斬新な設定も2作目となると新鮮味は薄い。もはやパロディとして楽しめた。
「デッドコースター」(2003米)ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 友人達とドライブに出かけた女子校生キンバリーは、ハイウェイを走行中に玉突き事故の予知夢を見る。そのおかげで現場に居合わせていた数名の命は救われたが、数日後そのうちの一人が不運な事故死を遂げた。彼等の死は死神によって運命付けられていたのだった。キンバリーは同じように1年前の飛行機事故で唯一死神の運命から逃れた女性クレアの存在を知る。彼女は施設の中で外界と断絶した暮らしを送っていた。犠牲者をこれ以上増やさないために、彼女達の必死の抵抗が始まる。
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(レビュー) 目に見えぬ死神との戦いを斬新な手法で描いたホラー作品「ファイナル・デスティネーション」(2000米)の続編。
アイディア自体は前作と同じなので、どうしても新鮮味という点では薄れてしまう。このあたりは仕方がないだろう。ただ、前作の生存者と今回の生存者の間に意外な繋がりがあったり、死神が仕掛けるデストラップに一定の法則性が見えてきたり、続編としての工夫もいろいろと見られる。
また、シリーズの醍醐味である死神の殺し方も、前作以上に色々と凝ったものがあり飽きずに見ることができた。
ただ、余りにも「ありえねー」と突っ込みを入れたくなるような死に方は、さすがに笑うしかなくなってくる。無論作っている方もその辺りのことはパロディとして当然意識しているのだろう。
監督が「マトリックス リローデッド」(2003米)のアクション監督から見事な1本立ち見せ、「スネークフライト」(2006米)というバカ映画を世に送り出した”永遠のB級監督”デヴィッド・エリス。この人のカラーはどうやら基本的にコメディにあるようだ。この調子で突っ走って行って欲しい。
ラストが釈然としないが、凝った映像が面白い。意外にテーマが重い。
「隣人13号」(2006日)ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 中学時代に虐めにあっていた十三は、今でも相手のことを憎んでいた。その相手赤井が同じアパートに引っ越してきた。十三は彼が働く建設会社に潜り込み復讐の機会を伺う。しかし、そこでも昔と同じように虐められてしまう。更に復讐心を燃え上がらせる十三。その時、もう一人の自分”13号”が誕生する。13号による壮絶な復讐劇が始まる。
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(レビュー) 虐められっ子の復讐を過激なバイオレンス描写で綴った作品。
加害者と被害者の逆転現象が復讐の虚しさを浮き彫りにし、製作サイドが訴える問題意識がよく伝わってきた。しかし、だからこそなのだが、奥歯に物の挟まったようなラストはいただけなかった。
このドラマをきれいに締めくくってしまっては、その問題意識もインパクトに欠けてしまう。デリケートな問題なので気を遣ったのであろうが中途半端だ。十三とその鏡面像としての13号。この精神分裂的な葛藤を最後まで維持できたなら、この映画はテーマをより深く印象付けることが出来たかもしれない。例えば、パク・チャヌク監督の復讐三部作のように‥。そう思うと実に残念である。
原作がコミックということで、ストーリーや設定は至極シンプルである。
一方、映像はかなり凝っていて面白く見れた。異様なオープニング風景に始まり、アニメーションが挿入されたり、時に十三の心象をダークファンタジーのような描景で綴ったり、あの手この手で斬新に見せていく。
特に、13号が十三の手を離れて次第に制御不能になっていく後半からは、この異様な雰囲気は増幅していく。サスペンスの緊張度が増し目が離せなくなった。
13号役の中村獅童の怪演もこの緊張感に一役買っていて◎。
黒澤明戦後第1作の作品。色々と思う所はあるが女性映画として見事に昇華されている。
「わが青春に悔なし」(1946日)ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 昭和8年、京都大学の学生で八木原教授の娘幸枝は、同級生の野毛、糸川と親友関係にあった。野毛が軍国主義を批判し学生運動にのめり込んでいく一方、糸川はひたすら法曹の道を目指し勉学に明け暮れていた。幸枝は行動的で頼りがいのある野毛の方に惹かれていく。その後、彼は左翼主義を先導したかどで逮捕拘留されてしまう。それから5年後、東京に出た幸枝は糸川に偶然出会う。糸川は検事をしながら平凡な家庭を築いていた。糸川から野毛が出所したことを聞いた幸枝は、たまらず彼の勤め先である出版社を訪れる。再会した2人はそのまま同棲する。しかし、その幸せも長くは続かず‥。
