First Chance to See...
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エコ生活、まずは最初の一歩から。

 オーブリー・ビアズリーのことは、ラファエル前派とか、オスカー・ワイルドとの関係で、まんざら知らないこともない。そもそも、『サロメ』の挿絵のインパクトは強烈だから、一度目にしたら忘れたくても忘れられない。

 

 

 が、好きな人は好きだろうな、と思いこそすれ、私自身は好きだと思ったことはない。それだけに、三菱一号館美術館でビアズリーの特別展が開催されると知った時はスルーしてもいいかなという気もしたけれど、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の全面協力の下、コレクションが一気に150点まとめてやってくるという触れ込みにつられ、「ま、これも勉強かな」くらいの気持ちで行ってみることに。

 

 

 これまであちこちの印刷媒体で目にしてきたビアズリーの有名イラストも、正面から実物と向き合うと意外と印象が変わる——私ごときが言うのもなんだが、さすがによく出来ている。線の綺麗さもさることながら、モノクロの小さい作品なのにそれぞれ構成や構図がうまく/おもしろく決まっていて、でもそれってたくさんの作品を一気にまとめて見られるからこそ気づけることだよな、そういうところが特別展の醍醐味だよな、ビアズリーはあんまり私の趣味じゃないとか言ってスルーしてないで美術館に足を運んでよかったよかった。

 

 いやほんと、25歳の若さで結核で死去していなければ、その先の作風がどう変わっていっただろうと思うと残念でならない。私自身が更年期もそろそろ終わりそうな年齢になったからこそつくづく思う。誰であろうと夭逝なんてもったいないだけだ(もちろん、ビアズリー本人は若くして死ぬこどなど全く望んでいなかっただろうけど)。

 教皇選挙=コンクラーベは、日本語の「根比べ」と音が似ているせいで一度聞いたら忘れられない専門用語だが、システィーナ礼拝堂の中で繰り広げられる枢機卿たちの選挙戦そのものが映画の主題になるとは思わなかった。ましてや、キリスト教徒じゃない人間が観てもこんなにもおもしろい作品に仕上がるとはね——ローマ教皇が急死したため、レイフ・ファインズ扮するローレンス枢機卿がとりいそぎコンクラーベを指揮することになったものの、徳の高いお坊さんしかいないはずの場でゴシップやら陰謀やらが次から次へと飛び交いまくってもうタイヘンだ!

 

 

 レイフ・ファインズを筆頭に、スタンリー・トゥッチやジョン・リスゴーといった、できる俳優たちがうまい芝居を見せているのは確かながら、私としては監督のエドワード・ベルガーのことも大いに褒めたい。Netflix配信だった前作『西部戦線異常なし』でも思ったけど、状況を余計な言葉で説明せず映像でわからせてくれる——枢機卿たちがいかに「男だけの世界」で生きているか、それでいて修道女たちがいかに「男だけの世界」のケアに従事させられているか。

 

 にしても、「ローマ教皇になりたいと思う人間はローマ教皇に向かない」とか何とかいうセリフが出てきた時、「人を支配したがる人は、人を支配したがっているというその事実によって、人を支配するのにふさわしくない人である。(略)支配者になりたいと望む者は支配者になれないとしたら、いったい誰が支配者になれるというのだろう」(ダグラス・アダムス『宇宙の果てのレストラン』)を思い出さずにいられなかった。さてさて映画『教皇選挙』では、急死した教皇の後任として、本当にふさわしい人がローマ教皇に選ばれるでしょうか?!