「高大連携」が年内入試につながる 連携大学が多い私立高校は「塾いらず」と専門家 | 朝日新聞Thinkキャンパス

■特集:多様化する年内入試

総合型選抜や学校推薦型選抜といった「年内入試」に比重を置く大学が年々増加しています。私立大学を中心に、年内入試によって、受験生を早期に獲得したいという大学側の狙いもあるようです。一方、高校と大学との連携が広がり、年内入試への足がかりになる事例も増えています。「高大連携」は入試にどう影響を及ぼすのでしょうか。追手門学院大学客員教授で学習塾業界誌「ルートマップマガジン」の西田浩史編集長が解説します。(写真=亀田医療大学での宿泊学習に参加する高校生〈希望者のみ〉、神田女学園提供)

年内入試につながる、高大連携

昨今、「高大連携」という言葉が活発に使われるようになりました。これは文部科学省が推進している取り組みで、高校生に大学レベルの教育研究に触れる機会を提供するものです。これまでは隔たりがあった高校と大学との接続を柔軟に捉えることで、生徒一人ひとりの能力を伸ばすための教育のあり方として浸透してきています。

高大連携の取り組みとして一般的なのは、高校生が大学の講義を受けたり、大学の教員が高校に出張授業に出向いたりするスタイルです。ユニークなものとして、例えば慶應義塾大学先端生命科学研究所が2009年から実施しているのは、近隣の高校の生徒を「研究助手」として任用するプログラムです。研究助手は毎日、放課後に所属プロジェクトの担当業務を行い、対価として時給も支払われます。

筆者が全国の300塾に聞き取り調査を行ったところ、「高大連携に注目している」という回答は62%でした。その理由については、「高大連携によって年内入試につながる指導がしやすくなる」が70%でした。なかには「中学生や高校生の生徒が受験校を決める際に、連携している大学のラインアップを見てアドバイスしている」という塾関係者もいました。

(グラフ=ルートマップマガジン社が2023~2024年に全国300塾に実施した聞き取り調査をもとに編集部作成)

なぜ高大連携が年内入試に役立つのでしょうか。

総合型選抜や学校推薦型選抜といった年内入試は、学びへの意欲や大学で何をやりたいかなどが重視される入試方式です。多くの大学で、志望理由書のほか、小論文や面接、グループディスカッションやプレゼンテーションなどで合否を判定します。

高校生の段階で大学の学びに触れることは、研究の面白さを知って将来の視野を広げたり、やりたいことを見つけたりできる可能性が広がります。また、授業を通じてレポートを作成したり発表したりすることで、小論文やプレゼンテーションの力を伸ばすことも期待されます。早い段階から生徒の大学入試に対する目的意識を高めることにもつながると考えられます。

高大連携が年内入試に影響

一方、大学側には受験生を獲得したいという思惑もあります。

最近の流れとして、とりわけ高大連携に力を入れているのが、年内入試での受験生獲得を推し進める中堅私立大学や地方国公立大学です。早い段階から大学のことを認知してもらうことで、優秀な学生の獲得に結びつけられる可能性があります。将来的に自分の大学で学んでもらうために、学問に興味を持つきっかけをつくるのも目的の一つです。また、高校教育をサポートすることで、その地域の地域貢献や大学の意義を向上させる利点もあります。

こうした高大連携プログラムを実施することによって、年内入試で結果を出している高校の事例をいくつか紹介します。

最近、注目されているのは、医学部や医療・看護系学科を持つ大学と高校との高大連携です。たとえば、東京医科大学吉祥女子(東京)や巣鴨(東京)と、順天堂大学昭和女子大学附昭和(東京)と連携しています。

難関大や理系学部を持つ大学との連携も進んでいます。法政大学三輪田学園(東京)、山脇学園(東京)、工学院大学附(東京)と連携しています。芝浦工業大学佐藤栄学園(埼玉)との連携は、同大学が高校生に講座を実施することにとどまらず、独自の推薦制度も設けられています。

「塾いらず」と呼ばれる高校も

協定大学の数で群を抜くのが、神田女学園(東京)です。同校では、校長が自ら全国の大学を巡り、年内入試の志望理由書や面接で強みを発揮できる多数の高大連携プロジェクトを実現しています。それも、中央大学理工学部、神田外語大学、三条市立大学、北海道医療大学、福岡工業大学など全国69(2024年10月現在)の名だたる大学名が並び、首都圏の100塾へのアンケートでも、61%の塾が同校を「年内入試において、塾いらずの高校」として注目していることがわかりました。

同校の高大連携の取り組みのひとつが、「NCLプロジェクト」という探究活動です。中学1年次から自分の興味のあることを調べ、研究結果をプレゼンする取り組みを繰り返しますが、生徒たちが研究するテーマは、「時代と共に変化するオタクとオタ活のあり方」「ディズニープリンセスに見る女性の地位向上の変遷」「小児患者に対する音楽療法の可能性」など多種多様です。

また研究の成果を発表する「NCL AWARDS」では、昨年は39の協定大学が参加して審査しました。各大学は、入試におけるレポートの評価基準などを用いて生徒の論文を審査し、優秀な論文には、「〇〇大学賞」などの賞も与えられます。

探究活動の研究過程では、協定校の大学教員と生徒をZoomでつなぎ、アドバイスをもらうこともあるようです。学業では同級生に引けをとっている生徒が、探究で賞をもらって自信をつけることもあります。大学の学部を決めるきっかけになったり、そのまま入試における志望理由書やレポートに生かしたりする生徒もいます。

大学入試の総合型選抜や学校推薦型選抜では、学力の3要素(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度)を重視する多面的な評価軸で高校までの「体験」が問われます。そこでは、その人らしい学習動機や成果が重視されます。高大連携の取り組みは、入試につながるステップとして今後も大きな意味を持つはずです。

>>【特集】多様化する年内入試

(文=西田浩史)

西田浩史(にしだ・ひろふみ)/「週刊ダイヤモンド」記者、学習塾業界誌「月刊私塾界」「月刊塾と教育」記者を経て、2019年から追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員、20年から同大客員教授。22年に学習塾業界誌「ルートマップマガジン」編集長に就任。24年からオンライン予備校「ただよび」(登録者数36万人)進学アドバイザーも務める。これまでに全国5000塾(2万人)を取材。著書に『最新 医学部&医者』『関関同立』『最強の高校』(すべて週刊ダイヤモンド 特集BOOKS ダイヤモンド社)。

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【写真】「高大連携」が年内入試につながる 連携大学が多い私立高校は「塾いらず」と専門家

全国300塾に聞きました(グラフ=ルートマップマガジン社が2023~2024年に全国300塾に実施した聞き取り調査をもとに編集部作成)
全国300塾に聞きました(グラフ=ルートマップマガジン社が2023~2024年に全国300塾に実施した聞き取り調査をもとに編集部作成)

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