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(レビュー) 京大滝川事件とスパイ・ゾルゲ事件をモチーフにして作られた作品。降りかかる不幸を物ともせず力強く生きる女性の姿がハードに活写されている。
黒澤明監督の戦後第1作で、後半の豪快な演出は大いに見るべき点がある。
幸枝を演じた原節子を泥まみれの農家の嫁に仕立てて、徹底的に追い詰めたところはいかにも黒澤タッチだ。特徴的なのは原に対するクローズアップの多用で、ヒロインの成長を見事に捉えきっている。悲しみ、喜び、逞しさといった感情が漏れなく画面に映し出され、それまでの小津作品におけるイメージが一新された。
また、中盤でたびたび洒脱な演出が見られるのには驚かされた。黒澤明もこういった小手先のテクニックに走ることがあるのか‥と意外な感じがした。
ところで、この映画には所々に恣意的なイデオロギーを強く感じてしまう部分がある。
製作当時の情勢を考えればこれは当然であって、当時はシナリオの段階で進駐軍による検閲があった。思想的なテーマを扱うには随分窮屈な製作体制にあったはずである。
例えば、時代に抗した野毛に込められた意味は、遠まわしな軍国主義に対する批判であり、彼に対する愛を貫き田舎で畑を耕す幸枝に込められた意味は、戦後日本の農業政策キャンペーンの一環のように見える。言わば、アメリカ側に都合の良いように作られているような気がしてならない。これは、同年公開された木下恵介監督作「大曾根家の朝」(1946日)が反軍国主義的なイデオロギーを持った作品であることからもよく分かる。興味深いのは両作品とも同じ脚本家という点だが、いずれにしても当時の映画作りの難しさというものを如実に表した両作品だと思う。
とはいうものの、女性の独立というメッセージは結末で見事に昇華されている。さすがは黒澤明といったところである。転んでもただでは起きない。娯楽作品として立派に料理した所に巨匠としての意地を見た思いである。
「空軍大戦略」(1969英)ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 第2次世界大戦時、フランスを制圧したドイツ軍はイギリスに侵攻すべく、重要なレーダー基地を破壊する。いよいよ首都ロンドンにまでドイツ軍の空爆が迫ってきた時、イギリス空軍は最後の反撃に出る。
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(レビュー) 有名な「英国の戦い(バトル・オブ・ブリテン)」を描いた戦争大作。
L・オリヴィエ、Mケイン他、キャスト陣が豪華。
実物大の戦闘機の空中戦が思う存分出てくるという点で、本作は他に例のない作品だ。ハイケル、メッサーシュミット、スピットファイヤといった機体が登場してくる。映画の半分以上が空中戦。ファンなら垂涎ものだろう。
ただし、このサービス精神は良しとしても、ドラマ自体は全体的に起伏に乏しい。軍に身を置く者同士の若夫婦、新人パイロットを育てる教官といったキャラクター達が様々なエピソードを紡いでいくが、実質的なドラマの尺の短さも含めていずれも添え物扱いといった印象だ。そこにドラマチックな感情が入り憎いのは当然といえば当然。
主役はあくまで戦闘機という割り切りで見れば満足できる作品である。
ブレッソンらしいビターな鑑賞感が残る。
「スリ(掏摸)」(1960仏)ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ミシェルは競馬場でスリをはたらき逮捕されるが、証拠不十分で釈放された。味をしめた彼は、町で見かけたスリのプロに手ほどきを受けてスリ稼業に転じていく。稼いだ金は病気の母の面倒を見る同じアパートの住人ジャンヌに預けた。来る日も来る日もスリをはたらくミシェル。ある日、母の様態が悪化したという知らせを受け‥。
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(レビュー) スリの常習者になっていく青年の葛藤を冷徹な眼差しで綴った作品。
