者三様、夫々に何かを<得る>ために<罪>を犯している。

 スペインはカトリック教国である。カトリック教会では七つの大罪を公にしている。その中には「物欲」、「色欲」といった人間の悪しき欲望も入っている。正にルイスは魔法少女のコスチュームを手に入れようという「物欲」に溺れ、バルバラは背徳的な肉欲の世界、妊娠しないセックス、ルイスとの一夜の不倫といった「色欲」に溺れた。ここから言えることは、人間とは永遠に罪を犯し続ける弱い生き物ある‥ということだ。監督のメッセージは正にこの1点に尽きよう。このペシミスティックなメッセージにはガツンとやられてしまう。

 ちなみに、映画は「世界」、「悪魔」、「肉」という3つのパートに分かれている。「世界」はルイス、「悪魔」はバルバラ、「肉」はダミアンの主観で綴る構成を取っている。この章立てにも、おそらく教示的な意味を持たせているのかもしれない。

 色々と考えさせられる映画であるが、こうした宗教的なバックヤードを知らずとも、運命の流転に沈みゆく3人が織りなすドラマには普遍的な魅力が詰まっているように思う。それは人間が本来持っている欲望を正直に表しているからである。
 見てて決して楽しい映画ではない。しかし、このドライでシニカルなドラマには、やはり引きつけられてしまう。

 また、カルロス・ベルムト監督の新人らしからぬ卓越した演出力にも感心させられた。
 本作は「何を」見せ、「何を」見せないか、あるいは、「何を」語り、「何を」語らないか。その線引きが非常に繊細に演出されていると思った。見ようによっては分からないことだらけ‥という意見も出てくるかもしれないが、そこは想像を働かせる必要がある。セリフで説明されていない所、映像に出てこない所を色々と想像してみると、今作はより一層の深みを増すだろう。そういう意味では、ストーリーテリングが非常に優れている作品のように思った。今回初見の監督さんだが、次回作が楽しみである。
[ 2016/04/08 00:40 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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