獄中の犯罪者に恋をする女の話。ストーカーよろしく粘着的な女を演じた小池栄子の演技が光る。
「接吻」(2006日)ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 何の罪もない一家を惨殺した孤独な男・坂口はマスコミの前で自作自演の逮捕劇を演じて見せた。それを偶然テレビで見ていた孤独なOL・京子は、逮捕直後の彼の不敵な笑みに奇妙な親近感を覚えた。彼女は事件に関する新聞・雑誌をかき集めるうちに坂口のことを好きになっていく。そして、彼の公判に出かけ担当弁護士・長谷川に差し入れをしたいと申し出た。長谷川は黙秘を続ける坂口に変化があれば‥と思い、その旨を坂口に伝えた。こうして京子は坂口と交流していくようになるのだが‥。
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(レビュー) 獄中の殺人犯に恋をした孤独なOLの物語。
京子が坂口に惹かれる取っ掛かりが若干弱い気がしたが、この設定は中々面白いと思った。
この二人はよく似たタイプの人間である。家族や友人と疎遠で、周囲との繋がりを持てず内向的でプライドが高い。映画は彼らのバックストーリーを必要最小限に留めながら語るので、非常にミニマムな作りになっている。しかし、これがかえってストーリーの裏側をあれこれと想像させ、作品を緊密にしている。
たとえば、長谷川に連れられて京子が坂口の兄に会いに行くシーンがある。マスコミの報道で坂口の情報は知識として入っていた京子だが、ここで初めて兄の口からその生い立ちを聞かされ、益々彼女の中の"坂口像”が立体化されていく。父親に見捨てられたこと。兄から疎まれていたこと。誰からも愛されてこなかったこと‥等。それを聞いて京子は自分と似ている坂口にシンパシーを覚えていくようになる。
このように今作は殺人犯・坂口の人物像が京子の目線を通して徐々に明確にされていくのだ。その過程は、見ているこちらとしても興味津々で追っていくこができた。
こうして坂口に対する思いを募らせていく京子だが、しかし相手は殺人犯で塀の中にいる人間である。決してその恋は実ることはない。そこにメロドラマとしての情緒が湧いてくる。
ただ、この映画はその辺にあるメロウな悲恋ドラマとは一線を画す代物とも言える。恋の恐ろしさとでも言おうか‥、ある種の"毒"を持っているのだ。その”毒”とは京子の行き過ぎた恋愛行動である。自分にとっては正にそこが一番面白く見れる部分だった。
彼女は坂口の素性を調べ上げ、ノートをつけ、仕事を辞めて拘置所近くのアパートに引越し、毎日差し入れと面会をするようになる。更に、それだけでは収まらず獄中結婚まで考えるのだ。後半の京子はほとんどストーカーのようになっていく。ちょっと常人ではついていけない行動心理で、彼女の坂口に対する病的なほどの求愛行動の数々は一種異様な怖さをもってこちら側い迫ってくる。
では、どうして彼女はそこまで坂口に入れ込んだのか‥ということだが、その心理については劇中では明確に語られていない。したがって想像するほかないのだが、個人的には次のように解釈した。
実は、京子の愛は愛と呼べるものではなかったのではないだろうか?相手は別に誰でもよく、たまたま目の前に自分と近しいバックボーンを持った坂口がいた。だから彼女は彼にのめり込んでいった。つまり、京子は自分を蔑にした社会に対する怒りを発端にして、同じように社会に憤りを感じて無差別殺人を犯した坂口に信奉していった‥。彼と一緒になることで彼女は社会を見返すことが出来る‥。そう考えたのではないだろうか。これは愛と言うよりも共犯関係に近い物のように思える。
現に、そう思わせるようなシーンが劇中には見つかる。
例えば、京子が坂口に向かって「戦闘開始だね!」と嬉々として言うシーンがある。これは世間に対する「戦闘開始」を意味したものであろう。また、彼女がマスコミにつけ回されるシーンでは、カメラに向かって不敵な笑みをまき散らす。これはカメラに向かって坂口が笑う序盤のシーンを真似たものだろう。まるで世間を嘲笑しているかのようだ。
このように至る所で、坂口に近づきたいという彼女の思いが確認できる。
個人的には、京子のように犯罪者に引っ張られてしまう心理は決して共感することはできない。ただ、彼女自身がそれだけの鬱屈した感情を抱えていたことはよく理解できるし、その上で坂口に共鳴するというのはドラマのリアリティ上では納得のいく所である。正直理解しがたい心理ではあるが、この二人は一体どうなってしまうのだろう?という興味を抱きながら最後まで面白く見ることが出来た。
演出は基本的にリアリティなタッチが貫かれている。先述の坂口の兄の語りなどは下手な回想を入れない分、かなりリアリティが感じられた。
しかし、その一方で、一部でフィクショナルな物も見られる。例えば、坂口が見る悪夢シーンについてはホラータッチが施されており作為性が感じられる。個人的には余り上手くいっているようには思えなかった。また、手紙を朗読する演出も不自然且つ陳腐である。
キャストでは京子を演じた小池栄子の好演が光っていた。陰気で孤独な女性を淡々と演じながら所々に狂気を忍ばせ、中々の怪演を見せている。
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