いわゆるこれは一つの「罪と罰」の物語だと思う。慈愛の聖女ジャンヌは病床に伏すミシェルの母をかいがいしく看護する。彼女の献身的な愛と罪業を重ねていくミシェルの姿を対比する形で物語は展開され、これは正にドストエフスキーの「罪と罰」のドラマと一緒である。
監督はR・ブレッソン。
素人俳優のキャスティングは彼の作品の大きな特徴だが、本作でもミシェル以外に登場するスリのプロ達は俳優ではない。全員本業はマジシャンということだ。さすがに手先が器用で、中々ユニークなキャスティングだと思った。
ただ、彼等の手業は見事なのだが、カメラ演出が悪いせいで少しリアリティに欠けるのが残念だった。普通気付くだろう‥と突込みを入れたくなってしまった。
主人公を冷徹に追い詰めていく所もいかにもブレッソンらしい。ミシェルの悪行を糾弾せず敢えて突き放して見せたところが、彼の罪の重さをよりシビアなものにしている。見終わった後にやるせない思いにさせられた。
物語は至極シンプルで時間も約80分と非常にコンパクトにまとめられている。簡潔な語り口で大変見やすいが、逆に言うと少し舌っ足らずな面もあったのは残念だった。一番引っかかったのは、親友ジャックの失踪の原因がよくわからなかった点である。このあたりはもう少し気を使って描いてほしかった気がする。
TVシリーズ同様ハードな内容で大人向けな作品である。
アクションが少ないのが物足りなかった。
「鉄人28号 白昼の残月」(2006日)ジャンルアニメ・ジャンルSF
(あらすじ) 太平洋戦争が終結してから10年。少年探偵金田正太郎は父の残した巨大ロボット鉄人28号を操縦しながら、日夜悪と戦っていた。そこに正太郎と同名のショウタロウが現れる。彼は父の養子で戦争に行ったきり行方不明になっていた。そして、彼もまた父から鉄人の操縦を教わっていた。鉄人を通じて2人の正太郎は本当の兄弟のようになっていく。そんなある日、正太郎の前に「残月」を名乗る殺人者が現れる。一方、都心では戦争の名残である”廃墟弾”による被害が相次いで起こっていた。
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(レビュー) 横山光輝原作による同名コミックの劇場用アニメーション作品。
実は、本作の前にテレビアニメシリーズとして”戦後版”鉄人28号は作られている。戦後の真っ只中、亡き金田博士の残した秘密の遺産を巡り様々な組織、人物が対立するというハードな内容だった。
この劇場版はそのテレビシリーズからの流れで製作された作品である。本作も舞台設定は戦後間もない日本。廃墟弾を巡って様々な人物が絡み合う重厚な作りになっている。
アニメならではのケレンミ溢れるアクションシーンも盛り込まれているが、そのドラマ性から言って本作はあくまで大人向けとして作られた作品と言っていいだろう。
監督は先のテレビ版と同じ今川泰宏。今川作品といえば過去に「Gロボ」などのロボットアニメの傑作が思い出される。劇場作品ということでTV版よりもクオリティの高い巨大ロボット同士の戦いを期待したのだが、これに関してはやや不満が残った。出し惜しみというわけではないだろうが、ドラマに重点を置き過ぎた感じがする。
そのドラマだが、謎の傷痍軍人”残月”捜査、金田博士が残した戦争の負の遺産とも言うべき”廃墟弾”を巡ってのサスペンス、この両輪で構成されている。夫々の謎が解き明かされたところで、戦争の悲しみ、無情さといったもの浮き彫りにされていく。実に骨太だ。
残念だったのは、後半の”残月”の身顕し以降の展開である。説明に走りすぎて興が削がれてしまった。事件の真相を口数多く説明することくらいつまらないものは無い。このあたりの無粋さでこの映画はドラマチックさを失ってしまっている。
これで三木聡作品は何作目だろう?今年に入ってから急に見始めた。
好き嫌いがはっきり分かれるが、俺は結構好きである。
「図鑑に載ってない虫」(2007日)ジャンルコメディ
(あらすじ) 弱小出版のライターをしている俺は編集長から臨死体験のルポを命じられた。相棒のエンドーを連れて、臨死体験を可能にする”死にモドキ”の情報を知るカメラマン真島を訪ねる。しかし、謎のメモを残して彼は失踪していた。そこにヤクザの”目玉のおっちゃん”が現れる。どうやら”死にモドキ”を探しているのは自分達だけではないらしい。その後、俺とエンドーは元SM嬢でリストカットマニアのサヨコと出会い、”死にモドキ”を探す旅に出た。その先で真島に関する思わぬ事実を知る。
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(レビュー) 謎の”死のモドキ”を求めて癖のある人物達が騒動を繰り広げるスラップステック・コメディ。
