セットで使うのもオススメなaptX LL対応のBluetoothトランスミッター&レシーバー「TT-BA08」と「HEM-HC-BTRATX」レビュー

TSdrena「HEM-HC-BTRATX」

 無線オーディオに対応しない端末とアンプをBluetooth化したかったので、Bluetoothレシーバーとトランスミッターを購入した。入手したのはTaoTronicsの「TT-BA08」とTSdrenaの「HEM-HC-BTRATX」で、両者とも新しいBluetooth 4.1の規格に対応するだけでなく、高音質かつ低遅延のオーディオ送信コーデック「aptX Low Latency」に対応しているのが特徴となっている。
 aptX(というか正確にはA2DPの圧縮フォーマット)の何が重要なのかは、前に以下のような記事を書いたので、わからない人は参考にしてみてほしい。

 新しい規格に対応しているだけあって、価格は少し高めだが、両方ともかなり便利に使えている。約2か月ほど利用して評価が固まってきたので、それぞれを使い勝手や音質などをレビューしてみたい。特に「低遅延で無線オーディオを楽しみたい」という人の参考になると思う。

レシーバーとトランスミッターの両方として機能する、多機能なTaoTronics「TT-BA08」

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 TaoTronicsの「TT-BA08」はレシーバー(受信)とトランスミッター(送信)の両方の機能を持つ、Bluetoothオーディオ機器だ。入出力を兼ねる端子はステレオミニのアナログのみだが、バッテリーを内蔵しており、どこにでも持ち出して使用できる。具体的なスペックは以下の通り。

「TT-BA08」スペック表
BluetoothバージョンBluetooth 4.1
対応プロファイルA2DP, AVRCP(※1)
対応コーデックSBC, aptX, aptX Low Latency
出力端子3.5mmステレオミニプラグ
バッテリー駆動時間20時間
付属品USB充電ケーブル, 3.5mmステレオミニオーディオケーブル, 3.5mmステレオミニメス←→RCAオス変換ケーブル
備考※1:説明書には「ACRCP」と書かれているが、恐らく誤植

 レシーバーとトランスミッターの切り替えはスライド式のボタンでおこない、「TX」に合わせるとトランスミッター(送信機)、「RX」に合わせるとレシーバー(受信機)になる。当然ながら送信機能と受信機能は排他利用になっており、同時に使用することはできない。また、切り替えを使用中におこなうと正常に動作しなくなることがあったので、基本的に送信と受信を変更するときは、一度電源を切ってからおこなった方が良さそうな印象だ。
 ペアリング情報はレシーバーモードでは1台のみが保存可能で、電源を切るたびに前回ペアリングしたBluetooh機器へ自動で接続しに行くが、トランスミッターモードでは2台までのマルチペアリングに対応している。自分の手元には今Bluetoothオーディオの受信機が1台しかないので試せていないが、設定方法は説明書に書かれているので、アンプやスピーカーを複数台持っている場合には役立つのではないだろうか。

「TT-BA08」の操作部
「TT-BA08」の操作部分。電源はペアリング機能も兼ねている丸いボタンで、四角いボタンはボリュームの変更や曲の選択に使用する。受信モードと送信モードはスライドスイッチで切り替えるので、間違って操作してしまうことはまずない

 電源とペアリングを兼ねたボタン以外には、Bluetooth規格に準拠した操作ボタンが2つ付いており、普通に押すと選曲、長押しするとボリュームを調節できる。手元に送信元のスマートフォンなどがある場合はそちらで操作した方が早いが、本体が鞄の中や離れた場所にあるときには便利に使えるはず。
 バッテリーによる稼働時間は正確には計っていないが、Bluetooth 4.0接続時はかなり長時間使えるので、スペックどおりの20時間……は言い過ぎにしても相当にもつ印象だ。また充電しながらでも使えるので、自宅やモバイルバッテリーを持っている環境なら、事実上使用時間に制限はないので便利。ただ、動作状態を表すLEDの光はかなり抑えめなので、バッテリー切れお知らせの点滅に気がつかずいつの間にか電源が切れていた、ということはあった。

 さて重要な遅延と音質だが、aptX Low Latencyで接続している場合は「すこぶる良い」という印象だ。
 元々自分はこれをトランスミッターとしてゲーム機に繋いで使うつもりだったので、音声の遅れが非常に少ないと言われるaptX LL対応製品を選んだのだが、実際に使っていても遅延が気になる場面はない。画面と効果音がズレたりすることもないし、ノイズも乗らず、接続も安定している。送信機としては100点を付けてもいいという印象だ。

 音質は上述のとおりに「aptX機器同士で接続すれば十分に良い」が、本機がaptX対応するのはトランスミッター(送信)モードのみのようで、レシーバーとしてはそこまで音質が良くない。アナログ接続でアンプに接続したTT-BA08で音楽を聴いてみた場合では、「聞いてられない」というほどではないものの、全体的にボンヤリしたような音になってしまう。

