⑴ 法律あるいは法学というと、何か堅苦しいイメージを持つ学生が多いように思う。確かに、法律の中には、一読しただけではその内容を理解するのが困難な条文もあるし、法学は説得の学問であって、論理的な整合性を非常に重視する。しかし、人間が社会生活を送るうえで、切っても切り離せないのが、法律というものである。したがって、商学部の学生も、大学時代に法学のエッセンスを学んでおくべきであろう。 特に、コンプライアンス(法令遵守)が声高に叫ばれる今日、21世紀のビジネス界をリードしていくであろう早稲田大学商学部生としては、ぜひともビジネスにまつわる法律を学び、その考え方(リーガルマインド)を涵養しておく必要がある。この観点から、早稲田大学商学部において必修科目とされているのが、『ビジネス法入門』である。 ⑵ 本授業は、『ビジネス法入門』を受けて、同科目で学んだ民法の基礎知識をより広くするとともに、より深くすることを目的とするものである。『ビジネス法入門』では、ビジネスの観点から特に重要な民法の制度のみを取り上げて概説した。すなわち、限られた時間の中で、民法の中の、ごく一部のみを紹介することができたに過ぎない。 ⑶ しかしながら、民法は1050条を誇る大法典であり、その範囲はきわめて広いものである。そして、そもそも民法とは、一般市民が社会生活や取引をする際に生じた問題を解決するための法律のことである。一般市民が個人として社会生活を送る際にはもちろん、会社組織が取引行為をする際に問題が生じた場合にも、民法によって、その問題が解決されることが多い。 したがって、民法は、21世紀のビジネス界をリードしていく早稲田大学商学部生が在学中に、より詳しく学んでおくことが望ましい、重要な学問領域なのである。特に、2020年4月1日から、民法の中でも、債権法と呼ばれる分野の大改正が施行されており、ビジネス界も大注目の状況である。さらに、相続法改正や成年年齢改正、所有者不明土地の問題に対応するための物権法改正、親族法改正がすでになされており、担保物権法やマンション法等の改正も予定されている。 ⑷ このように、ますます注目される民法の世界をより広く、より深く学ぶために、早稲田大学商学部に新たに設置された科目が、『民法Ⅰ』・『民法Ⅱ』・『民法Ⅲ』である。このうち、『民法Ⅱ』では、物権法、家族法と呼ばれる分野を講述することにしたい。 法科大学院での教育経験を踏まえながら、商学部に設置された民法科目として相応しいものとなるよう、高度な内容でも具体的な事例を素材とつつ、出来るだけ分かりやすく民法の世界を教えることで、民法や法律の「おもしろさ」と「奥深さ」を伝えていきたいと思う。 (5) なお、授業の方法は、オンデマンドによる講義と対面授業における議論・演習のハイブリッド方式を採用する。一方的な講義では到達できなかったところまで、受講者諸君を導くことができるように努めたいと考えている。
|