監督脚本は三木聡。過去作品同様、特殊なキャラクターの不条理な言動、しょーもない小ネタは、好き嫌いがはっきり分かれるだろうが、個人的には結構好きである。
物語はスラップスティックに展開される。一見すると行き当たりばったりな感じも受けるが、それはシーンごとの感想であって、実は結構考えられたプロットだと思う。
例えば、エンドーが海に突き落とされるシーンと洞窟に入っていくシーンはクライマックスのエンドー失踪の伏線になっているし、サヨコが幼少時代の思い出として語るアイスの逸話もその後の重要な伏線になっている。
脱力テイストが全編に漂うため、これらの伏線をうっかり見逃しそうになるが、実は結構考えて作られている。
惜しむらくは、ヤクザの存在が後半に入って影が薄くなってしまった点である。何か事件性を予感させたのだが、いきなり肩透かしを食らわされた。こういったところの粗雑さは、あるいは狙ってやっているのかもしれないが少し気取りすぎな感じを受けた。
小ネタは相変わらず面白い。特に、わさび、塩辛、モナリザといった意味の無いギャグが笑えた。
登場人物達も相変わらずの変態揃いで、どうしていいやら‥といった感じで笑える。半分男、ちょろり、チュッパチャップスといったキャラ達が際立っていた。いずれも過剰にマンガ的であり、そこが三木作品におけるキャラクターの魅力だと思う。
それにしても、場面場面は強烈なインパクトを残すが、見終わった後には何も残らない映画である。バカバカしい~‥と突っ込みを入れながら見る分にはいいが、作品を見て何かを得たいという人にはまったくの徒労に終わるかもしれない。概ね三木監督の作品はそういった傾向の物が多く、予めそれを知った上で鑑賞すべきだろう。
「東京オリンピック」(1965日)ジャンルドキュメンタリー・ジャンルスポーツ
(あらすじ) 東京で開催されたオリンピックの様子を捉えたドキュメンタリー作品。
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(レビュー) 当時を知らない者としては、いろいろな部分で興味深く見れた。
もはや語り草となっている日本女子バレーの快進撃等、有名どころも抑えている。その一方でアフリカの独立間もない小国の選手にクローズアップした所が中々ユニークだった。
ただ、昨今の凝った構成のドキュメンタリー映画を見慣れている者としては、いささか凡庸な出来に思えた。各種目を淡々と追いかけていくだけの映像で、これはこれで正攻法で良いのだが生真面目過ぎて物足りない。
公開当時「記録か芸術か?」という論議を巻き起こしたことを考えると、監督市川崑の作り手としてのジレンマもあったのだろう。そのあたりが滲み出ているあたりに「作品」としての中途半端さをおぼえてしまう。
この作品は洒落の分かる人だけにお勧めしたい。
ブラックであまりにもクセが強いからだ。
しかし、そこが個人的には好きだったりする。
「ハピネス」(1998米)ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 内気で平凡なOLジョイはいまだに独身。姉トリッシュから男友達を紹介されるがあっけなく破局を迎えてしまい落ち込む。トリッシュは夫と子供と幸せな家庭を築いていたが、実は夫には少年愛の性癖がある。こともあろうに小学生の息子の同級生に恋してしまった。姉妹には更に上の姉、人気女流作家のヘレンがいる。彼女はレイプされた経験がなく創作に息詰まっていた。そんな彼女に想いを寄せていたのがアパートの隣室に住む太ったサラリーマン、アレンだった。告白できず日々自慰にふけっていたが、向かいに住む肥満女性クリスティーナがモーションをかけてくる。ある晩、彼等が住むアパートでとんでもない事件が起き‥。
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(レビュー) 三姉妹と周縁の人々の愛と苦悩を描いたブラック・コメディー。
監督は異才T・ソロンズ。彼の作風はデビュー作「ウェルカム・ドールハウス」(1995米)から一貫している。アメリカ社会の暗部を笑いに転化するのが特徴である。中にはどぎついシーンもあるので、万人が見て楽しめる作品とは言いがたいが、唯一無二の存在としてアメリカ・インディペンデント界では貴重な作家と言う事が出来る。似たようなところで言えばP・T・アンダーソンやT・ツワイゴフが思い浮かぶが、毒ッ気という点ではソロンズが突出している。何しろ本作は「ハピネス」というタイトルからして人を食っている。