 レシーバーではaptX非対応という問題が、一番大きな影響を与えているのが「イヤホン接続時」だ。音声の再生時に「サー」というホワイトノイズがのってしまい、かなり気になる。実際は音声が流れるときはノイズは「音の裏」に隠れるため、気にならない時もあるのだが、音声が途切れた瞬間にノイズがのっているのがわかるのが、正直なところ結構耳障り。イヤホンは手元の数種類を試したのだが、基本的に全部同じようにノイズが聞こえるので、イヤホン側の問題ではなく、恐らくSBCで圧縮されているせいなのだろう。機械的なノイズは聞こえないので、この辺りの「コーデックによるノイズ」はかなり残念だ。

 ただ、自分は本機を主にトランスミッターとして使っているため、これが問題になることはなかった。前述のとおり送信機としては100点満点で、受信機として使っても直接イヤホンを繋いだ場合を除けば、それなりに我慢はできるレベルだった。ハッキリ言えばレシーバーモードでもaptXに対応してほしかったと強く思うが、「Bluetoothで高品質かつ低遅延でサウンドを送信したい」とか「レシーバー機能はおまけでいい」という人には満足できる製品と言えそうだ。

aptX LL/AAC対応でアナログ出力のみならずS/PDIFも備えた“全部入りBluetoothレシーバー”の「HEM-HC-BTRATX」

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 TSdrenaの「HEM-HC-BTRATX」は、出力にアナログRCA 2chと光デジタル出力(S/PDIF)を備えたBluetoothオーディオレシーバーだ。上記のTT-BA08とは違いトランスミッター機能は持っておらず、純粋な受信機となっている。対応コーデックはaptX LL(aptX)以外にAACにも対応しており、iPhoneやiPadを利用している人でも、高音質で音楽(音声)を楽しめるのが嬉しいところ。実際のスペックは以下の通り。

「HEM-HC-BTRATX」スペック表
BluetoothバージョンBluetooth 4.1
対応プロファイルA2DP, IOPT
対応コーデックSBC, AAC, aptX, aptX Low Latency
出力端子2ch RCA, 光デジタル出力(S/PDIF)
バッテリー駆動時間なし(未搭載)
付属品USBケーブル, 3.5mmステレオミニオーディオケーブル, 3.5mmステレオミニメス←→RCAオス変換ケーブル
備考-

 サイズが突起部を含めて9cm各と若干大きめ(RCAコネクタを除くと少し横長)で、かつ目立つアンテナがあることを見ればわかるように、携帯するタイプのハードではなく据え置きでの使用を想定しているため、バッテリーは内蔵していない。電源はUSBから供給するタイプだが、別途電源用のアダプタを用意すれば、通常のコンセントも使用できる。
 ただ、例えばアンプのUSBコネクタに差して使えば本体と連動して電源がON/OFFされるため、基本的には接続する機器から電源を取った方が便利に使える。

 電源が入った瞬間から自動でペアリングが始まり、接続する機器がない場合は、一定時間で自動に電源が切れる。電源のLEDはペアリング時が点灯、ペアリング中/接続機器が見つからないときは点滅、電源OFF時が消灯となっていてわかりやすい。受信状態も外付けの大きいアンテナがあるおかげか非常に良好で、室内で普通に使っている限りは切れたことは1回もなかった。通信安定性は相当に高いようだ。
 なお、ペアリング情報は8個まで記憶できるため、利用予定の機器が多い人でも大丈夫だろう。

「HEM-HC-BTRATX」のインターフェース部
「HEM-HC-BTRATX」のインターフェース部分。目立つ金メッキされた2ch RCA(アナログ)出力と、黒いS/PDIF出力があり、同時に使うことも可能なのが結構嬉しい。電源はマイクロUSBコネクタで、付属のケーブル使ってアンプなどのUSBコネクタに接続する

 肝心の音質はS/PDIFを使ったデジタル接続はもちろん、2ch RCA(アナログ)接続でもほぼ文句なしのクオリティだ。S/PDIFを使えば通常の有線接続との違いはまったくわからないレベルだし、公式サイトで“高性能DAC(旭化成エレクトロニクス AK4396)を内蔵しており高音質アナログサウンドを出力できます”とうたわれているだけあって、アナログの品質も高い。
 具体的にはaptXで接続すれば、イヤホンを直接(正確には付属の変換ケーブル経由で)繋いでも、上記のTT-BA08と違いホワイトノイズは一切のらないし、価格が比較的高いモデルだけあって、重量感がある金属製のボディを含めて作りはしっかりしてる。またaptX Low Latency対応なので、もちろん(対応機器同士で接続すれば)遅延はまったく感じない。

 なお、S/PDIFと2ch RCAは実際の接続に関係なく常に両方に出力されるようになっているため、デジタルとアナログを使って2つの機器を同時に接続することも可能だ。利用環境によっては嬉しい仕様だろう。

 機能的には「同軸デジタル出力とステレオミニ出力もあればなお良かった」というぐらいしか不満点がないのだが、唯一アナログ出力にイヤホンを直接繋いだときに、「キーン」という高周波のようなものが聞こえることがあるのが、少しだけ気になった。音声再生時にはまったく聞こえないので実害はないのだが、上記のTT-BA08とは逆に「何も音がしてないとき」に鳴るので、恐らくコーデックの問題ではないだろう。まあこれは単に個体の問題かもしれず、前述のとおり実際の音質には影響を与えるものではないので、大したトラブルではないのだが。

