独断的映画感想文:永遠と一日
日記:2024年3月某日
映画「永遠と一日」を見る.
1998年.監督・脚本:テオ・アンゲロプロス.字幕翻訳:池澤夏樹.
出演:ブルーノ・ガンツ(Alexandere),イザベル・ルノー(Anna Alexandere's wife),アキレアス・スケヴィス(TheChild),デスピナ・ベベデリ(Alexandere's Mother),イリス・ハジアントニウ(Katerina Alexandere'sdaughter),エレニ・ゲラシミドゥ(Ourania),ヴァシリス・シメニス(Nikos Alexandere's Son in law),ファブリツィオ・ベンティヴォリオ(Solomos The Poet).
作家で詩人のアレクサンドロスは死病を得て明日入院の予定,今日はいわば人生で最後の日だ.朝,生まれ育った海辺の家で子ども同士で海に飛び込み,水没した古代都市を見に出かけた夢を見る.長年世話になった家政婦ウラニアと別れ犬と出かける.途上,街頭で車の窓ふきで小銭稼ぎをしている,ギリシャ系アルバニア難民の少年たちを見る.彼らが警察に追われているのを見て,とっさに一人を自分の車にかくまう.娘カテリーナのもとを訪れ犬を預かってもらおうとするが,夫が動物嫌いでと断られる.その夫からは,海辺の家を処分して明日から解体工事が始まると告げられる.娘に亡妻アンナの手紙を渡すが,娘が読み上げた手紙を,自身は読んでさえいなかったことを知る.
帰路,詩人はかくまった少年が「人買い」に拉致されるのを目撃,その車の後を追い少年を持ち金をはたいて買い戻す.少年はアルバニアには祖母がいると云うので国境に送り届けようとするが,実際は少年の故郷は人が死に絶え地雷原となっているのだった….
詩人と少年はギリシャに戻り,最後の一日を共に過ごすことになるその物語.少年に自分の研究してきた19世紀の詩人ソロモスの話をしてその追憶にひたる詩人.港で息子の婚礼に列席していたウラニアに犬を託し,海を見ながら妻と親戚たちと遊んだ思い出にふけり,いかに妻が彼を愛したか,にもかかわらず詩作に没頭してあまり顧みることのなかった自分を思い出す.少年は自分のことを余所者だと云うが,詩人も詩を紡ぎだせない限りは人々に対し余所者に過ぎないと,彼は思う.
少年は村を出て以来の盟友セリムを失い,悲嘆にくれる.彼は仲間と共にフェリーでギリシャを離れると云う.詩人も明日は長い旅に出なければならない.別れの時が迫り二人が乗るバスのシーンが,あたかも「銀河鉄道の夜」の様で心に残る.
映画は緊張感と美しさに溢れた長回しを多用し,冒頭から映画に引き込まれた.ブルーノ・ガンツはじめ俳優たちの演技も感銘的.何よりこの映画が作り上げた,詩人の最後の一日という寓話的な世界が,素晴らしい印象を残す.絶望に始まった映画は,最後にある種の希望と心の平安をもって終了する.忘れられない映画だ.
★★★★☆(★5個が満点)
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