独断的映画感想文:サッド ヴァケイション
日記:2007年10月某日
映画「サッド ヴァケイション」を見る.
2007年.監督:青山真治.
浅野忠信,石田えり,宮崎あおい,板谷由夏,中村嘉葏雄,オダギリジョー,光石研,斉藤陽一郎,辻香緒里,とよた真帆.
この映画は,同じ監督が11年前に撮った「Helpless」,7年前に撮った「EUREKAユリイカ」と北九州3部作をなす作品という位置づけだという.
深夜の海岸,中国からの密航者の手引きをしている健次,船内で父親を亡くした少年アチュンを,健次は連れ帰って一緒に暮らす.その部屋には今は亡き友人安男の妹で知的障害のあるユリも一緒に住んでいた.
ある日,密航を取り仕切る中国マフィアから呼び出され,痛めつけられたうえ,いつかアチュンは取り返すと言われた健次は,小倉に移り住む.
そこで代行ドライバーとして働くうちホステス椎名冴子と知り合い,二人は愛し合う様になる.
若戸大橋の見える街にある間宮運送は,社長の間宮が流れ者ややくざに追われるものを寮に受け入れ,仕事を共にしていた.バスジャック事件の生き残り梢もそこで働き始める.
ある日間宮を代行で送ってきた健次は,そこで間宮の妻千代子を見かけるが,千代子はかって5歳の自分を捨てて家を出た実の母だった.
千代子の勧めに従い,ユリとアチュンを連れて間宮運送に移り住んだ健次,しかし健次は「どんなことをしてもあの女を不幸にしてやる」という,復讐心に燃えていた….
重層的で豊かな物語性がこの映画の大きな魅力である.その物語の始まりは「Helpless」・「EUREKAユリイカ」にあるのだが,その繋がりは途中で唐突に現れ2人でしゃべりまくる健次の友人で梢の従兄弟の秋彦と,梢の親代わりという茂雄の会話で明らかになる(この二人の北九州の方言と雰囲気丸出しの漫才の様な会話は,聞き取りにくいが傑作だ).
また,物語の軸が間宮社長と千代子の夫婦関係,健次と千代子の親子関係にあって,それは社会の現実の中で苦闘する男たちと,したたかにその底に母性の根を張る女たちの物語として展開していくことも次第に見えてくる.
暴力と血が応酬されるが,映画の後味は悪くない.男女・親子を巡る物語は,結局神話・寓話の様な結末となったからだろうか.
空撮やフラッシュバックも入れた映像は美しく,挿入される音楽も素晴らしい.
千代子というキャラクターは,あまりにしたたかで身勝手にも見えたが,一人,息子の部屋で無垢の着物を着て端座しているシーンで,千代子の別の側面を知ることになった.終盤で健次に告げられる新しい事実も衝撃的で,監督が映画に施した仕掛けも中々にしたたかである.
長尺ながら一気に見た.他の脇役陣も辣腕揃いで一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
ほんやら堂さん、こんにちは。ご無沙汰しております。
TBありがとうございました。こちらからは入らないようで残念です。
青山真治監督の北九州三部作、素晴らしかったです。
(まだ記事は挙げておりませんが、昨夜『ユリイカ』も観ました)
これからも監督の作品は注目していきたいです。
ではでは、また来ますね。
投稿: 真紅 | 2008/09/06 11:22