 とにかく「レシーバー」に特化した機器であるために、機能性では上のTT-BA08に劣るが、音質はこちらの方が間違いなく上だと感じる。記事執筆時点で7000円弱と多少高いのは事実だが、デジタル出力可能な高品質Bluetoothレシーバーがほしいなら、選んで損はないはずだ。

送信に「TT-BA08」、受信に「HEM-HC-BTRATX」を使うことで、自分にとって最強のBluetoothオーディオ環境が完成した

 上の方でも少し書いたのだが、自分がTT-BA08とHEM-HC-BTRATXを買ったのは、「携帯ゲーム機のサウンドを自宅のオーディオ環境で再生したかった」からだ。具体的には3DSやPSPなのだが、所有者ならご存じのとおり、これらの携帯機に付いているスピーカーは非常に小さく音も悪い。今は携帯ゲーム機も高性能で、サウンド機能はそこまで悪くないのに、スピーカーで台無しという感じなのだ。
 もちろんイヤホンを使う方法や、そのイヤホン端子からアンプに有線で繋ぐ手もある(し、実際は一時期やっていた)のだが、今度はケーブルが邪魔になる。据え置きゲーム機も無線コントローラーが当たり前になった今、今更ケーブルに煩わされるのが嫌だったのだ。というわけで、Bluetoothレシーバーとトランシーバーに白羽の矢が立ったのだった。

 ただ、ゲーム機を繋ぐことを考えると、真っ先に考えないといけない問題は「遅延」だ。ゲームは頻繁に効果音が流れ、もちろんそれが画面と同期するのが当たり前なので、意識できるほど音が遅れてしまえばゲームに集中できないし、違和感も大きい。音は当然良いに越したことはないが、とにかく画面と音がズレる事態は避けたかったのだ。

 遅延の少なさを最優先に考える場合、現状のBluetoothではaptX Low Latency規格に頼るのがほぼ唯一の選択肢になる。公式サイトによるとその遅延は“40ms以下”、個人ブログの検証結果だと“29ms”という値も出ていて、これならゲームでも不満を感じることはない数値。今回この2機種を買ったのも、「aptX LLを使えば、高音質かつ低遅延でゲームサウンドが楽しめるはず」と踏んでのこととなる。

aptX Low Latency for Bluetooth は、エンドツーエンド遅延を全体で約 40 ミリ秒(ms)以内に抑えます。これは、150 ミリ秒(+/-50ms)以上という標準的な Bluetooth 遅延に比べはるかに小さく、音声/映像に対して推奨されている遅延 40 ミリ秒に対応しています。

そのため、映像やゲームでのワイヤレスオーディオ伝送に最適と言えます。

CSR aptX Low Latency Audio Codec for Bluetooth

ということで、前回と同じく遅延時間を計測してみることに。方法自体はまったく同じで、ひとつのモノラルソースを2つに分け、Bluetoothとケーブルで伝送。それぞれをL/RチャネルとしてPCに入力して録音する、というモノです。

その結果がこちら。遅延時間はなんと29ms。これこそが"aptX Low Latency"の真の実力といえるでしょう。

ニュースやドラマの視聴において、192msもの遅延があると口の動きと音声に微妙な時間差が生じるため少々の不自然さを感じますが、29msでは遅延を認識することの方が難しくなります。

また、ゲームを楽しむ場合で考えてみると、60fpsで約2フレーム分ほど音声が遅れることとなります。卓越した視力・聴力・情報処理能力を兼ね備えたスーパーゲーマーでもない限り、操作に影響することはなさそう。

真aptX Low Latencyを試してみる | Wasters haven.

 で、結果としてこの選択は大正解だった。両者をペアリングすればaptX LLで接続されるため、遅延を感じることなくゲームが楽しめ、かつ音も良い。トランスミッター側のTT-BA08だけは、マジックテープ(面ファスナー)でゲーム機に固定するという一工夫が必要だったが、それさえクリアすればノートラブル。レシーバーのHEM-HC-BTRATXはアンプに接続されたまま、ゲーム以外にもaptX対応のスマートフォンとペアリングして音楽を聴いたり、PCのサウンドデバイスとして非常に便利に使っている。両方とも買って満足している一品だ。

 最後に(片方はトランスミッターにはならないので)「レシーバーとして選ぶならどっち?」という問題についてまとめると、単純に音質や出力端子の豊富さで考えれば「HEM-HC-BTRATX」に軍配が上がる。アンテナがあるだけに電波を掴む力も強く、アンプとセットで使うならぴったりだ。
 反面、TT-BA08は小型でバッテリーを内蔵しており、使う場所を選ばない。持ち歩いたり、電源がない場所で使いたいなら、自然とこちらを選ぶことになりそうだ。ただ音質に関しては、HEM-HC-BTRATXと違いレシーバーではaptXに対応していないので、相当に劣る。前述のとおり「トランスミッターがメイン」か「あまり音質は気にしない」という人が選ぶべき商品だろう。