映画ありのまま 永遠の1/2
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永遠の1/2

ちょっとシュールな恋愛サスペンス作品。
「永遠の1/2」(1987日)星3
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 結婚と仕事を捨てた青年・宏は、競輪場で売店の女・良子と出会う。彼女はバツイチの孤独な女性だった。二人は過去を吹っ切るようにして愛し合った。その後、宏は再び良子に会いに競輪場に行く。すると、突然二人組のヤクザに絡まれ暴行を受けた。別の日、今度は見ず知らずの女子高生から突然泣きつかれた。どうやら自分と瓜二つの人間がいるらしい‥。宏はその男を探し始めるのだが‥。
映画生活

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(レビュー)
 自堕落な暮らしを送る青年と孤独なバツイチ女性の恋をシュールに綴ったロマンス・サスペンス作品。

 最初は宏と良子のいたって平凡な恋愛ドラマとしてスタートするのだが、途中から宏が自分と瓜二つの人間のトラブルに巻き込まれていくことでサスペンスフルに展開されるようになる。一体何故?どうして?という不安が付きまとい、まるでD・リンチの映画のような不条理な鑑賞感が残る作品である。

 監督は根岸吉太郎。元々は「遠雷」(1981日)で見せたようなリアリズムなタッチを得意とする監督である。ただ、今回はストーリー自体が若干シュールなせいか、全体的に少し作為性の入ったトーンが混入されている。そこが今作を独特のナンセンス・コメディのように見せている。

 例えば、宏は無職で収入が無い。にも関わらず、アパートの家賃を払って良子と普通にデートをしている。その金は一体どこから出ているのか?物語の中では全然触れられていない。この時点で、本作は決してリアリズムに拠った作品ではなく、寓話的な作品であることが分かる。

 「永遠の1/2」という タイトルも実に寓話的だ。これは宏と彼にそっくりな"もう一人の宏"との関係性を言い表したものだろう。と同時に、宏の生き方から更なる意味も読み解ける。

 宏は28歳にして婚約者と仕事を捨てた男である。おそらく自分の人生の道筋を立てることに不安を抱いたのだろう。このままでは人生が決まってしまう、何か大きなことが出来るに違いない、新しい自分に生まれ変われる‥という漠然とした思いから、それまでの人生を捨て去ったのだと思う。

 そして、それは彼の家庭環境にも起因していると思った。実家は錆びれた美容院で、母と妹が切り盛りしている。実に平凡な暮らしである。そして、離婚した父は愛人を作って運送業の仕事をしている。宏のぐうたらな性格は、明らかにこのだらしない父親から受け継いだものだろう。

 このように宏は、若干の問題はあるにせよ、ごく普通の家庭で育ってきた。そして、安定した仕事に就いて普通の家庭を築く予定だったのである。しかし、彼は周囲の家族の暮らしぶりを見てそれに嫌気がさした。未来に展望はないが、人生の再スタートを見切り発車させたのである。

 宏のこの生き方からタイトルの意味も想像できる。彼は満たされぬ人生、大人になり切れぬ半熟さを抱えた青年、つまり「永遠の1/2」なのである。

 原作は同監督作の「ウホッホ探検隊」(1986日)と同じ佐藤正午の同名小説である。「ウホッホ探検隊」はストーリー自体は余り面白いと思わなかったが、所々のセリフは興味深く追いかけることが出来た。今作にもそういった味わいのあるセリフ、考えさせられるセリフが見つかる。おそらく原作者のセンスの良さなのだろう。

 例えば、良子が言う「再婚期間」の意味については、なるほど‥と思わされた。女性は結婚して出産をしなければならない。当然出産には年齢的な限界があり、その分男よりも女の方が「再婚期間」をシビアに考えるものである。思うに、この意味を理解できない宏はやはり大人になりきれない半人前なのだろう。良子の方が断然大人の女性である。尚、二人の立場は仕事を持つ者、持たざる者、音楽の趣味によっても優劣がつけられている。宏の半人前ぶりは"対良子”によって更に明確にされている。

 ラストの宏の「ニセモノ」というセリフも意味深で印象に残った。これは、自分は自律できない半人前であることを暗に語ったセリフなのかもしれない。

 尚、このラストシーンで、ようやく一連の事件の張本人たる"もう一人の宏”が登場してくる。それによって、宏の「ニセモノ」or「ホンモノ」といった自己葛藤も解消されることになる。この瞬間に彼は「ニセモノ」でもなく「ホンモノ」でもなく、本当の自分を見つけられたのではないか‥と思えた。ほんの少しだが宏の成長が垣間見れた所にほっと安堵させられた。

 宏役は時任三郎。演技自体は取り立てて上手いと言うわけではないが、この手のモラトリアム青年を演じさせたら中々ハマる俳優である。「ふぞろいの林檎たち」の演技スタイルに少し近い印象を持ったが中々上手かった。
 尚、もう一人の宏を演じるのは、映画監督のSABUである。余り似てないのだが、これは敢えて狙ったものなのだろう。元々、本作は不条理劇として出発しているのだから、本当に似ていては困るわけであって、このくらいの微妙な似てなさが、そんなバカな‥というシュールさに繋がっている。これがもしトリック撮影で二人の時任三郎が出てきたら白けてしまうだけだろう。そういう意味では、根岸監督の演出はよく分かっていると思った。
[ 2013/07/07 02:33 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(1)

品川女子大生クラブです。
今回、コメントさせていただきます。
また見せていただきます。
[ 2013/07/08 20:56 ] [ 編集 ]

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