この映画で一番印象的だったのは、デブカップル誕生を描くシークエンスだった。愛に無縁のアレンとクリスティーナが薄汚いバーの片隅でダンスをするとても良いシーンなのだが、その後に訪れる急転直下の展開は実に意地が悪い。いかにもソロンズ節である。
この群像劇には彼ら以外にもアクの強いキャラクターが多数登場してくる。皆個性的で面白い。そして、彼等は一見平凡に見えるが、影では他人には言えない変態的な苦悩を抱えている。少年愛の性癖を持つビル、レイプ願望を持つ女流作家ヘレン、熟年離婚の危機を迎える老カップル等。彼らは孤独ゆえに愛を渇望する。その姿はラディカルに写るかもしれないが、同時に生きる意味を痛切に訴えてもいる。
”生きる意味”とは何だろうか?この作品を見る限り、それは”欲望を求めること”に他ならないという気がする。
思い返してみると、T・ソロンズの映画に登場するキャラは皆どぎつい”欲望”を持っている。その多くは変態的だったり悲劇的だったり、他人には決して言えないような内向的な欲望である。そして、それらが時に笑いずらい場面を創出するのだが、逆に嘘や見かけだけでは真に人生は描けるだろうか。彼らの内向的な欲望は、意外にも人生の本質を鋭く突いているような気がする。現に誰にだって人には言えないような変態的な〝癖”はあるものだ。そうであるから、ソロンズ作品には度々しみじみとしたペーソスが感じられるのである。それは生きることにもがき苦しむキャラクターたちがいるからなのである。格好悪くても、惨めでも、それが〝生きたキャラ”というものなのである。
美しいI・アジャーニがエログロに挑戦。
シュールな世界観がスゴイとしか言いようがない。
「ポゼッション」(1980仏西独)ジャンルホラー
(あらすじ) 長い単身赴任から帰って来たマルクを待っていたのは妻アンナの冷めた態度だった。友人の情報から愛人ハインリッヒの存在を知ったマルクは、彼の家に乗り込んでいく。しかし、実はハインリッヒもアンナから冷たくされていた。どうやら第三の男がいるらしい。マルクは私立探偵を雇ってアンナを尾行させる。探偵はその先でおぞましい物体を見るのだった。
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(レビュー) 狂気に蝕まれていく人妻をショッキングな描写で綴ったホラー作品。
見ものはアンナ役のI・アジャーニの怪演である。目を見開き完全にイッちゃった表情は、「エクソシスト」(1973米)のL・ブレアが可愛く見えるほどで、その憑かれっぷりは見ていて痛々しいやら、恐ろしいやら。ただし、地下鉄の狂乱振りはアングラ演劇のようでさすがにやり過ぎという気がしなくも無いが‥。
映画のスタイルは基本的に手持ちカメラを主体としたドキュメンタリータッチが貫かれている。そのおかげで彼女の狂気は生々しく捉えられており終始、緊張感が持続する。また、東西分断のドメスティックな背景が寒色系のトーンとあいまって異様な雰囲気を醸し、オカルトとしてのムードも満点だ。終盤にかけてB級モンスターっぽいチープな作りになっていくのはご愛嬌といったところだが、それまでは恐怖を静かに盛り上げていてホラーテイスト溢れる作品になっている。
ただ、物語はやや破綻気味という感じがしなくもない。特に終盤、まとめに走りすぎたかな?という感じがした。事件の背景については決して十分な情報が提示されているわけではない。そのため解釈を迷うところもある。
例えば、あの怪物が何だったのか?解釈は色々と分かれるだろう。
俺はタルコフスキーの「惑星ソラリス」(1972ソ連)を連想した。つまり、あの怪物はアンナが生み出した想像の産物なのではないかという解釈である。
興味深いことに、「惑星ソラリス」はポーランドの作家が書いたSF小説が元になっている。そして、本作の監督アンジェイ・ズラウスキーもポーランドの映画作家だ。
ポーランドが辿ってきた歴史は実に不幸で、第二次世界大戦時の動乱は今尚多くの人々に深い悲しみを残している。これは想像だが、ポーランド人の深層心理に根付く戦争のトラウマが、今回の怪物やソラリスといった得体のしれない恐怖を作り出したのではないだろうか?
それは正にポランスキーが「戦場のピアニスト」(2002仏独ポーランド英)を撮ったことからも、A・ワイダが抵抗三部作を撮ったことからも伺える。彼等ポーランド人にとっては決して拭い去ることの出来ない過去であり、それが本作のような悪魔的な作品の発祥に繋がっているのではないかと考えられる。